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冥府②
40、→失せました。いかが致しませう←
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死者は通常、全部で10回の裁判、審議を受ける権利を持つ。
彼らがはじめに謁見するのは秦広王。
彼は〖殺生についての罪を裁く審議〗を執り行う。
秦広王は武官風の金の衣を纏った若い男性の姿をしている。
背は六尺ほどの大柄。
衣の袖を巻くり上げ襷掛けにし、鍛え抜かれた腕の筋肉を誇張させている。
髪は短く散切りにし、冠は儀式の時以外はつけていない。
腰には大振りの金の飾りのついた派手な愛刀・三鈷剣を下げ、腰に縄を下げた姿をしている。
そして審議では、死者の両肩に倶生神という鬼神を乗せその鬼神の報告に基づいて死者を取り調べる。
審議の内容は帳面に記され、審議の決次第で死者達は3つの班に分けられる。
彼は、最後に寅の刻を告げる鐘の合図と共に川を渡る号令を出すのが仕事だ。
秦広王は、今日も、いつもの通り死者の名を川岸まで届くような大きな声で叫び、死者の選別を始めた。
今日の死者は、いつもよりも少なかったらしい。
半刻、経つと皆、川辺の冷たい地面には、私だけが取り残された。
秦広王は私の姿を見つけると驚いて目を見開いた。
その顔は、心無しか少し赤い。
彼は、私の双眼を直視せず、耳辺りに視線を置いているようだった。
秦広王は、私の視線に気がつくと我に返り、部下の赤い小鬼に名前を確認する。
「……。まだ、名前を呼ばれていない女がいるようだ、が?」
少し怒ったような赤い顔をした秦広王は私の両肩に倶生神の同生(善い行いの報告をする・女の子)を乗せ、小鬼を見下ろした。
小鬼はしばらくの沈黙の後 、
「えっと……お名前は……」
巻子の隅から隅を見返しても私の名前がないという事実を主にどう告げるか額に汗をかき、動揺しているように右往左往しだした。
名前なんかあるはずも無い。当然だ。
「あっ?なんか言ったか?」
秦広王は小鬼のもたついた様子に苛立ち上から巻子を覗き見た。
(今が好機だわ)
同じ頃、私は胸の前で虹色に光る小さな玉に掌を合わせ小声でとある願いを早口で呟いた。
そして玉を落とさないように懐に隠すと、前髪を掻き上げ、口角を上げ、怪しく笑う。
小鬼が大きな目を見開き再び書簡を見直すと書簡の端に「金」という名前があるのを見つけ歓喜の雄叫びをあげた。
「金……様。大変、お待たせいたしましたっ」
小鬼は私に頭を垂れると三歩下がり審議の為、泰広王に場所を開けた。
「はぁ~、面倒なのが来ちまったなぁ……」
秦広王は私の左肩に幼児のような容姿をした倶生神の同名(悪い行いの報告をする・男の子)を乗せると意味ありげな溜息をついた。
そして審議が始まった。
まずはじめに秦広王は私の右肩に座っている同生に前世の殺生について問う。
すると同生はこう言った。
「彼女は、前世は猫。妹猫が崖から落ちそうになるのを助けようとして、自ら犠牲になりました……」
そう言い、金の刺繍の入った桃色の漢服の袖で涙を拭いた。
彼女は感受性が豊かな性格らしい。
私は幼子の言葉を聞き終えると同生の2つ縛りを団子に結い上げた髪を優しく撫ぜ、黒のスカートに落ちた涙を乾くのを静かに見つめていた。
「うん」
秦広王は彼女の報告を聞き終えると次に私の左肩に乗っている同名に 「殺生はあったか」 短く問う。
同名は主の問いに答えるため、薄青の地に金の刺繍を施した漢服の懐の前に小さな手を合わせた。
そして私の心を読もうと瞼を閉じた瞬間、頭の中が搔きまわされるようなそんな嫌な感覚に冴えなまれたように大きくふらついた。
こんな不吉な感覚を味わったのは彼は初めてだったのか。
私の肩の布を掴み蒼い顔をしたまま 「問題ございません……」 そう、短く答えた口をつぐんだ。
その言葉を言い終わらないうちに2体の 倶生神は主の金色の派手な衣に飛び移った。
同名は漢服の黒色のズボンのを握りしめ、心なしか私に怯えた眼差しを向けているようにも見える。
その様子に気づくこともなく秦広王は
「前世は猫か……。まぁ良い。とく、去ね」
そう短く呟くと私を船着き場への道を指で示した。
「どうも」
私は、頬に空気を溜め、やや幼い顔をするとを同名が苦笑いをした。
そして彼が、自身の袖で砂を払った船の最後尾に腰を下ろす。
そして私は、秦広王の出航を知らせる号令を背に激流を渡る死者に袖を振り7日間の長い船旅を楽しむこにとした。
彼らがはじめに謁見するのは秦広王。
彼は〖殺生についての罪を裁く審議〗を執り行う。
秦広王は武官風の金の衣を纏った若い男性の姿をしている。
背は六尺ほどの大柄。
衣の袖を巻くり上げ襷掛けにし、鍛え抜かれた腕の筋肉を誇張させている。
髪は短く散切りにし、冠は儀式の時以外はつけていない。
腰には大振りの金の飾りのついた派手な愛刀・三鈷剣を下げ、腰に縄を下げた姿をしている。
そして審議では、死者の両肩に倶生神という鬼神を乗せその鬼神の報告に基づいて死者を取り調べる。
審議の内容は帳面に記され、審議の決次第で死者達は3つの班に分けられる。
彼は、最後に寅の刻を告げる鐘の合図と共に川を渡る号令を出すのが仕事だ。
秦広王は、今日も、いつもの通り死者の名を川岸まで届くような大きな声で叫び、死者の選別を始めた。
今日の死者は、いつもよりも少なかったらしい。
半刻、経つと皆、川辺の冷たい地面には、私だけが取り残された。
秦広王は私の姿を見つけると驚いて目を見開いた。
その顔は、心無しか少し赤い。
彼は、私の双眼を直視せず、耳辺りに視線を置いているようだった。
秦広王は、私の視線に気がつくと我に返り、部下の赤い小鬼に名前を確認する。
「……。まだ、名前を呼ばれていない女がいるようだ、が?」
少し怒ったような赤い顔をした秦広王は私の両肩に倶生神の同生(善い行いの報告をする・女の子)を乗せ、小鬼を見下ろした。
小鬼はしばらくの沈黙の後 、
「えっと……お名前は……」
巻子の隅から隅を見返しても私の名前がないという事実を主にどう告げるか額に汗をかき、動揺しているように右往左往しだした。
名前なんかあるはずも無い。当然だ。
「あっ?なんか言ったか?」
秦広王は小鬼のもたついた様子に苛立ち上から巻子を覗き見た。
(今が好機だわ)
同じ頃、私は胸の前で虹色に光る小さな玉に掌を合わせ小声でとある願いを早口で呟いた。
そして玉を落とさないように懐に隠すと、前髪を掻き上げ、口角を上げ、怪しく笑う。
小鬼が大きな目を見開き再び書簡を見直すと書簡の端に「金」という名前があるのを見つけ歓喜の雄叫びをあげた。
「金……様。大変、お待たせいたしましたっ」
小鬼は私に頭を垂れると三歩下がり審議の為、泰広王に場所を開けた。
「はぁ~、面倒なのが来ちまったなぁ……」
秦広王は私の左肩に幼児のような容姿をした倶生神の同名(悪い行いの報告をする・男の子)を乗せると意味ありげな溜息をついた。
そして審議が始まった。
まずはじめに秦広王は私の右肩に座っている同生に前世の殺生について問う。
すると同生はこう言った。
「彼女は、前世は猫。妹猫が崖から落ちそうになるのを助けようとして、自ら犠牲になりました……」
そう言い、金の刺繍の入った桃色の漢服の袖で涙を拭いた。
彼女は感受性が豊かな性格らしい。
私は幼子の言葉を聞き終えると同生の2つ縛りを団子に結い上げた髪を優しく撫ぜ、黒のスカートに落ちた涙を乾くのを静かに見つめていた。
「うん」
秦広王は彼女の報告を聞き終えると次に私の左肩に乗っている同名に 「殺生はあったか」 短く問う。
同名は主の問いに答えるため、薄青の地に金の刺繍を施した漢服の懐の前に小さな手を合わせた。
そして私の心を読もうと瞼を閉じた瞬間、頭の中が搔きまわされるようなそんな嫌な感覚に冴えなまれたように大きくふらついた。
こんな不吉な感覚を味わったのは彼は初めてだったのか。
私の肩の布を掴み蒼い顔をしたまま 「問題ございません……」 そう、短く答えた口をつぐんだ。
その言葉を言い終わらないうちに2体の 倶生神は主の金色の派手な衣に飛び移った。
同名は漢服の黒色のズボンのを握りしめ、心なしか私に怯えた眼差しを向けているようにも見える。
その様子に気づくこともなく秦広王は
「前世は猫か……。まぁ良い。とく、去ね」
そう短く呟くと私を船着き場への道を指で示した。
「どうも」
私は、頬に空気を溜め、やや幼い顔をするとを同名が苦笑いをした。
そして彼が、自身の袖で砂を払った船の最後尾に腰を下ろす。
そして私は、秦広王の出航を知らせる号令を背に激流を渡る死者に袖を振り7日間の長い船旅を楽しむこにとした。
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