上 下
39 / 79
岩沢和文

37、→アニマルマニア←

しおりを挟む
「いらっしゃい猫ちゃんたち。みんな待っていたわ。」 


春。 

みさきさんは某大手広告代理店を退職した。 

 みさきさんは会社を辞める1ヶ月程前「会社の人たちが私が寿退社結婚するってうわさしていたんだ」と酔っ払いながらうれしそうに帰って来たが、その相手というものをおいらたちは見た記憶がない……。 
 
みさきさんはタマさんの一件以来、心機一転『アニマルセラピー』の会社を新設すると決め、準備をしていたらしかった。  
 
名前は“アニマルマニア” 

従業員は母猫の、おはぎ。おいら、タマさん。時々、けいだ。

猫は犬よりも自分勝手な生き物なのでアニマルセラピーには向かないと言われているが、おいらたちは人間が大好きだった。 

週3回児童養護施設や老人ホームを慰問いもんする大役をになっている。 

* 

「タマ。今日はあなたに会わせたいご婦人がいうの。会ってくれる?」


ある晴天の朝。 

近所の老人ホームにて飼い主兼社長のみさきさんは突然にそう言うとホームの床に座るタマさんに優しく右手を差し出した。 


「みゃっ!」


タマさんは差し出されたその手に優しく右の前足を乗せるとのどを鳴らし返事をする。

返事はYESだ。 

そしてみさきさんはタマさんの両脇りょうわきを抱え、お尻に手を優しく添えると施設の中央にある薔薇ばら園へと向かった。  

薔薇ばら園には赤、白、黄など大小、様々な薔薇ばらが咲き誇っていた。 

鼻の奥をくすぐる良い香りもする。 

 そこには緑色の車椅子くるまいすに座った猫背の老齢の女性が若い女性の職員と花殻はながらみ取って笑い合っていた。  


「どちら様?」


品の良い老齢の女性はみさきさんとタマさんが薔薇ばら園に入るのに気が付くと優しく声を掛けてきた。 

 老齢の女性はゆっくりと顔を上げると幼女のようなあどけない顔でふたりに笑いかける。  

老齢の女性の顔を見た瞬間、タマさんは眼を大きく見開き、ひまを持て余しがてら揺らしていた尾の動きをピタリと止めた。 


「みゃっ(うそ……)」 


タマさんはその老齢の女性の匂いを確認するとみさきさんの腕をすり抜け彼女の元に走っていってしまった。 

老齢の女性は両手を広げるとタマさんをひざに乗せ優しく頭をでる。 そして  


「会いたかったわ。……タマ。独りひとりにしてごめんなさいね……」 


その言葉の後、老齢の女性はタマさんを胸に抱き寄せると額に優しくキスをした。 

タマさんは眼に涙をめ、声にならない声を絞り出してこう言った。 


「みゃん……ん(私も会いたかっ……た)」 


おいらはみさきさんとその様子を薔薇ばら園の支柱の陰から眺め声をあげて泣いた。  

その日、施設では一瞬だけ記憶を取り戻した元飼い主の老齢の女性とタマさんの再開を祝福した。 

その日、おやつに猫も食べることのできる小さな猫の形をしたデザートケーキが出された。

この日から、おいらたちは心もお腹も満たされ幸せな余生をおくることになったのだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...