親ガチャ〜地獄の沙汰も運次第、もし親を選べるなら〜

番外編：南

２、→ママが私にしたワガママ←

　ママが私にしたワガママ。　

それはパパを２回も変えたこと。

私の名前は榊原南さかきばらみなみ。１８歳。　　　

社会人、２年目の新米介護士である。

私は、たった今、ママから３人目のパパになる男性を紹介された。　

 ＊ 　

私にはパパが２人ふたりいる。 

１人目ひとりめのパパは私と血の繋がっている男性。

ママは事あるごとに自分は１６歳で私を生み、自分１人ひとりで育ててきたと言っていたので、生物学上の父親という位置づけの人。 

２人目ふたりめは、ママがはじめて結婚した男性。

２人目ふたりめのパパは、ママよりも１０歳以上も若かい、所謂いわゆるイケメンだった。 　

ママとは１度、入籍したらしいが１年経たずして離婚しまった。　

 彼は私にとって背が高くてマッチョで面白い自慢のパパだったのに非常に残念だ。　　

あわよくばママの老後の面倒を押し付けるつもりがアテが外れてしまった。　
　
介護士の仕事をしていると現役を引退した後の方が、生きる時間が長く且つ独ひとりでは生活するのは難しいという事を痛感させられる。　

片親の一人っ娘ひとりっこは親の老後の全責任面倒を押し付けられて金を残されるだけの損な役回りなのだ……。

それに私に言わせれば、結婚なんて性別が違うだけの人間同士が紙にサインと判子をするだけで簡単できてしまうもの。

だから、結婚も離婚も再婚さえも形式的な儀式の１ひとつに過ぎないと思っている。 　


＊ 

私から見たママは１８歳の子どもを持つママにしては充分すぎるくらいスタイルもよく若くて綺麗だ。  

 生前、母方の祖母おばあちゃんが「子どもが子ども産んだりするから……」なんていつもぼやいていたからママが母親として多少問題があるのは知っている。 

通信制の高校を卒業したママは高給取りではなくても某不動産会社の正社員としてそれなりに出世して部下もいる立場の人間だ。 　

 私が生まれる前に勤めた会社は辞めてしまったらしいが、それでも勤続は今年で１６年。 

そんなキャリアウーマンのママは私の自慢だった。　

 ＊  

 美人とはいえ、バツ１、こぶ付きのアラフォーの女性と結婚してくれる男なんてろくな男のわけがない。 

そう考えているからこそ私は、今日の顔合わせには一抹の不安があった。　
 

(今日、現れる物好きはどんな男だろう。ヤクザ系、ガテン系それとも……) 　


私は新しくパパになるかもしれない男性の姿を思い描きながら新しいパパが喫茶店に現れるのを待った。　


  (ママは爽やかな若いイケメンが好きだ。収入は兎も角、顔さえよければ取り合えず、合格にしよう。私も就職したし、来年からは念願の一人暮らし！ママが幸せなら……)　


そんなことを考えながら私は慣れないブラックコーヒーの器に唇を付けた。 　


「ミルクと砂糖入れたほうが良いよ～ 
」 　
　
ママはそう言うと気合を入れて特注した夏色のネイルを見せびらかしながら年甲斐もなく、あざとく笑った。　

＊ 　

 喫茶店の古い掛け時計の秒針がゆっくりと右に回る。　

秒針はわざと新しいパパに会う時間を遅らせるようにゆっくりと静かに嫌味なくらいゆっくりと回っているようにさえ見える。　

 私の座るソファーには古ぼけた扇風機の生暖かい風が直に吹き付けてくる最悪のポジションだ。 　

扇風機は故障しているのか、動いたり、停まったりして嫌な高い機械音を響かせてくる。 　

扇風機の生暖かい風のせいで私はカーディガンで隠した右腕の古傷が疼うずくのを感じていた。　

 ミミズの這はうようなその疼うずきはこれから訪れる不吉な出来事を知らせる虫の知らせ。

そんな嫌な感覚を思わせる嫌な疼うずきであった。