休日の市場と吸血鬼

かもめ

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休日の市場と吸血鬼

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 休日の市場は人で賑わっていた。
 国中は元より、国の外からもやってくる様々な品々が人々の目を楽しませている。

 王都の真ん中の石畳の広場には大小様々な露天が並んでいる。

 行き交う人々も様々だ。市民、兵士、魔獣狩り、キャラバンの護衛。ヒューマン、獣人、亜人、隠れて希少な種族も。

 大道芸人が魔術でパフォーマンスを行い、しつけられた魔物が芸を披露している。

 露天で買った肉の串を片手に人々は休日を楽しんでいた。

 とにかく賑やかだった。


「ていうか、本当に良かったの? 晴れまくってるけど」


 そんな市場の真ん中のテントの中で青年は言った。メガネをかけたありふれた風貌の青年だった。


「良いに決まっておる。ただ疲れたから休んでいるだけだ」
「無理しなくて良いんだよ」
「無理なんかしておらぬわ」


 青年の目の前に居るのは少女だった。真っ黒なドレスを着た少女。対照的に髪も肌も真っ白で目は金色だった。

 少女は日をさえぎるテントの中でなお日傘を差していた。

 そして、ものすごく不機嫌そうだった。

 青年と少女は今まさにデートの最中なのだった。


「まったく、人間どもも呆れるわ。こんな群れに群れてなにがしたいのだ。所詮は賢しいだけのサル。集まらねば安心さえ出来ぬと見える」
「そうは言っても、来たいって言ったの君じゃん」
「黙れ。吸血鬼の貴族として人間の社会を確かめに来たまで」


 そうなのだった。少女は吸血鬼なのだった。こう見えて齢400歳を越えているのだった。


「やっぱり夜に出直さない? 夜市も夜市で良いものだよ」
「嫌だな。私は昼の市場が見たかったのだ。賢しいサルどもが最も活動的になる時間を見なければ意味が無い」
「それって、昼の僕と街が見たかったって事?」
「自惚れるな。黙れ」


 少女はそう言って市場を睨み付けていた。傍目には楽しんでいるのかどうかさえ分からない。いや、どう見ても不機嫌極まりないように見えた。

 少女は市場に来た瞬間にこのテントに入りまったく動かなくなった。

 当たり前だが日の光が照りまくっているからだった。吸血鬼は日の光に弱い。日傘をして、手足を覆うドレスを着ても限界はある。少女はかなり位の高い吸血鬼だったが、やはり辛いものは辛いらしい。


「でも、賑やかで良いでしょ。みんな楽しそうだ。平和だなって思うよ」
「ふん、血袋どもが身の程もわきまえず我が物顔だ。不愉快極まりない」
「楽しそうで何よりだよ」


 罵詈雑言の少女に青年は満足げに微笑んでいた。傍目からはすさまじい殺気を放っているだけに見える少女だが、青年には逆に見えているらしい。青年にしか分からない少女の姿があるようだった。

 しかし、少女もいい加減に辛そうだった。青年は砂漠の異国の露天が綺麗なヴェールを売っているのを見つけた。

 あれを被れば少女も少しは楽が出来そうだ。


「あのヴェール良さそうだね。ちょっと買ってくるよ」


 そう言って青年がテントから出ようとした時だった。

 柔らかい抵抗が青年の服に伝わった。
 見れば少女の指が青年の服をつまんでいたのだった。


「い、行くな。我と共にこの哀れな人間どもを眺めよ。これは命令だ」


 少女はなんだか恥ずかしそうだった。


「分かったよ。ならそうしようか」


 青年は微笑んで、少女の横に座った。

 そして、二人はしばらくそうした後、家路についたのだった。

 青年は満足で、少女は相変わらずの不機嫌だった。

 しかし、青年には少女が上機嫌でウキウキしているのが分かるのだった。
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