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第1話 工房と名前とドラゴン
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「カラスじゃねぇか!!!」
俺は叫んだ。
なにせ自分がカラスだったからだ。当たり前だ。
異世界転生なんだからなんか良い感じの職業の人間になって無双するものと思っていた。
いや、業界にそんなに詳しくないけど人外になってるケースもなんとなくは知っている。
だが、俺は人間になる気がしていた。
しかし、それはまるで根拠のない自信だった。
実際俺は今カラスになっていたのだから。
「そりゃカラスでしょ。なに、あんた今まで自分を人間だと思ってたの?」
目の前のには亜麻色の長い髪の魔法使いの少女(端正な顔立ちで豊かな胸をしておりプロポーションは抜群に見える)が立っている。
「い、いや。なんというか、ははは」
俺は笑うしかない。本当に笑うしかない。
なにせ、俺の第二の人生はカラスだと確定してしまったのだ。仏教で言えば畜生道ではないのか。控えめに言って罰の類ではないのか。
あの女神はニコニコしながら俺に天罰を下したのか。
「訳わかんないけどいきなり喋り出すんだからびっくりしたじゃない。なに、いきなりなにがあったのよ」
少女はいぶかしげに俺を覗き込んでくる。
端正な顔立ちが至近距離に来るのだから俺は若干ドギマギするが。
「め、女神様のお導きって感じかな」
とりあえずなんとかごまかそうと試みた。
「ふぅん、女神様のねぇ。まぁ女神様の祝福で奇跡が起こる話はたびたび聞くけど、なんでいきなりあんたがしゃべりだすのかわかんないわね。一昨日使い魔にしたばっかりのあんたが」
「日頃の行いが良かったんじゃないのか」
「ふぅん」
少女は目を細めてかなりの疑いの目を向けてきた。
顔が良い女性の疑いの眼光というのはかなり恐ろしい。
ここで俺の中身がうだつのあがらないおじさんだとバレたら一体どうされるか分かったものではない。
俺はごくりと喉を鳴らす。
「まぁ、今は別に良いか。かなーり気になるけど本当に奇跡の類なら気にしても理由なんかないし」
「い、良いのか」
「そりゃあそうでしょ、それどころじゃないんだから。なに、あんたこの2日の記憶とかないわけ?」
「......今までカラスだったから人間の言葉はわかってなかったんだと思う」
「はぁ? じゃあ、私の名前とか今の状況とかも? まぁ、でもカラスじゃ分かってないのも当たり前か」
少女は肩をすくめた。
なんとか納得してもらえたらしい。
しかし、なにか話の流れから現状が普通ではないような雰囲気を感じる。
「しゃべれるなら、あんた自分の名前とかあるの? どうしようか考えてたんだけど。カラスに名前があるのかは知らないけど」
「名前?」
そうか、この少女は俺に名前をつけようとしていたのか。
「と、トーマ」
少し考えて俺は自分の名前を外国っぽくして名乗った。
「へぇ、案外普通の名前してんのね。カラスってそんなもんなのかしら。ちょっと面白いわね」
少女はクスクス笑っていた。少しは印象を和らげられただろうか。
「それじゃあ、トーマ。一応状況を説明すると、あんたは私の使い魔よ」
「使い魔? 魔法使いの手下ってことか?」
「まぁ、要するにそういうことね。あんたは私のために働くかわいい手下ってこと。それであんたには私の目的を手伝ってもらうってわけ」
「目的?」
なるほど、この少女にはなにかの目的があるのか。そのためにこの体のカラスを使い魔にした。
だが、それはつまり俺はこの少女の部下になったということに他ならない。
ならば、知っておきたいことはこちらにもある。
「あんたの目的を聞く前に良いか?」
「ん? なに?」
「あんたの名前はなんて言うんだ?」
「あー、なるほど。カラスでも自分の雇い主の名前は気になるか。そうね、私の名前は....」
その時だった。
──カンカンカンカンカン!!
けたたましい鐘の音が響き渡った。
これは外からだ。
「来たか!!!」
その音を聞くや少女の顔が一気に険しくなった。
「行くわよトーマ!」
「行く!?」
そう言うや少女は部屋の奥にあった扉を開け放ち外に飛び出していった。
俺もそれについていく。
驚くべきことに、なにも考えなくても当たり前のように俺は羽をはばたかせて飛んでいた。
歩いたり走ったりするのと同じだった。
俺は飛んでいることに感激したが、今はとにかく少女についていく。
ドアをくぐり外に出る。
そこは広場だった。
目の前に大きな城がある広場。その片隅に少女の家はあったらしい。城はしかし至る所が崩れていて廃れていた。
少女は広場の真ん中へ走っていく。
そこにまさにファンタジーと言った感じの鎧姿の戦士たちも集まっていた。
俺もそこへ羽を羽ばたかせて駆けつける。そして、恐る恐る少女の肩に止まった。
「法陣は完成してるわ。使うなら使って」
「おう、今日こそ仕留めてやる!」
少女と戦士たちは口々に会話している。
俺はなにがなんだか分からない。
そんな俺たちの周囲が急に暗くなった。
いや、しかしそれは上でなにかが太陽をああえぎったからだった。
「来た!!!!」
少女は上を睨んだ。
同時に突風が起きる。なにかが大きなものがすさまじい速度で俺たちの上を通り過ぎていったのだ。
それは俺の何十倍、いや何百倍という大きさの羽を翻し、大きな城の尖塔の上に降り立った。
それはドラゴンだった。
白い鱗のドラゴン。体だけで俺たちが出てきた家屋3つぶんくらいの大きさはある。広げた羽はそのさらに倍。
それは尖塔にしがみつき、そして大きな咆哮を上げた。
あたりに爆音が轟いている。
巨大で美しく、そして恐ろしいドラゴンがそこにいた。
俺は次々と理解不能のことが起きて固まるしかなかった。
そんな俺に少女は言う。
「さっき言おうとした私の目的。それはあいつを殺すこと。そのためにあんたを使い魔にした。私の名前はリーゼリット・アルメルク。よろしく頼むわよトーマ」
よろしく頼むわよと言われながら俺は目の前の巨獣をあんぐり口を開けながら見ていた。
こんなもん倒せるとは思えなかった。
少なくともただのカラスに何ができるものか。
俺は叫んだ。
なにせ自分がカラスだったからだ。当たり前だ。
異世界転生なんだからなんか良い感じの職業の人間になって無双するものと思っていた。
いや、業界にそんなに詳しくないけど人外になってるケースもなんとなくは知っている。
だが、俺は人間になる気がしていた。
しかし、それはまるで根拠のない自信だった。
実際俺は今カラスになっていたのだから。
「そりゃカラスでしょ。なに、あんた今まで自分を人間だと思ってたの?」
目の前のには亜麻色の長い髪の魔法使いの少女(端正な顔立ちで豊かな胸をしておりプロポーションは抜群に見える)が立っている。
「い、いや。なんというか、ははは」
俺は笑うしかない。本当に笑うしかない。
なにせ、俺の第二の人生はカラスだと確定してしまったのだ。仏教で言えば畜生道ではないのか。控えめに言って罰の類ではないのか。
あの女神はニコニコしながら俺に天罰を下したのか。
「訳わかんないけどいきなり喋り出すんだからびっくりしたじゃない。なに、いきなりなにがあったのよ」
少女はいぶかしげに俺を覗き込んでくる。
端正な顔立ちが至近距離に来るのだから俺は若干ドギマギするが。
「め、女神様のお導きって感じかな」
とりあえずなんとかごまかそうと試みた。
「ふぅん、女神様のねぇ。まぁ女神様の祝福で奇跡が起こる話はたびたび聞くけど、なんでいきなりあんたがしゃべりだすのかわかんないわね。一昨日使い魔にしたばっかりのあんたが」
「日頃の行いが良かったんじゃないのか」
「ふぅん」
少女は目を細めてかなりの疑いの目を向けてきた。
顔が良い女性の疑いの眼光というのはかなり恐ろしい。
ここで俺の中身がうだつのあがらないおじさんだとバレたら一体どうされるか分かったものではない。
俺はごくりと喉を鳴らす。
「まぁ、今は別に良いか。かなーり気になるけど本当に奇跡の類なら気にしても理由なんかないし」
「い、良いのか」
「そりゃあそうでしょ、それどころじゃないんだから。なに、あんたこの2日の記憶とかないわけ?」
「......今までカラスだったから人間の言葉はわかってなかったんだと思う」
「はぁ? じゃあ、私の名前とか今の状況とかも? まぁ、でもカラスじゃ分かってないのも当たり前か」
少女は肩をすくめた。
なんとか納得してもらえたらしい。
しかし、なにか話の流れから現状が普通ではないような雰囲気を感じる。
「しゃべれるなら、あんた自分の名前とかあるの? どうしようか考えてたんだけど。カラスに名前があるのかは知らないけど」
「名前?」
そうか、この少女は俺に名前をつけようとしていたのか。
「と、トーマ」
少し考えて俺は自分の名前を外国っぽくして名乗った。
「へぇ、案外普通の名前してんのね。カラスってそんなもんなのかしら。ちょっと面白いわね」
少女はクスクス笑っていた。少しは印象を和らげられただろうか。
「それじゃあ、トーマ。一応状況を説明すると、あんたは私の使い魔よ」
「使い魔? 魔法使いの手下ってことか?」
「まぁ、要するにそういうことね。あんたは私のために働くかわいい手下ってこと。それであんたには私の目的を手伝ってもらうってわけ」
「目的?」
なるほど、この少女にはなにかの目的があるのか。そのためにこの体のカラスを使い魔にした。
だが、それはつまり俺はこの少女の部下になったということに他ならない。
ならば、知っておきたいことはこちらにもある。
「あんたの目的を聞く前に良いか?」
「ん? なに?」
「あんたの名前はなんて言うんだ?」
「あー、なるほど。カラスでも自分の雇い主の名前は気になるか。そうね、私の名前は....」
その時だった。
──カンカンカンカンカン!!
けたたましい鐘の音が響き渡った。
これは外からだ。
「来たか!!!」
その音を聞くや少女の顔が一気に険しくなった。
「行くわよトーマ!」
「行く!?」
そう言うや少女は部屋の奥にあった扉を開け放ち外に飛び出していった。
俺もそれについていく。
驚くべきことに、なにも考えなくても当たり前のように俺は羽をはばたかせて飛んでいた。
歩いたり走ったりするのと同じだった。
俺は飛んでいることに感激したが、今はとにかく少女についていく。
ドアをくぐり外に出る。
そこは広場だった。
目の前に大きな城がある広場。その片隅に少女の家はあったらしい。城はしかし至る所が崩れていて廃れていた。
少女は広場の真ん中へ走っていく。
そこにまさにファンタジーと言った感じの鎧姿の戦士たちも集まっていた。
俺もそこへ羽を羽ばたかせて駆けつける。そして、恐る恐る少女の肩に止まった。
「法陣は完成してるわ。使うなら使って」
「おう、今日こそ仕留めてやる!」
少女と戦士たちは口々に会話している。
俺はなにがなんだか分からない。
そんな俺たちの周囲が急に暗くなった。
いや、しかしそれは上でなにかが太陽をああえぎったからだった。
「来た!!!!」
少女は上を睨んだ。
同時に突風が起きる。なにかが大きなものがすさまじい速度で俺たちの上を通り過ぎていったのだ。
それは俺の何十倍、いや何百倍という大きさの羽を翻し、大きな城の尖塔の上に降り立った。
それはドラゴンだった。
白い鱗のドラゴン。体だけで俺たちが出てきた家屋3つぶんくらいの大きさはある。広げた羽はそのさらに倍。
それは尖塔にしがみつき、そして大きな咆哮を上げた。
あたりに爆音が轟いている。
巨大で美しく、そして恐ろしいドラゴンがそこにいた。
俺は次々と理解不能のことが起きて固まるしかなかった。
そんな俺に少女は言う。
「さっき言おうとした私の目的。それはあいつを殺すこと。そのためにあんたを使い魔にした。私の名前はリーゼリット・アルメルク。よろしく頼むわよトーマ」
よろしく頼むわよと言われながら俺は目の前の巨獣をあんぐり口を開けながら見ていた。
こんなもん倒せるとは思えなかった。
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