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第2章 エウロト村盗賊討伐編

第8話 掘り起こし者。

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 エルムが風の精霊にお願いをして、索敵しながら森の中を俺達は進んでいた。ティーの索敵では人間を関知し辛い為だ。人命に関わる事なのでちょっと見落したでは済まない。おかげでティーはちょっぴり不機嫌だ。

『ボクだってやれば出来る娘なのに……』

 元は同じ精霊であるのだが、精霊界から六大元素エレメントを操作して此方の世界に干渉する【精霊】と違い、こちらの世界に肉体を持って活動する【妖精】はしゃべったり、さわったりと世界への干渉力が強くなった分もともとの能力が制限されているのだそうだ。

 森を抜けて山のふもとに差し掛かった頃だ、俺とティーが同時に声を上げた。

『「━━? 声が聞こえた」』

「近くに人は誰もいないって精霊さん達は言ってるわよ」

 エルムはそう言っているものの、声は確かに聞こえた……気がする。ティーはここぞとばかりに自分が 活躍するのだと、声の主の元へと俺達を先導して山道を飛んでいく。

 デューム山はグレーターデーモンのブレス攻撃で山頂部分が消し飛び、ブレスの直撃を受けた木々は灰となっていた。崩れた土砂で流された樹木が折り重なるように道を塞いでいる。崩れた土砂の多くが山の反対側へと流された為か、こちら側の被害は少なめだったのだろう、地盤が緩く危険な場所を迂回しながらも村長に教えてもらった中腹にある洞窟へと何とか到着する事が出来た。

『助けて━━、誰か助けて下さい』

 今度ははっきりと声が聞こえた。だが、洞窟のあった場所は完全に土砂崩れで埋もれていた。

「参ったな、スコップも何も掘り起こすのに使える道具なんて何も持って来なかったぞ。うーん、いっその事ナーゲイル使って掘ってみるのもありか?」

『ご主人様、流石にその扱いは酷過むごすぎます。私これでも聖剣ですよ、筆頭なんですよ! ……まあ、出来ますけどね』

「出来るんかい!」

 俺は実体化している真っ白ナーゲイルの脳天にチョップをかますと間髪入れずに突っ込んだ!

『成る程……ご主人様からご褒美を頂くコツを掴みました。否定からの肯定で叱責を受けるという一連の流れをテンポ良く━━』

「余分な学習をしてんな! 人命が掛かってんだ、早く手をかせ!!」

 ナーゲイルには今日何度目かのグリグリ攻撃うめぼしを食らわせたのだが、またもや例の呪いによって俺にその方法を伝える事が出来ないのだ。

『申し訳ありませんご主人様。わたくしの活躍を快く思わぬ魔導師どもに、主人あるじとなる者に使い方を伝えられぬよう呪いを掛けられたばかりに……。に我が必殺の五大技巧クリティカルスキルの発動条件をお伝えできぬとは。誠にもって悔しく……悔しく』

「ん? ?」

 俺はナーゲイルの言葉に引っ掛かりを覚えた。まさかと思いながらも疑問を解消する為にエルムを呼んで耳打ちをする。
 エルムは軽く頷くとナーゲイルに質問を始めた。

「ねぇ、ナーちゃん。貴方のクリティカルスキルについてなんだけど━━」

 エルムはナーゲイルにクリティカルスキルの発動方法について詳しく聞いている。ナーゲイルもそれに対してきちんと答えているようだ。
 そう、ナーゲイルの声は念話であるにも関わらず俺には届いていない。つまりナーゲイルに掛けられた呪いはに対して発動する呪いのようだ。

 この世界にはパーティー登録の概念がなく、一般的には俺とオルクさんのような目的を同じくする同行者となるようで、エルムやシスターモモの様にパーティーメンバーとなってティーやナーゲイルと会話する事など普通にはあり得ないのだ。その為、呪いの発動条件を【主人あるじ】と限定する事でより強い呪いとして、聖剣の力の一部を封じる事が出来たのかも知れない。

 昔読んだラノベにそんな事が書いてあったのを思い出したのだ。

『まさかナーゲイルの使い方を他の人に聞き出させるとは━━マスター、お主もズルよのう!』

 ティーが俺の周りを飛び回りながら、まるでどこぞの越後屋の様な悪い笑みを向けてきた。まったく、どこでそんな事を覚えてくるやら。

『この呪いを掛けられてから三千年、このような悪知恵の働いた方はご主人さまただ一人でございます。さすがは我が主さま』

 悪知恵は余計だ! 誉めているつもりだろうが、全く嬉しくない。あとでグリグリ攻撃を食らわせてやろう。とりあえず今はエルムが聞き出した穴掘りの方法をとっとと試してみる事にした。

 まずは柄の上下を両手で持つと、右手と左手を外側に向かって逆方向に捻る。柄は中央部分から分かれて左右逆方向へと回わり、大輪の形をしたつばの中央部分が切っ先に向かってせり上がると【W】という文字の様に縮こまって、鍔と柄の間に大きな空洞が出来た。

 その空洞に四次元ポシェットから取り出した魔石をセットし、つばの端の部分を掴んで柄の方に向かって引き絞る。すると鍔と柄の間にあった空間がガチンと音を立てて閉じられた。

 その瞬間剣が光り輝き、ドンッと俺の体に強いエネルギーの流れが巻き起こる。エルムの指示に従って、内側から外へと弾ける様な感覚のエネルギーの奔流ほんりゅうを両腕から剣へと流し込む様にイメージする。何かが俺の腕を通って剣へと流れ込む感覚がすると、刀身に輝きが増大した。

「ビートくん、今よ! エネルギーの流れを回転させる様に剣先に向かって流し込んで!!」

「くっ、簡単に言ってくれる!」

 俺はエルムに愚痴りながらも、彼女の指示通りに自分の中にあふれ返るエネルギーを螺旋をイメージしながら剣へと戻して行く。

 剣は突如、柄の部分が長くなり刀身と刃の部分が短くなると槍の様な形状に変形した。次に剣先が三又の様に分離すると、刀身部分を中心に刃の部分が高速回転を始める。

「おぉ…………す、すげぇ」

 ナーゲイルはさも自慢気に原理ついて説明を始めた。

『どうです、私めの聖なる光のエネルギーを動力として剣の攻撃形態を変える能力は。ご主人様の体内にあるエレメントエネルギーでも発動可能ですが、私には魔石のエネルギーを分解し、浄化する事で発生する光のエネルギーを主に充填する機能がありまして。その機能を使えば人の限界を超えた神の領域にまでも手が届く力を得る事も可能なのです! 凄いでしょう、誉めて下さいよご主人さま。ねぇ、誉めて誉めて! 誉めていいんですよ、ほら、ほら!!』

 何千年も使う事が出来なかった能力が使える様になり、嬉しくて誉めて欲しいオーラ全開で頭を突き出しすり寄ってくるナーゲイルが超面倒くさい。それよりも俺はナーゲイルの今の説明からコイツの能力の危うさが気になった。

 神の領域にも手が届く力━━そんなもの人が手にして良いのだろうか? だが、魔王なんて者と戦うのであれば、そんな力でも無ければ倒す事など出来ないだろう。
 それでも魔導師達は人が手にすべき力では無いと判断し、ナーゲイルに呪いを掛けたのでは無かろうか?
 ともあれ、最終的には力を手にした俺自身のあり様に掛かってるって事なのか。

「ビートくん、ニヤニヤ何笑ってるの? 男の子って何だかんだ言って、こういうオモチャに弱いのよね。神様もたまに『いい武器が出来た』とか言ってやっぱりニヤニヤしてたもの」

「ちげーよ!」

 まったく、エルムめ。おちおち考え事もできやしない。さてコツも掴めてきた事だし、一丁やってみるとするか!

「エルム、洞窟入り口を埋めている土砂を粉砕する。少し離れて隠れてろ!」

「はーい」

エルムは小走りで少し離れた所にある大木の影にかくれると、顔を少しだけ覗かせてこちらの様子をうかがっている。ティーも一緒に付いて行ったのか木の陰から同じポーズでこちらをのぞき込んでいる。

「さて、準備が出来たようだ。行くぞナーゲイル!」

『はい、ご主人様! がんばります』

俺はもう一度魔石をナーゲイルにセットさせると、体内に流れ込んだエネルギーを両腕から剣へと送り込む!

「土砂を砕け、超回転粉砕擊ドリルクラッシャー!!!」

エルムが指定した土砂の積もる場所に、切っ先が高速回転をするナーゲイルを力一杯叩き込む。ちなみに技の名前を叫んだのはナーゲイルの指示だ。本当か嘘か分からないが威力が増すとの事で試しにやってみた。

決して中二病などではない。決してだ。

声を大にして叫んだ為なのか、ナーゲイルのクリティカルスキルは俺の予想を遥かに越えた威力を出してしまった。土砂に突き刺した瞬間、積もった土砂を吹き飛ばした剣は、俺の手を離れそのまま回転しながら洞窟の奥へとぶっ飛んで行ってしまった。

『ギャー!』という数人分の野太い悲鳴が聞こえた後に、ズドンという音と共に山が一瞬震えたような気がする。大きく口を開けた洞窟の奥から風がそよいだ……もしかすると山の向こう側まで突き抜けてしまったのかも知れない。
ゆっくりとエルム達の方へと首を回すと『ゲー』っと言う感じの蔑んだ目でこちらを見ている。

「まてまて、これって俺のせい?」

コクコクと頷く二人にまたやらかしてしまったと自覚する。飛んで行ったナーゲイルは呼び戻していないので戻って来ていない。暫く放置してアイツも一緒に反省してもらおう!

「エルム、ティー、洞窟の中に入るぞ!」

二人ともあからさまに嫌そうな顔をしている。理由は先ほど洞窟から聞こえた悲鳴だろう。超回転粉砕擊ドリルクラッシャーを普通の人間が食らえばどうなるか想像に難くないからだ。

俺はステータス画面を開いて身体強化がまだ掛かっているのを確認すると、腰に差したショートソードを抜いて身構えゆっくりと洞窟の中へと足を踏み入れて行くのだった。




ーつづくー

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