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五道転輪王

53、→36×84=48×63← 

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【36×84=48×63 。この数式の真意は?】

 ある日、村瀬翔むらせしょうという生徒が宿題・提出用ノートにこんな落書きをしてきた。   

彼は国際数学ジュニアオリンピックの合宿に選抜されるほどの逸材で本校期待の優秀な生徒だ。 


しょう君、面白いことしますね」 

「えぇ……」

私の指導教諭・浜田義隆はまだいさお教諭は、唐突に後ろから声を掛けてきた。  
 
今、職員室には私達以外誰もいない。 

くだんの彼は背は高くないが、整った今風の顔立ちと洗礼されたストライプのスーツを着こなし、女子生徒の人気を一身に集めていた。 
 

「共に答えは、3024。でも、この文脈だと、答えを聞いているわけじゃなさそうですね……ともすると。あぁ、この数式、回文になってる!!。なるほど……」
 

浜田教諭はまだきょうゆは答えが分かると嬉しそうに手を叩き唸った。 

 そう、この数式は回文になっている。 

私は、この文字の並びを見た時、冥府に置いてきた大好きだった回文の本のことを思い出し、懐かしさと少しの寂しさの感傷に浸っていた。  


「彼、天才ですものね。今回の模試も好成績でしたし。真面目だし。本当に良い生徒です。ところで、佳那かな。明日、予定……大丈夫?」 


彼は突然、会話の最後で私の名前を呼び捨てにし「明日」から後の言葉を小声で言うと耳に息を吹きかけた。 


「っ。やめてください。ここ職員室ですよ?!」 


私は彼の声を払いのけるように耳に手を当て小さく首を振った。

 今、職員室は空き時間。

担当するコマのない2人ふたりだけになっていたので、私の赤ら顔は彼以外、誰にも見られてはいない。

彼は私の困った様子を見ると満足したような顔をして私の向かいの席に座った。  

そして子どものように両手で大きく丸のマークを作り、首を傾げる。

私がそのサインを見て小さく頷くと彼は満足そうな笑みを浮かべ、パソコンの起動ボタンを押した。  


佳那先生かなせんせい、期待してますよ」  


彼は意味ありげな言葉を呟くとパソコンに社会科の成績を入力しはじめた。  
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