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五道転輪王

68、→退化した子猫、確かいた……←

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退化たいかした子猫こねこたしかいたなぁ……」

この言葉は関東で有名な猫寺に私と私の初めての彼氏。

浜田義隆はまだよしたかと遊びに行った時に和尚おしょうから聞いた言葉である。  

浜田義隆は私の近所に住む幼馴染おさななじみでもあり同級生だ。 

また、A組のトップの常連でもありヒエラルキーの頂点に君臨する存在の彼。

彼は私の自慢の彼氏だ。 


-【退化した子猫】  

今回、私達はテスト週間の前にSNSで特集された話題の子猫が持つという緑玉エメラルドの瞳を直接、見たくてこの寺を訪れたのだ。

だが、くだんの白い毛の子猫は半年程前に亡くなっていた。  

彼は和尚おしょうからその話を聞くと残念そうに小さく溜息ためいきをついた。

しかし私は彼とは違い、ここに来る前から猫が亡くなったことも、例の猫のその後さえもこの寺に来る前から知っていた。 

その猫だった元・人間は、冥府めいふに来るなり私の心を寄せていた男性泰山王を散々、たぶらかしていたからだ。 

今はどうなったかは知らないが、恐らく状況は私がいた時と然程さほど、変わっていないだろう……。

くだんの猫の他の兄弟たちは皆、SNSで見た猫と同じ白の毛並みだったが目は黒色。 

母猫も兄弟たちと同じ色の目をしているのだという。 

彼が言うにはくだんの猫はSNSではじめは【お祈りをする猫】として取り上げられ話題になったらしい。  

だが、最期死期間近には話題に上がったように毎日お祈りをすることもなくなり、食べては寝てを繰り返す怠惰なふつうの猫になってしまったらしい。

和尚おしょうの話では子猫の最期さいごはこんな感じだったそうだ。 

 ある雨の日、きんと呼ばれていた緑玉エメラルドの瞳を持つ猫は、がけの張り出た枝に引っかかっている妹猫を助けようとして和尚おしょうのいる社務所へと飛び込んで来た。  

そして和尚おしょうは落ち着かない猫の様子から彼女の唯一、仲の良い妹猫に何か異変が起きた事に気が付いた。

だが、和尚おしょうは老齢で闇夜に目がかすみ、立ち上がった時に法衣のそでを踏みよろけてしまった。 

挙げ句、運悪く先を行くその猫を見失ってしまう……。 

更に草履ぞうりを履くのにもたついた。 

 その為、姉猫が先にがけへと駆け、自らの尾でがけからはみ出た小枝に引っかかった妹猫を引き上げようとしたらしい。

だが、慌てた拍子ひょうしに子猫はバランスを崩し、がけの下に落ちて頭を打ち命を落としたということだった。   

和尚おしょうがけから落ちた猫をすぐに猫専用マンションの1階にある動物病院に連れて行ったのだが、その時には……すでに虫の息だったらしい。  

息を引き取る間際、レントゲンを撮ったのだが、状態が悪く手術は困難だと最期さいごは安楽死させたらしかった。 

 その時、撮ったレントゲンの胸の辺りに仏具の形をした小さな金属が数個、写っていたらしい。

だが、不思議な事にその金属は火葬した時にはなくなっていたと言う。   


「あのは、はじめの2ヶ月位は毎夕、必ず祈祷きとうに来ていたが、5ヶ月もすると他の猫たちと同じようにネズミを捕ったり、日中は寝てばかりいたよ」 


和尚おしょうはそう言うとその子猫の母親だという猫を連れてきた。 

その猫は経産婦のわりに白いつやの良い柔らかな毛並みをしていた。  



余談だが、和尚おしょうが連れてきた母猫は子育てに放任的なところがあったので、子どもたちが乳離れした後すぐに避妊したと言っていた。 

 私はその艶やかな毛並みと黒い目の母猫を見て数千数百年前に母と呼んでいた美しい女性のことを思い出していた。  
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