上 下
23 / 31
第一章 賽は投げられた

017 回帰不能点 ~小鳥遊朱夏サイド~

しおりを挟む
「殿下を生徒会の補佐に?」
昼休み、生徒会の執務室で生徒会顧問の岩永八雲は、龍王院枢から渡された提案書を一瞥すると、軽く眉をひそめた。
「北大路の件があったのに、殿下が了承すると思うのか?」
「交渉します。」
「・・・いいだろう。殿下との面会は明日の放課後、理事長室で。それと、もう一人の補佐だが、何故一年の天羽にしたんだ?」          
「東條の希望です。」
「・・・成る程。天羽の方は本人の了承が取れたなら承認しよう。」
「有難う御座います。」

*****

学園の校舎の裏側にある庭園の四阿あずまやのベンチで天羽伊千花は、テーブルを挟んで正面のベンチに座る小鳥遊朱夏に絡まれていた。
「ねぇ、僕を見て何か感じない? 運命とか。」
「・・・」
伊千花は冷めた眼差しで小鳥遊を一瞥すると溜息をついた。
「運命って言われましても、僕はベータなので圏外ですよ。」
「でも、君は『いっちゃん』だよね?」
「僕は『いっちゃん』と呼ばれたことはありません。人違いですよ。」
「十年前のこと怒ってる?」
小鳥遊は立ち上がると伊千花の座るベンチの方へ移動した。
そして跪き、上目遣いで伊千花を見つめた。
「ごめんなさい。ずっと後悔してた。謝りたかった。」
「・・・謝る相手が違いますよ。」
「お願い、僕のこと、嫌いにならないで・・・」
儚げに、瞳に涙を滲ませる小鳥遊を、伊千花はただ静かに、冷めた目で見下ろした。
「だから、人違いです。」
伊千花は立ち上がると、小鳥遊から距離を取り、「失礼します」と声をかけてから四阿を出て行った。


**小鳥遊朱夏視点**

フェロモン全開で迫ったのに顔色一つ変えてくれなかった。

初めて会った時に感じた、あの蕩けるような甘い香りもしない。

運命の番の筈なのに、まるで一方通行の片想いのようだ。

まぁ、僕だけじゃなく、春ちゃん達も同じだけど・・・

僕はいっちゃんが去って行った方に向かって歩き出した。
昇降口に辿り着くと、王子様が護衛の佐伯氏と一緒に外に出て来るのが見えた。
「王子サマ、ご機嫌よう~」
王子様はチラリと僕を一瞥すると軽く会釈だけして去って行った。

「相変わらず無愛想~、枢クンてば、何で王子様なんか補佐にしたがるのさ。」
・・・まさか、王子様狙い?

「まさか・・・ねぇ?」

何とな~く、王子様達の後ろ姿を見送っていると、小さな白いケモノがテクテクと後を追っているのが見えた。

「大雅クン・・・?」
白いケモノは獣化した大雅君だ。
王子様の何が大雅君の琴線に触れたのか分かんないけど!
追っかけ?
それともストーカー??

まぁ、邪魔者ライバルが減るのは大歓迎だけど。
でも何で王子様?
一欠片も似てないじゃん。

そういえば玄斗君も王子様にちょっかい出して謹慎処分喰らってたなぁ・・・
もしかして~玄斗君も王子様狙い?

うわ~
アリエナ~イ

いっちゃんは伊千花君に決まってるのに、馬鹿な奴ら。
何をどうすれば王子様に行き着くんだか・・・

僕は呆れたように溜息をついた。
そして振り返ることなく、昇降口の中に入って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...