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52、→崖を落ちた子猫たち大怪我←

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妹・銀が行方知れずになってから3時間後。 

その時間は月が傾き始めた頃になっていた。


「ミャ~」(和尚おしょう様、助けて) 
 

 バリッ  ドサ、バタン、ドン

私は崖にしがみつき今も必死で戦っている銀が無事に引き上げられるよう御仏みほとけに願いながら全速力で社務所しゃむしょに向かい走った。   

そして社務所しゃむしょの西まで来ると速度を落とさないまま、前足で障子しょうじを蹴破って社務所しゃむしょに併設されている和尚おしょうの部屋に入り、和尚おしょうの前で止まった。  


「…………っあ」 


猫用のえさであるとりの頭の水煮を仕込んでいたの和尚おしょうは、突然の私の襲来に驚き小さな悲鳴を上げた。  


きん、か……。お転婆てんばはいけないよ。障子しょうじが破れてしまったではないかぁ。それに、そんなにひげを逆立てて。いつも一緒の銀はどうしたんだね……」  

「ふっ~!!」(ついてきて!!)」 


私の刺すような強い眼光に和尚おしょうの身に異常事態が起きたのだと察し、草履ぞうりを履いて前を走る私の後を追いかけて来た。  


(和尚おしょうが察しが良い人てよかった。でも、もう、時間がない……)   


私は必死で闇夜を走り抜けた。 

自分が自分を追い越すそんな不思議な感覚にさいなれるくらい私は必死で走り続けた。 

ただ1匹の妹猫を救う為に……。 

 私は遅れて走る老齢の和尚おしょう苛立いらだち抱えながら本堂の裏手にあるがけの上に立った。 

 がけに張り出た木の枝には妹がいるはずだ。


「ミャ……」(やっぱり、怖い……) 


 私の背丈の何十倍もある高さのがけ奈落ならくの底を見え息をむ。 

肢体ぜんしんが小刻みに震える。 

汗で自慢のひげと尾も下がる。 

けれど、愛する妹の銀を救う為ならと私は短い前足を精一杯伸ばし地面にへばり付いた。 


「……」 (ダメだ。前足では届きそうもない。じゃあ、少しでも長い尻尾で……) 


私はがけのギリギリに立ち尻尾を下に垂らした。


「危ないよ!きん、今、つなを持ってくるから、待っていなさい……」


和尚おしょうはそう言うと社務所しゃむしょへと戻って行った。


「……ミィ」
(あと少し、和尚おしょうを待っていれば、綱を持ってきて助けに来てくれるかもしれない。でも、もし間に合わなかったら……)    


「……ミィャ」(あっ!お姉……) 


 ガラガラガラ……


 私の体重を支えた、へり出したがけの岩ががれ落ち、音を立ててがけの下に崩れ落ちていく。

 がけから落ちた小石は奈落ならくの底まで落ちると小さく音をたてて消えた。

想像していたよりも奈落ならくの底は深いようだ。 


「ミャ(……)」 (でも、銀を早く助けなきゃ。あと少し……)  


私はがけの端にしがみつき、前足に全部の力を加えた。 

だが、その瞬間  

 ガラガラガラ バキッ ザザー 


「……(……)」


「き~ん~!」


私の前足を乗せていた薄い岩盤ががれ落ち、私は岩ごと奈落ならくの底に吸い込まれていった。

頭上からは銀と和尚おしょうの叫び声が聞こえたが、その声を最後に私は冥府めいふへと戻っていった。 

* 

猫・金(きん) 享年6ヶ月。 
 
妹を助けようと奮闘し滑落死かつらくし
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