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岩沢和文
37、→アニマルマニア←
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「いらっしゃい猫ちゃんたち。みんな待っていたわ。」
春。
岬さんは某大手広告代理店を退職した。
岬さんは会社を辞める1ヶ月程前「会社の人たちが私が寿退社するって噂していたんだ」と酔っ払いながら嬉しそうに帰って来たが、その相手というものをおいらたちは見た記憶がない……。
岬さんはタマさんの一件以来、心機一転『アニマルセラピー』の会社を新設すると決め、準備をしていたらしかった。
名前は“アニマルマニア”
従業員は母猫の、おはぎ。おいら、タマさん。時々、圭だ。
猫は犬よりも自分勝手な生き物なのでアニマルセラピーには向かないと言われているが、おいらたちは人間が大好きだった。
週3回児童養護施設や老人ホームを慰問する大役を担っている。
*
「タマ。今日はあなたに会わせたいご婦人がいうの。会ってくれる?」
ある晴天の朝。
近所の老人ホームにて飼い主兼社長の岬さんは突然にそう言うとホームの床に座るタマさんに優しく右手を差し出した。
「みゃっ!」
タマさんは差し出されたその手に優しく右の前足を乗せると喉を鳴らし返事をする。
返事はYESだ。
そして岬さんはタマさんの両脇を抱え、お尻に手を優しく添えると施設の中央にある薔薇園へと向かった。
薔薇園には赤、白、黄など大小、様々な薔薇が咲き誇っていた。
鼻の奥をくすぐる良い香りもする。
そこには緑色の車椅子に座った猫背の老齢の女性が若い女性の職員と花殻を摘み取って笑い合っていた。
「どちら様?」
品の良い老齢の女性は岬さんとタマさんが薔薇園に入るのに気が付くと優しく声を掛けてきた。
老齢の女性はゆっくりと顔を上げると幼女のようなあどけない顔でふたりに笑いかける。
老齢の女性の顔を見た瞬間、タマさんは眼を大きく見開き、暇を持て余しがてら揺らしていた尾の動きをピタリと止めた。
「みゃっ(うそ……)」
タマさんはその老齢の女性の匂いを確認すると岬さんの腕をすり抜け彼女の元に走っていってしまった。
老齢の女性は両手を広げるとタマさんを膝に乗せ優しく頭を撫でる。 そして
「会いたかったわ。……タマ。独りにしてごめんなさいね……」
その言葉の後、老齢の女性はタマさんを胸に抱き寄せると額に優しくキスをした。
タマさんは眼に涙を溜め、声にならない声を絞り出してこう言った。
「みゃん……ん(私も会いたかっ……た)」
おいらは岬さんとその様子を薔薇園の支柱の陰から眺め声をあげて泣いた。
その日、施設では一瞬だけ記憶を取り戻した元飼い主の老齢の女性とタマさんの再開を祝福した。
その日、おやつに猫も食べることのできる小さな猫の形をしたデザートケーキが出された。
この日から、おいらたちは心もお腹も満たされ幸せな余生をおくることになったのだった。
春。
岬さんは某大手広告代理店を退職した。
岬さんは会社を辞める1ヶ月程前「会社の人たちが私が寿退社するって噂していたんだ」と酔っ払いながら嬉しそうに帰って来たが、その相手というものをおいらたちは見た記憶がない……。
岬さんはタマさんの一件以来、心機一転『アニマルセラピー』の会社を新設すると決め、準備をしていたらしかった。
名前は“アニマルマニア”
従業員は母猫の、おはぎ。おいら、タマさん。時々、圭だ。
猫は犬よりも自分勝手な生き物なのでアニマルセラピーには向かないと言われているが、おいらたちは人間が大好きだった。
週3回児童養護施設や老人ホームを慰問する大役を担っている。
*
「タマ。今日はあなたに会わせたいご婦人がいうの。会ってくれる?」
ある晴天の朝。
近所の老人ホームにて飼い主兼社長の岬さんは突然にそう言うとホームの床に座るタマさんに優しく右手を差し出した。
「みゃっ!」
タマさんは差し出されたその手に優しく右の前足を乗せると喉を鳴らし返事をする。
返事はYESだ。
そして岬さんはタマさんの両脇を抱え、お尻に手を優しく添えると施設の中央にある薔薇園へと向かった。
薔薇園には赤、白、黄など大小、様々な薔薇が咲き誇っていた。
鼻の奥をくすぐる良い香りもする。
そこには緑色の車椅子に座った猫背の老齢の女性が若い女性の職員と花殻を摘み取って笑い合っていた。
「どちら様?」
品の良い老齢の女性は岬さんとタマさんが薔薇園に入るのに気が付くと優しく声を掛けてきた。
老齢の女性はゆっくりと顔を上げると幼女のようなあどけない顔でふたりに笑いかける。
老齢の女性の顔を見た瞬間、タマさんは眼を大きく見開き、暇を持て余しがてら揺らしていた尾の動きをピタリと止めた。
「みゃっ(うそ……)」
タマさんはその老齢の女性の匂いを確認すると岬さんの腕をすり抜け彼女の元に走っていってしまった。
老齢の女性は両手を広げるとタマさんを膝に乗せ優しく頭を撫でる。 そして
「会いたかったわ。……タマ。独りにしてごめんなさいね……」
その言葉の後、老齢の女性はタマさんを胸に抱き寄せると額に優しくキスをした。
タマさんは眼に涙を溜め、声にならない声を絞り出してこう言った。
「みゃん……ん(私も会いたかっ……た)」
おいらは岬さんとその様子を薔薇園の支柱の陰から眺め声をあげて泣いた。
その日、施設では一瞬だけ記憶を取り戻した元飼い主の老齢の女性とタマさんの再開を祝福した。
その日、おやつに猫も食べることのできる小さな猫の形をしたデザートケーキが出された。
この日から、おいらたちは心もお腹も満たされ幸せな余生をおくることになったのだった。
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