上 下
63 / 79
冥府②

61、→いたぶる舞台←

しおりを挟む
「あの女が冥府めいふに来てからろくなことがない!!」 


今日は十王じゅうおう定例会議の友引ともびき。 

 老齢な容姿の都市王としおうは朝早くから苦虫をつぶしたような表情をして茶器を握りしめて、こうつぶやいた。 

 心なしか自慢の長いひげも今日は元気がないように見える。 


「全くだ。昨日あの女、俺のところに来て橋の色をきんからももに変えろと言って来た。橋の色のけんを断ったら俺の部下の倶生神くしょうしんを蹴りつけて帰っていったぞ。挙句、橋に着けてあった宝石を5つ程、がして持って行った。更にその後、嫌がらせに賽の河原の鬼俺の部下に言いがかりをつけ、無礼にもむち打ちしたとも聞く。あいつに何の権限があるんだ!」  


秦広王しんこうおうは机の上に置かれたこぶしを固く握りしめ、声を押し殺して話を続けた。 

その額には怒りで血管が浮き出てしまっている。 

その様子に他の十王じゅうおう溜息ためいきで同意の返事をした。 

その後も会議の序盤は他の十王達じゅうおうたちじんの愚行を披露する場となり、場が白熱したのは言うまでもない。 


「だが、1番の被害者は……」


皆は一通り悪口を言い終えると泰山王たいざんおうの方を向き、気の毒な視線を送った。

泰山王たいざんおうはいつもと同じ洗練された山梔子くちなし色の衣をまとってはいたが、目の下はくまができ、どこかやつれた印象さえ見受けられた。

それもそのはず、泰山王たいざんおうは私邸でも執務室でも、じんの膨大な量の“我がまま”を聞いて過ごさなくてはいけないのだ。 


泰山王たいざんおう様、いかが致しましょう?」 

「昨日はまだ、まし・・だったのか……」


泰山王たいざんおう椅子いすに座り、心配そうに眉間みけんにシワを寄せる小鬼からの書簡を奪うように受け取った。

そして書簡を読み終えると蒼白い顔をさらに蒼くさせ、力なく溜息ためいきをついた。 

初江王しょこうおうはそんな泰山王たいざんおうの後ろに立ち、書簡の中身を盗み見ると団扇うちわで口元を隠しまゆを下げてこうつぶやいた。  


「これは ひどい」 

「はぁ~」


その声を聞き都市王としおうは隣に座る泰山王たいざんおうの肩に手を置き溜息ためいきをついた。  

じん冥府めいふに来てから連日、泰山王たいざんおうに自慢の色気で甘えて見せ、宝飾や反物を買ってくれるよう催促していると風のうわさで聞いていた。 

 はじめのうちはじんの自慢の豊満な胸や色気に負け、好きなだけ買い与えていた泰山王たいざんおうであった。

が、私邸に与えた一室にじんの私物が入りきらなくなるとくらを要求してきた所から急激に熱が冷めていったらしい。  

そして離宮、昨日はついに大きめのに別荘(天道てんどうにある泰山王の私邸)を要求されたらしい。  

そして今日、会議に出る泰山王たいざんおう宛の書簡に『小鬼30人に自分の衣食住の世話をするように手配をしてくれ』と書いて寄こしてきたらしかった。  

このタイミングで書簡を寄越したのは私への当てつけだろうか。


「確か、じん殿を秘書として採用されたのではなかったかな、泰山たいざん殿」 

「あ、あ、確か……そうだった。初めは頑張っているようにも見えたのだ。あれでも、だが、3日みっかも続かなかった……。あぁ、あの金切り声を聞くのはもううんざりだ。想像を絶する。それくらいなら……」

「待て!泰山たいざん殿、部下を30人もあの女に取られたら仕事ができなくなる。とりあえず、この件は保留、保留で!!」  


珍しく口を開いた宋帝王そうていおうの言葉に力なくうなずくと泰山王たいざんは書簡に許可の判を押そうとした。

そして初江王しょこうおうが全力でその愚行を止めているのを私は冷たい目で見守っていた。  

連日の苦行罵声じん我儘わがままで彼は感覚が麻痺まひしているように見受けられる。  


「はぁ~」 (全く、皆、何やってるの……十王じゅうおうともあろう者が) 


私は意味ありげな溜息ためいきをつき墨色の天井を見上げ、凝り固まった肩の筋肉をほぐす為、伸びをした。 

 ガチャンッ パリンッ

すると突然、隣から茶器が割れる音と共に私の部下の朱の衣を着た小鬼が右のとがった耳に手を当てガタガタと震えだした。  


「えっ。はい。はい。はい!?……」 


小鬼はその言葉まで言い終わると椅子いすに座る私をすがる様な目で見上げ、口を開いた。 


五道様ごどうさま!大変です!急ぎ朱の宮殿にお戻りください!大事件です!!」 


会議はこの言葉でお開きとなったが、十王達じゅうおうたちはこの一件で休日出勤を強いられることとなったのだ。 

この件については後に詳しく記載していく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...