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第一章 賽は投げられた
017 回帰不能点 ~小鳥遊朱夏サイド~
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「殿下を生徒会の補佐に?」
昼休み、生徒会の執務室で生徒会顧問の岩永八雲は、龍王院枢から渡された提案書を一瞥すると、軽く眉を顰めた。
「北大路の件があったのに、殿下が了承すると思うのか?」
「交渉します。」
「・・・いいだろう。殿下との面会は明日の放課後、理事長室で。それと、もう一人の補佐だが、何故一年の天羽にしたんだ?」
「東條の希望です。」
「・・・成る程。天羽の方は本人の了承が取れたなら承認しよう。」
「有難う御座います。」
*****
学園の校舎の裏側にある庭園の四阿のベンチで天羽伊千花は、テーブルを挟んで正面のベンチに座る小鳥遊朱夏に絡まれていた。
「ねぇ、僕を見て何か感じない? 運命とか。」
「・・・」
伊千花は冷めた眼差しで小鳥遊を一瞥すると溜息をついた。
「運命って言われましても、僕はベータなので圏外ですよ。」
「でも、君は『いっちゃん』だよね?」
「僕は『いっちゃん』と呼ばれたことはありません。人違いですよ。」
「十年前のこと怒ってる?」
小鳥遊は立ち上がると伊千花の座るベンチの方へ移動した。
そして跪き、上目遣いで伊千花を見つめた。
「ごめんなさい。ずっと後悔してた。謝りたかった。」
「・・・謝る相手が違いますよ。」
「お願い、僕のこと、嫌いにならないで・・・」
儚げに、瞳に涙を滲ませる小鳥遊を、伊千花はただ静かに、冷めた目で見下ろした。
「だから、人違いです。」
伊千花は立ち上がると、小鳥遊から距離を取り、「失礼します」と声をかけてから四阿を出て行った。
**小鳥遊朱夏視点**
フェロモン全開で迫ったのに顔色一つ変えてくれなかった。
初めて会った時に感じた、あの蕩けるような甘い香りもしない。
運命の番の筈なのに、まるで一方通行の片想いのようだ。
まぁ、僕だけじゃなく、春ちゃん達も同じだけど・・・
僕はいっちゃんが去って行った方に向かって歩き出した。
昇降口に辿り着くと、王子様が護衛の佐伯氏と一緒に外に出て来るのが見えた。
「王子サマ、ご機嫌よう~」
王子様はチラリと僕を一瞥すると軽く会釈だけして去って行った。
「相変わらず無愛想~、枢クンてば、何で王子様なんか補佐にしたがるのさ。」
・・・まさか、王子様狙い?
「まさか・・・ねぇ?」
何とな~く、王子様達の後ろ姿を見送っていると、小さな白いケモノがテクテクと後を追っているのが見えた。
「大雅クン・・・?」
白いケモノは獣化した大雅君だ。
王子様の何が大雅君の琴線に触れたのか分かんないけど!
追っかけ?
それともストーカー??
まぁ、邪魔者が減るのは大歓迎だけど。
でも何で王子様?
一欠片も似てないじゃん。
そういえば玄斗君も王子様にちょっかい出して謹慎処分喰らってたなぁ・・・
もしかして~玄斗君も王子様狙い?
うわ~
アリエナ~イ
いっちゃんは伊千花君に決まってるのに、馬鹿な奴ら。
何をどうすれば王子様に行き着くんだか・・・
僕は呆れたように溜息をついた。
そして振り返ることなく、昇降口の中に入って行った。
昼休み、生徒会の執務室で生徒会顧問の岩永八雲は、龍王院枢から渡された提案書を一瞥すると、軽く眉を顰めた。
「北大路の件があったのに、殿下が了承すると思うのか?」
「交渉します。」
「・・・いいだろう。殿下との面会は明日の放課後、理事長室で。それと、もう一人の補佐だが、何故一年の天羽にしたんだ?」
「東條の希望です。」
「・・・成る程。天羽の方は本人の了承が取れたなら承認しよう。」
「有難う御座います。」
*****
学園の校舎の裏側にある庭園の四阿のベンチで天羽伊千花は、テーブルを挟んで正面のベンチに座る小鳥遊朱夏に絡まれていた。
「ねぇ、僕を見て何か感じない? 運命とか。」
「・・・」
伊千花は冷めた眼差しで小鳥遊を一瞥すると溜息をついた。
「運命って言われましても、僕はベータなので圏外ですよ。」
「でも、君は『いっちゃん』だよね?」
「僕は『いっちゃん』と呼ばれたことはありません。人違いですよ。」
「十年前のこと怒ってる?」
小鳥遊は立ち上がると伊千花の座るベンチの方へ移動した。
そして跪き、上目遣いで伊千花を見つめた。
「ごめんなさい。ずっと後悔してた。謝りたかった。」
「・・・謝る相手が違いますよ。」
「お願い、僕のこと、嫌いにならないで・・・」
儚げに、瞳に涙を滲ませる小鳥遊を、伊千花はただ静かに、冷めた目で見下ろした。
「だから、人違いです。」
伊千花は立ち上がると、小鳥遊から距離を取り、「失礼します」と声をかけてから四阿を出て行った。
**小鳥遊朱夏視点**
フェロモン全開で迫ったのに顔色一つ変えてくれなかった。
初めて会った時に感じた、あの蕩けるような甘い香りもしない。
運命の番の筈なのに、まるで一方通行の片想いのようだ。
まぁ、僕だけじゃなく、春ちゃん達も同じだけど・・・
僕はいっちゃんが去って行った方に向かって歩き出した。
昇降口に辿り着くと、王子様が護衛の佐伯氏と一緒に外に出て来るのが見えた。
「王子サマ、ご機嫌よう~」
王子様はチラリと僕を一瞥すると軽く会釈だけして去って行った。
「相変わらず無愛想~、枢クンてば、何で王子様なんか補佐にしたがるのさ。」
・・・まさか、王子様狙い?
「まさか・・・ねぇ?」
何とな~く、王子様達の後ろ姿を見送っていると、小さな白いケモノがテクテクと後を追っているのが見えた。
「大雅クン・・・?」
白いケモノは獣化した大雅君だ。
王子様の何が大雅君の琴線に触れたのか分かんないけど!
追っかけ?
それともストーカー??
まぁ、邪魔者が減るのは大歓迎だけど。
でも何で王子様?
一欠片も似てないじゃん。
そういえば玄斗君も王子様にちょっかい出して謹慎処分喰らってたなぁ・・・
もしかして~玄斗君も王子様狙い?
うわ~
アリエナ~イ
いっちゃんは伊千花君に決まってるのに、馬鹿な奴ら。
何をどうすれば王子様に行き着くんだか・・・
僕は呆れたように溜息をついた。
そして振り返ることなく、昇降口の中に入って行った。
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