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第一章 賽は投げられた
011 回帰不能点 ~東條春彦サイド~
しおりを挟む櫻之宮学園の学食は食堂とカフェテリアが併設されている。
日替わりのランチセットは食券を利用してのセルフサービス、その他のメニューは各テーブルに設置されているタッチパネルから注文できるシステムになっていた。
入学式の翌日の昼休み、一人で学食に来ていた伊千花は、伊玖磨と合流するために食堂内を見回していた。
「伊千花君。」
名前を呼ばれて声のした方に視線を向けると、そこには東條春彦の姿があった。
「こんにちは、東條さん。」
「こんにちは。良かったら一緒に食べませんか?」
「兄と一緒で良ければ・・・」
そう言って伊千花は静かに微笑んだ。
★★東條春彦視点★★
いっちゃんを初めて見たとき、俺の『運命』だと感じた。
幼稚舎の頃のいっちゃんは小さくて可愛くて、まるで宗教画の天使のようだった。
いっちゃんの笑顔が好きだった。
でも、俺達が側に行くたびにその笑顔が減ってしまった。
俺達がガキすぎて、いっちゃんの気持ちを無視して、自分たちの欲求ばかり押しつけた。
その結果、俺達はいっちゃんと引き離されてしまった。
何の情報もなく、一人で捜すには金も人脈も足りない。
何か知ってる筈の親や幼稚舎の職員達の口も固かった。
だから龍王院達と一緒に捜した。
高等部の二年に進級して間もなく、俺達五人は理事長に呼び出された。
四月から留学生が入学することは先月の初めに周知されていたので、その関係の話だろう。
理事長に渡された資料、留学生と外部入学生、そして編入生の身上書のコピーを渡されて内容を確認する。
身上書の右上に貼り付けられた証明写真を見た俺達を、理事長はどんな顔をして見ていたのだろう?
『いっちゃん』によく似た三人の外部入学生の写真に俺達は息を飲んだ。
捜しても捜しても見つからなかった唯一に繋がるかもしれない。
本人か血縁者に違いないと俺達は結論付けた。
「宜しくお願いします。」
入寮日に会った時、そう言って微笑んだ天羽伊千花の全てが『いっちゃん』に重なった。
握手をした手の感触、そこから感じられる魔力の残滓が記憶の中にある『いっちゃん』の魔力と同じで、心地良くて・・・
天羽伊千花が俺の唯一の運命の番だと悟った。
性別もバース性も関係無い。
俺だけのオメガに作り変えればいいだけだ。
☆☆補足☆☆
東條春彦の幼稚舎時代の一人称は『オレ』
小等部の高学年頃から表向きは『私』、地は『俺』
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