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後宮

42、→喜劇←

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私達、双子姉妹が今日から住む事になる、ここ後宮は皇后こうごう九嬪きゅうひんそれに美人びじんなど厳しい妃階級上下関係がある。 

 後宮の頂点にある皇后のくらいは1番初めに皇帝の男の子を産んだ幸運な女性に与えられる特別なくらいだ。 

 そしてその下のきさきたちにも細かい位分くらいわけがある。 

 九嬪きゅうひんと呼ばれる位は修華しゅうか、|修儀《しゅうぎ|》、修容しゅうよう、|淑妃《しゅくひ|》、|淑媛《しゅくえん》、淑儀しゅくぎ婕妤しょうよ容華ようか充華じゅか

九嬪きゅうひんの定員は1名ずつ、その下の美人びじんという位に定員はない。  

私と双子ふたごの姉、じんは父の口添えで侍女ではなく美人びじんというくらいから後宮に仕えることになった。 

 美人びじんより上の九嬪きゅうひんというくらいは帝の子どもを産み生き残るか、懐妊した者にしか与えられない特別なくらいだ。

なので、生娘きむすめの私達には今、美人びじんというくらいが最上位である。   
 

-今日は先日、皇帝に即位した男の後宮をつくる華を選ぶ吉日。 

建康けんこうの都の中枢にある後宮には高官や豪商の娘などが“笄礼けいれいの儀”を執り行う為、10人余りが後宮の大広間に集められた。   

“笄礼《けいれい》の儀”は所謂いわゆる、“成人の儀”である。

 後に南朝なんちょうと呼ばれるこの時代。

未婚の女性は双紒(揚巻)、結婚すると髪を結い上げかんざしすことが許された。 

なので、未婚の今の私達の髪はまだ結上げられないまま。 

 今日この日、ここ後宮にて私達は“笄礼けいれいの儀”を迎え大人の階段を昇る事になる。

皇帝にとつぐうら若き乙女たちは今日、皆同じ髪型と衣を着せられ、立膝をつき、扉を背に1列に並ばされていた。  

そして、それぞれの女の後ろには1人ひとりずつ女官がつき従う。

次に双紒2つ縛りの髪の髪をほどき、かんざしせるように高く結い上げていく。  

そして、全ての女の髪が結い終わると広間の中央に置かれた雛壇ひなだんの上に置かれた大きめの椅子いすに座っていた朱色の衣をまとった女性が立ち上がった。 

年の頃はよく分からない小柄な女性だ。

だが、彼女のその立ち姿は、まるで芍薬しゃくやくの華がそこに咲いたかのように美しいものであった。
 
かの女性の かぶりには豪華な華飾りをあしらった冠が乗せられている。 

朱色の衣をまとった女性は女達を一瞥いちべつするとゆっくりと階段を滑るように、こちらに降りて来た。 

 口から上が覆われた衣と同じ生地の面布を掛けているので表情はよく分からない。  

この国では、朱は黄に次いで特別な色だ。 

黄は皇帝のみ、朱は皇太后または皇后など女性の中で最高位の女性にしか着ることの許されない禁色だ。  


皇太后こうたいごう様!」   


老齢の女官が皇太后と呼んだ女性が階段から降りると列の左端の女の前で立ち止まり、儀式は始まった。 

 皇太后付きの若い女官が、鼈甲べっこうかんざしを朱い布に包んで皇太后の胸の高さにゆっくりと差出した。

 皇太后は、面布を上げると布からかんざしを摘まみ上げ、左端に座らされた女の髪に比翼ひよくが彫られた鼈甲べっこうかんざしして儀式を形式的に進めていく。 

 最後に部屋に入った私は女たちの最後尾に座わらされている。


  (お父様に、皇太后さまの顔は直接見てはいけないと教えられたけれど、どんな方かしら……?) 


私はこの儀式の最中、自分自身の好奇心と理性との狭間はざまで格闘をしていた。  

後宮のきらびやかな生活や他の女たちにはまるで興味はないが、死と隣り合わせの後宮で生き延びてきた、女たちの頂点に君臨する女性には興味があった。  

私は姉のじんの様に自分が皇太后になる野心などは毛頭もうとうない。

だが、【建康けんこうの至宝】と呼ばれていた祖母と同じ後宮にいた女性には興味があるのだ。 

 そして私の足がしびれ始めた頃、ついじんの順が回ってきた。  

皇太后はじんの前に立ち止まると彼女の肢体からだめ回すように見つめた。 

そして 「皇帝陛下よくに尽くすように」 と蜜のような甘い声で彼女に耳打ちをした。

この日、甘言かんげん頂戴ちょうだいしたのは後にも先にもじんただ1人ひとりだった。 

 じんは突然、皇太后こうたいごうという高貴な身分の女性に声を掛けられたことに動揺し、頭を上げてしまったが、私は床の盛り上がった繊維に意識を集中させその場をしのいだ。 

 この時代、高貴な女性の顔を見るということは絶対のタブーである。 


(母親なら大切に育てた息子の趣味位、分かるものなのかもしれない) 


そう思いながら横に座るじんの衣越しでも分かる豊満な胸を横目に私は自分の頭にかんざしが挿されていく時間が過ぎ去るのを待った。 

 私が薄眼を開いて見た皇太后の胸元にもじんと同じくらいの豊かな谷がそこにあった。 
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