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第一章 賽は投げられた
014 代償と献身
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龍王院と北大路は目の前にいる青年に見覚えがあった。
しかし青年が誰なのか、どうしても思い出せない。
「君達に協力して欲しいんだ。」
青年は二人に穏やかな口調でそう言った。
「・・・協力・・・?」
「あの犬神を祓って欲しい。」
「祓う・・・犬神を?」
ぼんやりとした意識の中、二人は青年の言葉に耳を傾けた。
「明き浄き正しき直き、不浄を清浄に、不完全を完全に、不良を善良に・・・
君達なら出来るよね。神事のトップ、斎王の嫡流の北大路、前斎王の外孫である龍王院。元々は君達が原因なんだし、このまま何もせずに放っておいたら、君達の『いっちゃん』は魔力欠乏症で近い将来、儚くなるだけだよ。」
青年の言葉に二人は息を呑んだ。
「俺達が原因って、儚くなるって、どういうこと?」
「あの犬神は最初から犬神だった訳じゃない。十年前、君達のせいで大ケガを負ったあの子は何ヶ月も意識不明だった。あの子を目覚めさせる為に、たくさんの代償を支払ったモノの成れの果てが、あの犬神なんだよ。
あの犬神は魔獣の本能を抑えて、あの子の負担を減らす為に魔力の流れをセーブしている。でもあの子は犬神を生かす為に、自分を顧みない。
でもね、限界が近いんだよね。
あの子は未分化のまま、これ以上の成熟は見込めない。
魔力を生み出す器官が未成熟のまま犬神を養い続けることは命取りなんだよ。
でも、君達のうちの誰かがあの子の正式な番になれば、未分化から解放されて魔力量が向上する可能性がある。」
青年はそう言って立ち上がった。
その瞬間、今まで何の雑音も無かった空間に学食で楽しげに食事を進める他の生徒達の話し声や厨房で料理をする音等、様々な雑音が龍王院と北大路の耳に届いた。
先程のリシャール王子に対する失態が無かったかのように、学食内の生徒たちは龍王院と北大路を気に留めることなく楽しげに食事をしている。
「『祓う』か『番う』か、早めに決断して行動してくれ。」
青年はそう言って静かに立ち去った。
**伊織&伊鶴サイド**
「どうしてお前自身が番にならないんだ? お前が番になれば伊月が抱えている全ての問題が解決するんじゃないのか?」
学園の医務室で、点滴を受けてベッドに横になっている伊織に伊鶴は苛立った口調で言った。
「今の俺では伊月の番にはなれないよ。」
「でも、お前と伊月は100%の、『魂の番』じゃないか。」
「データ上はね。でも、代償の大半を支払ったセイルが犬神に堕ちたせいで、お互いにそれを認識できなくなっているし、俺もあの時の代償のせいで不能になった。」
「だからって、あの五人の誰かを代わりの番にさせるのは・・・」
「あの五人の誰かと番になるのが自然なんだよ。俺は受精卵で保存されていた研究所で勝手に遺伝子操作をされていたし、産まれてすぐに誘拐された所でも色々な実験を受けたせいでボロボロだった。代償の事が無かったとしても、欠陥だらけのこの体じゃ、ずっと側にいて護ってやることもできない。」
伊織はそう言って静かに微笑んで見せた。
「伊月は誘拐犯に処分される筈だった俺とセイルを救ってくれた。俺が夜嶌と平坂の家族の元に帰ることができたのは伊月の献身があったからなんだ。だから俺達は伊月の幸せの為なら何だってする。」
しかし青年が誰なのか、どうしても思い出せない。
「君達に協力して欲しいんだ。」
青年は二人に穏やかな口調でそう言った。
「・・・協力・・・?」
「あの犬神を祓って欲しい。」
「祓う・・・犬神を?」
ぼんやりとした意識の中、二人は青年の言葉に耳を傾けた。
「明き浄き正しき直き、不浄を清浄に、不完全を完全に、不良を善良に・・・
君達なら出来るよね。神事のトップ、斎王の嫡流の北大路、前斎王の外孫である龍王院。元々は君達が原因なんだし、このまま何もせずに放っておいたら、君達の『いっちゃん』は魔力欠乏症で近い将来、儚くなるだけだよ。」
青年の言葉に二人は息を呑んだ。
「俺達が原因って、儚くなるって、どういうこと?」
「あの犬神は最初から犬神だった訳じゃない。十年前、君達のせいで大ケガを負ったあの子は何ヶ月も意識不明だった。あの子を目覚めさせる為に、たくさんの代償を支払ったモノの成れの果てが、あの犬神なんだよ。
あの犬神は魔獣の本能を抑えて、あの子の負担を減らす為に魔力の流れをセーブしている。でもあの子は犬神を生かす為に、自分を顧みない。
でもね、限界が近いんだよね。
あの子は未分化のまま、これ以上の成熟は見込めない。
魔力を生み出す器官が未成熟のまま犬神を養い続けることは命取りなんだよ。
でも、君達のうちの誰かがあの子の正式な番になれば、未分化から解放されて魔力量が向上する可能性がある。」
青年はそう言って立ち上がった。
その瞬間、今まで何の雑音も無かった空間に学食で楽しげに食事を進める他の生徒達の話し声や厨房で料理をする音等、様々な雑音が龍王院と北大路の耳に届いた。
先程のリシャール王子に対する失態が無かったかのように、学食内の生徒たちは龍王院と北大路を気に留めることなく楽しげに食事をしている。
「『祓う』か『番う』か、早めに決断して行動してくれ。」
青年はそう言って静かに立ち去った。
**伊織&伊鶴サイド**
「どうしてお前自身が番にならないんだ? お前が番になれば伊月が抱えている全ての問題が解決するんじゃないのか?」
学園の医務室で、点滴を受けてベッドに横になっている伊織に伊鶴は苛立った口調で言った。
「今の俺では伊月の番にはなれないよ。」
「でも、お前と伊月は100%の、『魂の番』じゃないか。」
「データ上はね。でも、代償の大半を支払ったセイルが犬神に堕ちたせいで、お互いにそれを認識できなくなっているし、俺もあの時の代償のせいで不能になった。」
「だからって、あの五人の誰かを代わりの番にさせるのは・・・」
「あの五人の誰かと番になるのが自然なんだよ。俺は受精卵で保存されていた研究所で勝手に遺伝子操作をされていたし、産まれてすぐに誘拐された所でも色々な実験を受けたせいでボロボロだった。代償の事が無かったとしても、欠陥だらけのこの体じゃ、ずっと側にいて護ってやることもできない。」
伊織はそう言って静かに微笑んで見せた。
「伊月は誘拐犯に処分される筈だった俺とセイルを救ってくれた。俺が夜嶌と平坂の家族の元に帰ることができたのは伊月の献身があったからなんだ。だから俺達は伊月の幸せの為なら何だってする。」
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