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第一章 賽は投げられた
002 入寮日 その壱
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四月になって間もなく、私立櫻之宮学園高等部・東雲寮は新入生の引っ越しで賑わっていた。
東雲寮は一号棟から五号棟までの全五棟。
二号棟から五号棟はバス、トイレ、ミニキッチン付のワンルームで各棟の一階には食堂とコンビニが併設されている。
一号棟はオメガ性の生徒、生徒会役員、留学生の為の宿舎だ。
部屋は他棟と同じ作りのワンルームで、食堂とコンビニの他に医師や看護師が常駐する診療所、理美容室が併設されているので他の棟よりは広い作りになっている。
診療所と理美容室は他の棟に住んでいる寮生も利用ができるようになっている。
そしてオメガ性の生徒は診療所があるフロアに入寮する。
大東倭帝國におけるバース性の割合はベータが80%、アルファが15%、オメガが5%である。
男女比にするとベータは45%が男性、35%が女性、アルファは10%が男性、5%が女性、オメガは3%が男性で、残り2%が女性である。
ヒエラルキーの頂点に君臨する支配階級のアルファは年々出生率が低下しており、特にアルファの男女の組み合わせではアルファが産まれる確率が四割以下に落ち込んでいる。
しかしながらベータとの組み合わせではアルファが産まれる確率は更に低く、一割に満たない。
そんな中、アルファとオメガの番の組み合わせでは九割以上の確率でアルファが誕生していた。
確実にアルファの子供を得るためにはオメガと番うしかない。
しかしオメガの出生率も低下していた。
事態の重大さを鑑みた帝國が、ヒエラルキーの最下層であったオメガの保護を最優先課題とする政策を作り、施行して十年目の節目を迎えた。
まだまだ課題は多いが、確実にアルファとオメガの出生率は向上している。
私立櫻之宮学園は、帝國の皇族や華族、上流階級の子息達に英才教育をする為に創設された歴史があり、アルファ性の生徒が多数在籍している。
良家の子女が通う事もあり、オメガ性の生徒に対する寮生活へのサポートや、定期的に訪れるヒートによる学習の遅れにも補習等で対応している。
高等部のー年生、平坂伊吹は一号棟のニ階にあるオメガ専用フロアのサロンで担当者から寮の説明を受けていた。
「伊吹クン、ここまでで何か質問あるかな?」
ニコニコと人当たりの良さそうな笑顔で、担当者・生徒会の会計でオメガである二年生の小鳥遊朱夏が伊吹に声をかけた。
「ないです。」
「樹生クンは?」
平坂伊吹が座る三人掛けのソファーの隣にだらしなく腰掛けているもう一人の一年生、土方樹生にも小鳥遊は声をかけた。
「ネェよ。」
土方は面倒くさそうに応えた。
普通に小綺麗な格好の平坂とは真逆で、土方はヨレヨレのダメージジーンズに着古した大きめのパーカーを羽織って、フードを目深に被っていた。
「樹生クン、体調悪そーだけどヒート明け?」
小鳥遊の問いに土方は静かに頷いた。
「先輩、すみません。樹生のヒートは今朝明けたばかりで、その・・・」
土方の代わりに平坂がとても言いにくそうに話し出した。
「・・・?」
「うちの兄が・・・」
「伊吹クンのお兄さんが、どしたの?」
「・・・咬んだそうです。」
「・・・未成年を咬んだの?」
「えっと、アルファがいっぱいいる学校は心配だし、婚約してるから問題ないって、兄が樹生を説得してしまって・・・」
「えーっ、同意も手続きもちゃんとしてるって事だよね?」
「そこは抜かりなく・・・」
「・・・差し支え無ければ、お兄さんの身上書の提出、お願いできる?」
小鳥遊の言葉に平坂は涙目で、「・・・高等部の、」と呻いた。
「在校生のアルファ?」
高等部の在校生に『平坂』って姓のアルファ居たっけ?
と、小鳥遊が在校生アルファの氏名を思い浮かべていると平坂の思い切った声が届いた。
「兄は、新任の校医、です!」
東雲寮は一号棟から五号棟までの全五棟。
二号棟から五号棟はバス、トイレ、ミニキッチン付のワンルームで各棟の一階には食堂とコンビニが併設されている。
一号棟はオメガ性の生徒、生徒会役員、留学生の為の宿舎だ。
部屋は他棟と同じ作りのワンルームで、食堂とコンビニの他に医師や看護師が常駐する診療所、理美容室が併設されているので他の棟よりは広い作りになっている。
診療所と理美容室は他の棟に住んでいる寮生も利用ができるようになっている。
そしてオメガ性の生徒は診療所があるフロアに入寮する。
大東倭帝國におけるバース性の割合はベータが80%、アルファが15%、オメガが5%である。
男女比にするとベータは45%が男性、35%が女性、アルファは10%が男性、5%が女性、オメガは3%が男性で、残り2%が女性である。
ヒエラルキーの頂点に君臨する支配階級のアルファは年々出生率が低下しており、特にアルファの男女の組み合わせではアルファが産まれる確率が四割以下に落ち込んでいる。
しかしながらベータとの組み合わせではアルファが産まれる確率は更に低く、一割に満たない。
そんな中、アルファとオメガの番の組み合わせでは九割以上の確率でアルファが誕生していた。
確実にアルファの子供を得るためにはオメガと番うしかない。
しかしオメガの出生率も低下していた。
事態の重大さを鑑みた帝國が、ヒエラルキーの最下層であったオメガの保護を最優先課題とする政策を作り、施行して十年目の節目を迎えた。
まだまだ課題は多いが、確実にアルファとオメガの出生率は向上している。
私立櫻之宮学園は、帝國の皇族や華族、上流階級の子息達に英才教育をする為に創設された歴史があり、アルファ性の生徒が多数在籍している。
良家の子女が通う事もあり、オメガ性の生徒に対する寮生活へのサポートや、定期的に訪れるヒートによる学習の遅れにも補習等で対応している。
高等部のー年生、平坂伊吹は一号棟のニ階にあるオメガ専用フロアのサロンで担当者から寮の説明を受けていた。
「伊吹クン、ここまでで何か質問あるかな?」
ニコニコと人当たりの良さそうな笑顔で、担当者・生徒会の会計でオメガである二年生の小鳥遊朱夏が伊吹に声をかけた。
「ないです。」
「樹生クンは?」
平坂伊吹が座る三人掛けのソファーの隣にだらしなく腰掛けているもう一人の一年生、土方樹生にも小鳥遊は声をかけた。
「ネェよ。」
土方は面倒くさそうに応えた。
普通に小綺麗な格好の平坂とは真逆で、土方はヨレヨレのダメージジーンズに着古した大きめのパーカーを羽織って、フードを目深に被っていた。
「樹生クン、体調悪そーだけどヒート明け?」
小鳥遊の問いに土方は静かに頷いた。
「先輩、すみません。樹生のヒートは今朝明けたばかりで、その・・・」
土方の代わりに平坂がとても言いにくそうに話し出した。
「・・・?」
「うちの兄が・・・」
「伊吹クンのお兄さんが、どしたの?」
「・・・咬んだそうです。」
「・・・未成年を咬んだの?」
「えっと、アルファがいっぱいいる学校は心配だし、婚約してるから問題ないって、兄が樹生を説得してしまって・・・」
「えーっ、同意も手続きもちゃんとしてるって事だよね?」
「そこは抜かりなく・・・」
「・・・差し支え無ければ、お兄さんの身上書の提出、お願いできる?」
小鳥遊の言葉に平坂は涙目で、「・・・高等部の、」と呻いた。
「在校生のアルファ?」
高等部の在校生に『平坂』って姓のアルファ居たっけ?
と、小鳥遊が在校生アルファの氏名を思い浮かべていると平坂の思い切った声が届いた。
「兄は、新任の校医、です!」
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