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第一章 賽は投げられた

008 入学式 その弐

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「静粛にお願いします。」
新入生入場の時間が迫ると、生徒会執行委員で放送部の部長である三年生の北条が司会用のマイクスタンドの前に立った。
「新入生入場。」
北条の宣言を合図に管弦楽部がワーグナーのマイスタージンガーを奏でる。
全四クラス、85名の新入生が各クラスの担任に先導されて入場した。
一番最初に入場したのは北大路玄斗と秋月大雅が所属するAクラス。
Aクラスはアルファ性の生徒と成績上位のベータの生徒のみで構成されている特別クラスだ。
続いて入場したBクラスは理系コース、Cクラスは文系コースとなっている。
そして最後に入場したDクラスは帰国子女や留学生に加えて、海外留学を希望する生徒の為のクラスとなっていた。
担任の岩永八雲教諭に続いて入場したDクラスの新入生たちを在校生のみならず父兄たちも食い入るように見つめた。

帝國から見て西側にある広大なローレンシア大陸の北東部にあるアンブローシア王国の王子が新入生として列席する。
異国の王子を間近で見られるとあって、在校生達と父兄達は浮き足だっていた。

浮き足だっていたのは生徒会の役員席にいる小鳥遊朱夏と東條春彦も一緒だった。
二人とも逸る気持ちを抑えてDクラスの新入生の入場を見守っている。
龍王院枢はそんな二人とは違う静かな様子で入場する生徒達を眺めていた。
「!」
龍王院は目の前を通り過ぎた天羽伊千花の姿に釘付けになった。
「いっちゃん・・・?」
龍王院と同じく、小鳥遊も間近で見た伊千花の姿を見て呆然としている。
東條はニコニコと伊千花ばかり視線で追いかけている。

けれど

最後に入場した生徒が目前を通り過ぎた時、龍王院の心は決まった。

「僕、決めたよ。」
小鳥遊は静に囁いた。
「俺も決めた。」
と龍王院。
東條は伊千花しか見ていない。
小鳥遊も伊千花に視線を向けていた。

龍王院は二人とは別の者に視線を向けた。
『いっちゃん』とは似ても似つかぬ風貌の灰色の少年へ。
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