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後宮

48、→死んでも遺伝子←

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「ここは、どこ?首っ痛…あ、く、首……繋がってる?……」  
 
長い長い想像を絶するような激痛の後、私は気を失ってしまったようだ。 

私は気が付くと真っ白なきりの中でうつ伏せで倒れていた。 

 辺りはほんのりと明るく、そして甘い線香のような香りに満たされている不思議な空間。  

私は目が覚めると飛び起きて1番に自分の首に手を当て、安堵あんどの息をついた。  
 

「首……繋がってる」
 

 私は2度、その同じ言葉をつぶやくと、人生ではじめて当たり前のことがこんなにも幸せなんだと痛感した。 

そして顔に手を当て痛みも相まって声を上げて泣いた。 

* 

どれくらいの時間、泣き続けただろうか。 

 私はこの幻想的な空気の中で私は少しずつ自らの死を悟っていった。 

そして最期さいごに聞いた親しい女の叫び声を思い出し、天に向かってこうつぶやいた。 


「私はもう、そっちには行けないけど無事、元気な皇子を生んでね。斉嬀せいき


 私はそうつぶやくと隣に置かれた大きな鏡の存在に気が付き歩を進めた。 

そして件|《くだん》の鏡の前に立つと白い寿服じゅふくを着た自身の顔をまじまじと見た。 


襟元えりもとに血がついていない……?)   


くだんの鏡は円を縦につぶしたような形。 

それに地獄じごく業火ごうかのような朱い装飾がふちを飾り、鏡の1番上には人間よりも二回ふたまわりほど大きな髑髏どくろが飾られている。 

 その鏡の横の幅は人間の大人の男を3人、ゆうに映せるくらいに大きなものだ。 

 鏡の中の私は肌は透けるほど白く双眼は前世と同じ緑玉エメラルドの瞳をしていた。  

ただ、首の後には見覚えのない、薄く朱い線が何本も彫りこまれている。  


「死んでも容姿は変わらない、か」


私はほおに手を当て意味ありげに深い溜息ためいきをつくと天を見上げた。 

天にも不可解な程、きりが厚くかかっている。 


(これからどうしよう……) 


私の見上げた空は私の心に呼応したように嫌な鈍色ににじみ始めていた。

私の目覚めた場所は、鏡の他に空に七色の虹が架かりきりの向こうに朱色の扉だけがある不思議な空間だった。   

ひまを持て余した私は、扉の近くまで歩いてみることにした。 

扉の前に着くのには、思ったよりも時間はかからなかった。

朱色の扉に近づくと扉には曼荼羅まんだらのような模様が彫り込まれ、高さは六尺2m程の高さであるということが分かった。  

  チリン チリン 

扉の向こうからわずかではあるが、鈴の音のような高い優しい音色が聞こえてくる。 

 その鈴の音は遠くに行ったり近くに来たり、まるで扉の向こうに私を誘っているように聞こえてきた。

 ガチャ 

私はその不思議な音のする扉のノブを恐る恐る右と回すと吸い込まれるように中に進んで行った。   


(あぁ、懐かしいあの線香の匂いとお経が聞こえる……) 


中に入ると扉から少し離れた所に若い姿の短髪の男性が祭壇の前に正座し、経文きょうもんを唱えている後ろ姿が見えた。 

彼の身体からだはそれ程、大きくない。  

細身のその男性は私の気配に気が付くときびすを返し、すごすごと近づいてきた。  

そして唐突とうとつに自身の懐から出した朱色の数珠じゅずを私に差出した。そして 


「ようこそ。りょく貴方あなたは選ばれました。貴方あなた通り名とおりな五道転輪王ごどうてんりんおう。良くつとめるように」 


 そう言うと数珠じゅずと同じ朱色の衣を祭壇さいだんから下げ、私のなで肩に掛けて微笑ほほえんだ。 

そして祭壇さいだんの向こうに置かれた、大きな黒塗りの扉の向こうへと私の手を取りいざなっていく。  

 ガチャ  


「……やっとそろいましたなぁ」 


扉の向こうにいた老齢の男性がこうつぶやくと同時に私の視界はもやが晴れ眼前に異様な光景が広がった。 

男のうながした扉の向こうには、8人の寿服じゅふくの上に色とりどりの羽織った男性らが円卓えんたくに座らされていたのだ。  

十王じゅうおうの誕生である。  
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