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後宮

46、→真実殺人史←

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後宮では皇太后こうたいごう様の意向で後宮入りの儀式の際に新しい妃たちには反物たんものが与えられた。 

皇太后こうたいごう様の覚えがじん桃色ももいろ

私はその名の通り、みどりの反物が下賜かしされた。

じんに与えられた皇太后こうたいごう様に近いへやには反物と同じ色の春に咲く桃色の華が多く植えられた。 

春。牡丹ボタン碧桃ヘキトウ、西洋の珍しい薄桃色の豪奢ごうしゃな花などが庭にあるじを喜ばせようと咲きほこっていた。 

その他に蜜柑ミカンスモモイチゴナツメなどの果物もへやの裏庭に私が植えた。 

裏庭の1番日当たり良い薬草畑にはじんと私の花暦(花個紋)であるくずを植えた。

その隣の池の近くには身体からだの弱い2人私達の為に大葉おおば益母草やくもそうなどの薬草も追加で植えられた。 

じんは「くずの花は花よりも葉が大きく見苦しい」そう言って嫌ったが、私は自分と名と同じ緑の大きな葉が茂るその薬草に毎日、水をやり大切に育てた。 

そしてくずの花がれ落ちた寒い季節、事件は起こった。
  
* 

秋の終わりの新月の夜。 

じんへやに足しげく通う皇帝陛下が風邪かぜこじらせた。

私は皇帝陛下の顔を2度しか見たことがない。 

1度目は後宮に入宮した時。

2度目はじんの月のものが止まり、後宮が慌ただしくなった時だ。 

顔は覚えていないが思ったよりも小柄な人だったと記憶している。 

そして今日、じんも皇帝陛下と時同じくして風邪引かぜをひき寝込んでしまった。 

この頃、後宮で妊娠していたのはじん袁美人えんびじん2人ふたりだけだった。

* 


「……痛いっ!」

新月の夜。 

私はへやの外にかれた小さなあかりを頼りに素手で裏庭にある薬草畑を掘り返していた。  

今日は3日に1回の沐浴もくよくの日。 

良い香りに包まれとこに着きたがったが、姉の腹の子の命がかっている。

背に腹は変えられない。 

湿った土を掘り返すと、私の爪の間に小石が入り込み、全身が生ぬるい土の匂いに包まれた。 

裏庭には月明かり以外のあかりがないので夜目の利かない私にはくずの根を掘り起こすという単純な作業さえも思うように進まなかった。  

くずの根は思ったよりも太く、女ひとりの細腕ほそうででは引き抜くことは難しかった。

今、私の女官はあねに全員、召し抱えられてしまっている。

なので、後宮生活のほとんど全てのことは私1人ひとりで乗り切るしかなかった。 


くずって思ったよりも根が深い……のねっ」 


私は半分ほど掘ったくずの根に体重をかけ後ろに思いっきり引っ張った。


 グッ ボキッ    

     
「あっ……」 


嫌な音と共に私の軽い身体からだは鈍い音と共に闇の中に投げ出された。


「きゃっ!」


 ガンッ

私は身をねじり地面に頭は打つのはどうにか避けられた。 

だが、代わりに背骨が桃の木にぶつかり背中とお腹に激痛が走った。 
 

「痛っ!……」


あまりの激痛に耐えきれず、私は掘り返した土の上でしゃがみ込み言葉を飲んだ。


(痛い……。そんなに勢いよくぶつかってはいなかったはずなのに……。まぁいいわ。目的のくずの根はどうにか抜けた……) 


 ガサッ 


「よっと」


私は土で湿った重い衣を織り上げると納屋自分の部屋へと急いだ。 

夜目が効かない私の両手には泥だらけのくずの根が半分。

それと周りに植えてあった青臭い薬草の束が抱えられていた。 



私達、双子は季節の変わり目によく風邪かぜを引いた。 

乳母うば2人ふたり風邪かぜで寝込んだ時にいつも葛根湯かっこんとうという飲み物を飲ませてくれた。 

乳母うばの作るこの飲み物のおかげで今がある、私はそう思っていた。 

葛根湯かっこんとうの作り方はくずの根をせんじ、水、蜜柑ミカンの絞り汁半量を2回に分けて加えよく混ぜる。 

とろみがつき半透明になったら生姜ショウガ蜂蜜ハチミツを加える。

この作業は後宮入り前に乳母うばに教えて何度か作ったことがある。

どうやら、今回もうまくできたらしい。 


(じんは、性格は悪いけど、私のたった1人ひとりの姉だもの。それに……生まれてくる子には罪はないわ)   


「さぁ、行くわよ」


 バサッ ガタンッ バタンッ

私は間違えて抜いた雑草を乱雑に床に放り投げると、くずの根を急いで薬鉢でせんじた。

そして出来上がった葛根湯かっこんとうを手に泥だらけの衣を適当にはたいて、まず初めに身重のじんの元へと急いだ。 

本当は皇帝陛下のところにはじめに持参すべきなのだろうが、私は身重のじんとお腹の子どもが心配だった。 

皇帝陛下のところには通りがかりのじんの侍女が持参する事を引き受けてくれた。 

そして運悪くこの日、私の不在時に侍女が月1回の掃除にへやを訪れた。 

この侍女が見つけた、床に張り付いた薬草が今後、思わぬ誤解を招くこととなる。 
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