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冥府②
61、→いたぶる舞台←
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「あの女が冥府に来てからろくなことがない!!」
今日は十王定例会議の友引。
老齢な容姿の都市王は朝早くから苦虫を潰したような表情をして茶器を握りしめて、こう呟いた。
心なしか自慢の長い髭も今日は元気がないように見える。
「全くだ。昨日あの女、俺のところに来て橋の色を金から桃に変えろと言って来た。橋の色の件を断ったら俺の部下の倶生神を蹴りつけて帰っていったぞ。挙句、橋に着けてあった宝石を5つ程、剥がして持って行った。更にその後、嫌がらせに賽の河原の鬼に言いがかりをつけ、無礼にも鞭打ちしたとも聞く。あいつに何の権限があるんだ!」
秦広王は机の上に置かれた拳を固く握りしめ、声を押し殺して話を続けた。
その額には怒りで血管が浮き出てしまっている。
その様子に他の十王は溜息で同意の返事をした。
その後も会議の序盤は他の十王達も金の愚行を披露する場となり、場が白熱したのは言うまでもない。
「だが、1番の被害者は……」
皆は一通り悪口を言い終えると泰山王の方を向き、気の毒な視線を送った。
泰山王はいつもと同じ洗練された山梔子色の衣を纏ってはいたが、目の下は隈ができ、どこかやつれた印象さえ見受けられた。
それもそのはず、泰山王は私邸でも執務室でも、金の膨大な量の“我が儘”を聞いて過ごさなくてはいけないのだ。
「泰山王様、いかが致しましょう?」
「昨日はまだ、ましだったのか……」
泰山王は椅子に座り、心配そうに眉間にシワを寄せる小鬼からの書簡を奪うように受け取った。
そして書簡を読み終えると蒼白い顔をさらに蒼くさせ、力なく溜息をついた。
初江王はそんな泰山王の後ろに立ち、書簡の中身を盗み見ると団扇で口元を隠し眉を下げてこう呟いた。
「これは ひどい」
「はぁ~」
その声を聞き都市王は隣に座る泰山王の肩に手を置き溜息をついた。
金は冥府に来てから連日、泰山王に自慢の色気で甘えて見せ、宝飾や反物を買ってくれるよう催促していると風の噂で聞いていた。
はじめのうちは金の自慢の豊満な胸や色気に負け、好きなだけ買い与えていた泰山王であった。
が、私邸に与えた一室に金の私物が入りきらなくなると蔵を要求してきた所から急激に熱が冷めていったらしい。
そして離宮、昨日は遂に大きめのに別荘(天道にある泰山王の私邸)を要求されたらしい。
そして今日、会議に出る泰山王宛の書簡に『小鬼30人に自分の衣食住の世話をするように手配をしてくれ』と書いて寄こしてきたらしかった。
このタイミングで書簡を寄越したのは私への当てつけだろうか。
「確か、金殿を秘書として採用されたのではなかったかな、泰山殿」
「あ、あ、確か……そうだった。初めは頑張っているようにも見えたのだ。あれでも、だが、3日も続かなかった……。あぁ、あの金切り声を聞くのはもううんざりだ。想像を絶する。それくらいなら……」
「待て!泰山殿、部下を30人もあの女に取られたら仕事ができなくなる。とりあえず、この件は保留、保留で!!」
珍しく口を開いた宋帝王の言葉に力なく頷くと泰山王は書簡に許可の判を押そうとした。
そして初江王が全力でその愚行を止めているのを私は冷たい目で見守っていた。
連日の苦行と金の我儘で彼は感覚が麻痺しているように見受けられる。
「はぁ~」 (全く、皆、何やってるの……十王ともあろう者が)
私は意味ありげな溜息をつき墨色の天井を見上げ、凝り固まった肩の筋肉をほぐす為、伸びをした。
ガチャンッ パリンッ
すると突然、隣から茶器が割れる音と共に私の部下の朱の衣を着た小鬼が右の尖った耳に手を当てガタガタと震えだした。
「えっ。はい。はい。はい!?……」
小鬼はその言葉まで言い終わると椅子に座る私を縋る様な目で見上げ、口を開いた。
「五道様!大変です!急ぎ朱の宮殿にお戻りください!大事件です!!」
会議はこの言葉でお開きとなったが、十王達はこの一件で休日出勤を強いられることとなったのだ。
この件については後に詳しく記載していく。
今日は十王定例会議の友引。
老齢な容姿の都市王は朝早くから苦虫を潰したような表情をして茶器を握りしめて、こう呟いた。
心なしか自慢の長い髭も今日は元気がないように見える。
「全くだ。昨日あの女、俺のところに来て橋の色を金から桃に変えろと言って来た。橋の色の件を断ったら俺の部下の倶生神を蹴りつけて帰っていったぞ。挙句、橋に着けてあった宝石を5つ程、剥がして持って行った。更にその後、嫌がらせに賽の河原の鬼に言いがかりをつけ、無礼にも鞭打ちしたとも聞く。あいつに何の権限があるんだ!」
秦広王は机の上に置かれた拳を固く握りしめ、声を押し殺して話を続けた。
その額には怒りで血管が浮き出てしまっている。
その様子に他の十王は溜息で同意の返事をした。
その後も会議の序盤は他の十王達も金の愚行を披露する場となり、場が白熱したのは言うまでもない。
「だが、1番の被害者は……」
皆は一通り悪口を言い終えると泰山王の方を向き、気の毒な視線を送った。
泰山王はいつもと同じ洗練された山梔子色の衣を纏ってはいたが、目の下は隈ができ、どこかやつれた印象さえ見受けられた。
それもそのはず、泰山王は私邸でも執務室でも、金の膨大な量の“我が儘”を聞いて過ごさなくてはいけないのだ。
「泰山王様、いかが致しましょう?」
「昨日はまだ、ましだったのか……」
泰山王は椅子に座り、心配そうに眉間にシワを寄せる小鬼からの書簡を奪うように受け取った。
そして書簡を読み終えると蒼白い顔をさらに蒼くさせ、力なく溜息をついた。
初江王はそんな泰山王の後ろに立ち、書簡の中身を盗み見ると団扇で口元を隠し眉を下げてこう呟いた。
「これは ひどい」
「はぁ~」
その声を聞き都市王は隣に座る泰山王の肩に手を置き溜息をついた。
金は冥府に来てから連日、泰山王に自慢の色気で甘えて見せ、宝飾や反物を買ってくれるよう催促していると風の噂で聞いていた。
はじめのうちは金の自慢の豊満な胸や色気に負け、好きなだけ買い与えていた泰山王であった。
が、私邸に与えた一室に金の私物が入りきらなくなると蔵を要求してきた所から急激に熱が冷めていったらしい。
そして離宮、昨日は遂に大きめのに別荘(天道にある泰山王の私邸)を要求されたらしい。
そして今日、会議に出る泰山王宛の書簡に『小鬼30人に自分の衣食住の世話をするように手配をしてくれ』と書いて寄こしてきたらしかった。
このタイミングで書簡を寄越したのは私への当てつけだろうか。
「確か、金殿を秘書として採用されたのではなかったかな、泰山殿」
「あ、あ、確か……そうだった。初めは頑張っているようにも見えたのだ。あれでも、だが、3日も続かなかった……。あぁ、あの金切り声を聞くのはもううんざりだ。想像を絶する。それくらいなら……」
「待て!泰山殿、部下を30人もあの女に取られたら仕事ができなくなる。とりあえず、この件は保留、保留で!!」
珍しく口を開いた宋帝王の言葉に力なく頷くと泰山王は書簡に許可の判を押そうとした。
そして初江王が全力でその愚行を止めているのを私は冷たい目で見守っていた。
連日の苦行と金の我儘で彼は感覚が麻痺しているように見受けられる。
「はぁ~」 (全く、皆、何やってるの……十王ともあろう者が)
私は意味ありげな溜息をつき墨色の天井を見上げ、凝り固まった肩の筋肉をほぐす為、伸びをした。
ガチャンッ パリンッ
すると突然、隣から茶器が割れる音と共に私の部下の朱の衣を着た小鬼が右の尖った耳に手を当てガタガタと震えだした。
「えっ。はい。はい。はい!?……」
小鬼はその言葉まで言い終わると椅子に座る私を縋る様な目で見上げ、口を開いた。
「五道様!大変です!急ぎ朱の宮殿にお戻りください!大事件です!!」
会議はこの言葉でお開きとなったが、十王達はこの一件で休日出勤を強いられることとなったのだ。
この件については後に詳しく記載していく。
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