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冥府②

62、→非難、こんな日←

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「やっぱり あなたくらいのうつわの小さな女が“十王じゅうおう”なんて可笑おかしいと思ってたのよ。後は任せなさい。仕事も泰山王様たいざんおうさまのことも……」


  前世、姉であたった、じんという名の女はこの言葉を残し、地蔵菩薩様じぞうぼさつさまの執務室の扉を開けっ放しにして出て行った。 

前世と同じ 桃色の漢服のそでをはためかせ、翡翠ひすいの豪華な髪飾りを揺らしながら……。 


「申し訳ございません。五道様ごどうさま……」 


じんの去った後、部屋には2人《ふたり》の人型ひとがたの者達が残された。  

五道転輪王と部下のである。  

は床に頭をこすり付けて大きな身体からだに似合わず、すすり泣きをしている。 


「泣かないで、悪いのは私の方だから……」 


私はこれから裁きのために地蔵菩薩様じぞうぼさつさまが座るであろう大きめの黒檀こくたん椅子いすを見つめ、寿服じゅふくすそを整えて正座を直した。  

私の今日の私の出で立ちは白い寿服じゅふくに髪を高く結い上げ、飾りのついていない黒いひもで髪を結上げている。 

この格好でこの床に正座するのは2度目だ。 

前回は、自室の“朱の扉”から正規の手続きをせずに地獄道じごくどうに送った罪で丸、三刻6時間こってりと絞られた。
 
そして「次は無い」と言われている。


今日、私の 寿服《じゅふく》のたもとは心なしか、いつもより少しふくらんで不安定だ。  


(それにしても査証さしょう判子はんこを打ち間違えるなんてどうかしてるよ。それも人間道にんげんどう地獄道じごくどうのものなんかを……)

 グシャ

私はから判を打ち間違えた巻子かんすを受け取ると静かに胸に抱いた。  

くだんの紙には本来、人間道にんげんどうに行く予定の善良な死者の通行許可書に地獄道じごくどうの判が押してある。  

巻子かんすは私が判を押す前に事前に部下が仕分ける。

だが、それを確認して判を押さなかった私にも落ち度はある。

泰山王たいざんおうの部下が気が付き、すぐに知らせてくれたからよいものの、もし死者があの鳥居とりいくぐっていたら死者はこの世とあの世の狭間はざまを永遠に彷徨さまようことになっていたことだろう。 


(泰山王たいざんおうのことが……気になって間違えましたじゃぁ、言い訳にもならないよなぁ……)  


そんなことを考えながら私は再び眼を閉じた。   

私は自身の中にき上がるいくつもの邪心を説き伏せた。 

そして背筋を伸ばし、覚悟を決めるとまぶたを開き、裁きのときを座して待つことにした。 



地蔵菩薩様じぞうぼさつさまは私の期待を裏切り、いつまでたっても執務室に現れなかった。 

 呼ばれたから来たわけではなかったので、来ないこともあるかも知れないとは考えていた。

だが、起きた事の重要性を考えれば即、解雇でもおかしくはなかったはずの案件だ。

なのに地蔵菩薩様じぞうぼさつさまの部下の小鬼の伝言では実害がなかったので【おとがめなし】らしい。 

この一件は十王じゅうおう総出の迅速な事務処理のおかげで事なきを得た。 

だが、私の心の中にはあの女の言い残したあの言葉が朱の宮殿に帰った今もくすぶっている。


「私は……十王じゅうおうにふさわしくない、か」


そうつぶやくと私は私室の扉を開け放ち、私物を避けながら歩を前へと進めた。

 そして試作のガチャガチャの機械の前に座わるとハンドルを優しく握りしめ裁きの時を自ら裁きを早める事にしたのだった。  
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