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第1章 はじめての異世界転生
第7話 想いし者。
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シスターモモは村に来たばかりの頃の事を思い出していた。父はこの村の出身では無い。王国中央の教会から派遣されて来たのだ。
北方の村で神父をしている時、母と出会い結婚して私が生まれた。母は産後の肥立ひだちが悪く体調を崩しがちだった。
そんな時、村が魔物に襲われた。父は私と母を連れて逃げた。だが、襲われた時に負ったケガが元で母は亡くなった。王国中央教会に戻った父は生きる気力を失っていたが、まだ幼かった私の為に神父の居なかったダグの村に赴任したのだ。
父の赴任に村人たちは喜んだが、この地方には珍しい色の髪の毛を持つ私は、村の子供たちとはあまり馴染なかった。
私は父の仕事を手伝うため、早くからシスターとなった。同年代の子供たちのほとんどは結婚して家業を継ぐか大きな遠くの街に出稼ぎに出ていった。年寄りや既婚者がほとんどの村人達はみんな優しくしてくれるけど、私は孤独だった。
父は未だに母の形見のペンダント持って泣いているのを見た事がある。私も父の様に誰かを愛したいし、誰かに愛されたいと想っている。そう思う気持ちと裏腹に私の心はどんどん孤独感を募つのらせていった。
そんな時だ、彼が現れたのは。女神エルムの御信託で召喚された勇者さま。彼は召喚の儀式の途中で、いきなり見たこともない服装で現れ、勇者を名乗った。初めて見た時の印象はおどおど、びくびくして何だか頼りない。本当に勇者さまなんだろうか?
彼を教会に招待して話しを聞いた。私より少し年上の彼は前の世界で事故で死に、女神エルムによってこちらの世界を救うため召喚されたというのだ。とても信じられない様な話を彼は熱心にしてくれた。私もこの村の現状を一生懸命はなした。時おり意味の分からない言葉もあったけど、年の近い男の人とこんなに長い時間話したのは何年ぶりだろう。
しばらく話して気心が知れて来た頃、私はおそるおそる自分の髪の毛の色について尋ねてみた。この髪の色は長年村の中では奇異の目で見られて来た。だからこそ早くから修道服に身を包み髪の毛を隠して、村の為に尽くして来たのだ。勇者さまにこの髪の色で嫌な思いをさせていないだろうか? それだけが心配だった。
「別に変じゃないよ。確かに変わった色だけど、フィルスさんには似合ってて可愛いよ」
似合ってる……可愛い……。父にしか言われた事の無いような言葉を、この勇者さまはサラッと笑顔で言ってくる。しかもファーストネームで呼んでくるのだ。ファーストネームで呼び合うのは家族か夫婦、恋人同士が主にである。それを考えただけでも恥ずかしくて、顔が上気してきた。真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくて話しの途中で逃げ出した。
自分の部屋に逃げ込んで数時間。勇者さまは怒っているだろうか。先ほどの事をちゃんとお詫びしなければ……。勇者さまの部屋を訪ねると彼はもう眠っていた。
安らかな寝顔を見ていると、何だか気持ちが落ち着いてくる。もしかしたら、勇者さまは私の事も救ってくれるのではないだろうか。そんな風に思えてきたのだ。
突然、勇者さまが苦しみ出した。『ハムシが……、ハムシが……』と苦しそうに意味の分からない言葉を発している。急いで水で軽く濡らしたタオルを持ってくると額の汗を拭ぬぐった。
勇者さまも周りに誰も知り合いのいない世界に飛ばされて、世界を救う使命を受けて……一人でとても苦しんでいるに違いない。
明日からお父さんに頼んで【伝説の勇者】の伝承にある復活の呪文を唱えて貰おう! エルム様ごめんなさい、お名前ちょっとお借りします。
次の日、勇者さまは元気に村の中を回っていろいろな話しを聞いてまわった。村の中でも私の事をファーストネームで呼ぶものだからみんなに冷やかされる。もう、本当に顔から火が出そうだ。……勇者さま。私の事、どう思ってるんだろう。
勇者さまが、戦う為の武器や防具が欲しいとの事で村の人達に協力してもらいかき集めたのだが、ろくな物がない。鍛冶屋はあっても取り扱うのは農耕具や家庭用の物だけだ。物置小屋から以前頂いた物をあさって手袋とブーツを見つけた。
サイズが合うように一生懸命手直ししている所を父に見られてしまった。お父さんは『頑張ってるね。フィーの気持ちはきっと勇者さまに通じるよ』と言って笑顔で去っていった。お父さんにまで茶化されてもうどうして良いか分からなくなる。……でも、勇者さまが喜んでくれるといいなぁ。
今日は勇者さまと畑と西の森を偵察に行く事になっている。勇者さまの部屋に行くと中から話し声が聞こえる。誰と話してるんだろう。
「可愛いと言って頂けるのは嬉しいです。でも、お仕事の方も……もっと真面目に取り組んで頂けると、もっと嬉しい……です」
あーもう、なんであんな事言っちゃったんだろう。村の人達が中々動き始めない勇者さまに不満を持ち始めてるのに……御布団かぶって気分転換とか言ってるんだもん。
でも、私もあんな言い方ないよね。勇者さまなりに一生懸命やってるの、一番分かってるのは自分なのに! あー本当になにやってんだろう。
勇者さまがさっきからこちらをチラチラ見て、私の名前を呼んでいる。人前でファーストネームを呼ばれるのは恥ずかしい。でも少し嬉しい。勇者さまとまたお話ししたい。
勇者さまのお顔を見るたび、名前を呼ばれるたび、ドキドキする。胸が苦しくなる。私、たぶん……勇者さまが好き……なんだ。まだお会いしてから数日しかたっていないというのに。
『フィルスさん』そう笑顔で私の名前を呼ぶ勇者さまが好き。
『フィルスさん』困った顔をしてため息を漏らす勇者さまが好き。
『フィルスさん、案山子かかしってこの村にありますか?』意味の分からない事を言って私を困らせる勇者さまも好き。
ああ……エルムさま。私はシスターなのに……彼の事をそばでずっと見ていたい。彼に強く抱きしめられたい。そんな事ばかり考えてしまう私はいけない子ですか? 神に仕える身として失格ですか?
でもそれでもこの気持ちが抑えられない。エルムさまほんの少しでいいんです、彼は私の事をどう思っているのか知りたい。彼の口からそれを聞きたい。私の事なんて好きじゃない……それなら諦めます。あきらめられないだろうけど諦めます。
でももし、少しでも可能性があるなら……少しでも想って頂けるのなら、私は……。
エルム様のお力だろうか、私の願いを聞き届けてくれたのでしょうか。勇者さまがまた独り言を言い始めた。『フィルスの……感度を上げて、……いただこう……だ』
勇者さま……ビートさま、それってどういう意味ですか? 私はお側そばに居てもいいんですか? それとも私の勝手な妄想ですか? 分からない……分からない……分からない! 突然涙があふれてくる。ビート様にこんな顔を見られたら……恥ずかしい。嫌われてしまうのが怖い。
私は逃げ出した。その場から走り出した。いつものあの場所に向かって。一人になれるあの場所へ。辛い時、悲しい時、私はいつもここに来た。木々の間から差し込む光で暖められた大きな岩が、私を優しく温めてくれる。
『まぁ、シスターモモがマスターを見る目はいつも潤んでますからね。好き好き勇者さまー!! みたいな感じぢゃないですかね?』
「ティー、それって全部お前の妄想だろ。お前が言うと嘘くさくしか聞こえないんだよ。だいたい、俺はモテ要素ゼロだぞ、ゼロ!」
『それはマスターの世界での事ですよね』
「こっちに来てからはただのニートだし」
『マスター、そういうめんどくさいとこがモテないんですよ。あっ、そろそろ見えてきましたよ』
日比斗が獣道を走り抜けると背の低い草が生い茂る広場が見えてきた。端の方に1メートル位の高さがある大きな岩があり、そこに寄りかかる様にシスターモモが座り込んでいる。
『マスター、まずいです。かなりの数が集まっています。30……いや40体以上かもしれません』
「あぁ、分かってる。スゲーやばい」
シスターモモのいる岩の向こう側の森には憎悪に満ちた赤く光る無数の目が、どんどん集まって来ており、こちらの動向をうかがっているようだった。
ーつづくー
北方の村で神父をしている時、母と出会い結婚して私が生まれた。母は産後の肥立ひだちが悪く体調を崩しがちだった。
そんな時、村が魔物に襲われた。父は私と母を連れて逃げた。だが、襲われた時に負ったケガが元で母は亡くなった。王国中央教会に戻った父は生きる気力を失っていたが、まだ幼かった私の為に神父の居なかったダグの村に赴任したのだ。
父の赴任に村人たちは喜んだが、この地方には珍しい色の髪の毛を持つ私は、村の子供たちとはあまり馴染なかった。
私は父の仕事を手伝うため、早くからシスターとなった。同年代の子供たちのほとんどは結婚して家業を継ぐか大きな遠くの街に出稼ぎに出ていった。年寄りや既婚者がほとんどの村人達はみんな優しくしてくれるけど、私は孤独だった。
父は未だに母の形見のペンダント持って泣いているのを見た事がある。私も父の様に誰かを愛したいし、誰かに愛されたいと想っている。そう思う気持ちと裏腹に私の心はどんどん孤独感を募つのらせていった。
そんな時だ、彼が現れたのは。女神エルムの御信託で召喚された勇者さま。彼は召喚の儀式の途中で、いきなり見たこともない服装で現れ、勇者を名乗った。初めて見た時の印象はおどおど、びくびくして何だか頼りない。本当に勇者さまなんだろうか?
彼を教会に招待して話しを聞いた。私より少し年上の彼は前の世界で事故で死に、女神エルムによってこちらの世界を救うため召喚されたというのだ。とても信じられない様な話を彼は熱心にしてくれた。私もこの村の現状を一生懸命はなした。時おり意味の分からない言葉もあったけど、年の近い男の人とこんなに長い時間話したのは何年ぶりだろう。
しばらく話して気心が知れて来た頃、私はおそるおそる自分の髪の毛の色について尋ねてみた。この髪の色は長年村の中では奇異の目で見られて来た。だからこそ早くから修道服に身を包み髪の毛を隠して、村の為に尽くして来たのだ。勇者さまにこの髪の色で嫌な思いをさせていないだろうか? それだけが心配だった。
「別に変じゃないよ。確かに変わった色だけど、フィルスさんには似合ってて可愛いよ」
似合ってる……可愛い……。父にしか言われた事の無いような言葉を、この勇者さまはサラッと笑顔で言ってくる。しかもファーストネームで呼んでくるのだ。ファーストネームで呼び合うのは家族か夫婦、恋人同士が主にである。それを考えただけでも恥ずかしくて、顔が上気してきた。真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくて話しの途中で逃げ出した。
自分の部屋に逃げ込んで数時間。勇者さまは怒っているだろうか。先ほどの事をちゃんとお詫びしなければ……。勇者さまの部屋を訪ねると彼はもう眠っていた。
安らかな寝顔を見ていると、何だか気持ちが落ち着いてくる。もしかしたら、勇者さまは私の事も救ってくれるのではないだろうか。そんな風に思えてきたのだ。
突然、勇者さまが苦しみ出した。『ハムシが……、ハムシが……』と苦しそうに意味の分からない言葉を発している。急いで水で軽く濡らしたタオルを持ってくると額の汗を拭ぬぐった。
勇者さまも周りに誰も知り合いのいない世界に飛ばされて、世界を救う使命を受けて……一人でとても苦しんでいるに違いない。
明日からお父さんに頼んで【伝説の勇者】の伝承にある復活の呪文を唱えて貰おう! エルム様ごめんなさい、お名前ちょっとお借りします。
次の日、勇者さまは元気に村の中を回っていろいろな話しを聞いてまわった。村の中でも私の事をファーストネームで呼ぶものだからみんなに冷やかされる。もう、本当に顔から火が出そうだ。……勇者さま。私の事、どう思ってるんだろう。
勇者さまが、戦う為の武器や防具が欲しいとの事で村の人達に協力してもらいかき集めたのだが、ろくな物がない。鍛冶屋はあっても取り扱うのは農耕具や家庭用の物だけだ。物置小屋から以前頂いた物をあさって手袋とブーツを見つけた。
サイズが合うように一生懸命手直ししている所を父に見られてしまった。お父さんは『頑張ってるね。フィーの気持ちはきっと勇者さまに通じるよ』と言って笑顔で去っていった。お父さんにまで茶化されてもうどうして良いか分からなくなる。……でも、勇者さまが喜んでくれるといいなぁ。
今日は勇者さまと畑と西の森を偵察に行く事になっている。勇者さまの部屋に行くと中から話し声が聞こえる。誰と話してるんだろう。
「可愛いと言って頂けるのは嬉しいです。でも、お仕事の方も……もっと真面目に取り組んで頂けると、もっと嬉しい……です」
あーもう、なんであんな事言っちゃったんだろう。村の人達が中々動き始めない勇者さまに不満を持ち始めてるのに……御布団かぶって気分転換とか言ってるんだもん。
でも、私もあんな言い方ないよね。勇者さまなりに一生懸命やってるの、一番分かってるのは自分なのに! あー本当になにやってんだろう。
勇者さまがさっきからこちらをチラチラ見て、私の名前を呼んでいる。人前でファーストネームを呼ばれるのは恥ずかしい。でも少し嬉しい。勇者さまとまたお話ししたい。
勇者さまのお顔を見るたび、名前を呼ばれるたび、ドキドキする。胸が苦しくなる。私、たぶん……勇者さまが好き……なんだ。まだお会いしてから数日しかたっていないというのに。
『フィルスさん』そう笑顔で私の名前を呼ぶ勇者さまが好き。
『フィルスさん』困った顔をしてため息を漏らす勇者さまが好き。
『フィルスさん、案山子かかしってこの村にありますか?』意味の分からない事を言って私を困らせる勇者さまも好き。
ああ……エルムさま。私はシスターなのに……彼の事をそばでずっと見ていたい。彼に強く抱きしめられたい。そんな事ばかり考えてしまう私はいけない子ですか? 神に仕える身として失格ですか?
でもそれでもこの気持ちが抑えられない。エルムさまほんの少しでいいんです、彼は私の事をどう思っているのか知りたい。彼の口からそれを聞きたい。私の事なんて好きじゃない……それなら諦めます。あきらめられないだろうけど諦めます。
でももし、少しでも可能性があるなら……少しでも想って頂けるのなら、私は……。
エルム様のお力だろうか、私の願いを聞き届けてくれたのでしょうか。勇者さまがまた独り言を言い始めた。『フィルスの……感度を上げて、……いただこう……だ』
勇者さま……ビートさま、それってどういう意味ですか? 私はお側そばに居てもいいんですか? それとも私の勝手な妄想ですか? 分からない……分からない……分からない! 突然涙があふれてくる。ビート様にこんな顔を見られたら……恥ずかしい。嫌われてしまうのが怖い。
私は逃げ出した。その場から走り出した。いつものあの場所に向かって。一人になれるあの場所へ。辛い時、悲しい時、私はいつもここに来た。木々の間から差し込む光で暖められた大きな岩が、私を優しく温めてくれる。
『まぁ、シスターモモがマスターを見る目はいつも潤んでますからね。好き好き勇者さまー!! みたいな感じぢゃないですかね?』
「ティー、それって全部お前の妄想だろ。お前が言うと嘘くさくしか聞こえないんだよ。だいたい、俺はモテ要素ゼロだぞ、ゼロ!」
『それはマスターの世界での事ですよね』
「こっちに来てからはただのニートだし」
『マスター、そういうめんどくさいとこがモテないんですよ。あっ、そろそろ見えてきましたよ』
日比斗が獣道を走り抜けると背の低い草が生い茂る広場が見えてきた。端の方に1メートル位の高さがある大きな岩があり、そこに寄りかかる様にシスターモモが座り込んでいる。
『マスター、まずいです。かなりの数が集まっています。30……いや40体以上かもしれません』
「あぁ、分かってる。スゲーやばい」
シスターモモのいる岩の向こう側の森には憎悪に満ちた赤く光る無数の目が、どんどん集まって来ており、こちらの動向をうかがっているようだった。
ーつづくー
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