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五道転輪王

66、→身体なだらか←

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 五道転輪王が『親ガチャ』を回し、生まれ変わったのは中田佳那なかたかなという名前の人間道にんげんどうに住まう14歳の少女だった。  
 
中学2年生。 

色白の顔の上に黄金比率に並べられたパーツはどれも美しく、髪も瞳も黒。 

 私はこの上から読んでも下から読んでも同じ響きの“回文”になっている新しい今世の名前が気に入っていた。 



 転生した先のくだんの少女は“ミニマリスト”という生活スタイルを好む人物のようだった。 

家具のほとんどがモノトーンで味気が無い。 

 唯一、カーテンが前世の五道転輪王と同じ深緑の生地が使われている。  
 
部屋の隅に寄せられた学習机の上には教科書、参考書、ノートが乱雑に積まれていて今にも雪崩なだれが起きそうな雰囲気をかもし出している。

どうやら私は生まれ変わった後も整理整頓が苦手なさがらしかった。 


 カチャッ 

私は自室の窓を開けマンションから見える隣のベランダに目を移した。 

隣の ベランダには黄色や紫のビオラが咲いている。八分咲きくらいだ。 

カレンダーを見ると今はまだ5月。

今は、ちょうど春風の心地よい季節のようだ。 


「ん~。身体からだなだらか」


私は 肢体からだをめいいっぱい伸ばし、肺いっぱいに新鮮な朝の空気を吸い込んだ。

すると冷たく心地良い風が全身からだ颯爽さっそうと駆け巡った。
  

(こんなに沢山、息を吸い込んでも苦しくない……)


今世の転生してからの身体からだは、 前世の人間道にんげんどう身体からだとは比べ物にならないくらい健康的な身体からだのようだ。 

 私は春風を受け、当たり前の幸せを長い間、みしめていた。


「あっ!いっけない。もう学校に行く時間だわ……」 


私はしばらくの後、窓辺から風に誘われるように振り返ると壁に掛けられた時計を見上げた。 

6時40分。

 もう登校の時刻だ。

私は床に置きっぱなしのテニスバッグを踏まないように気を付けながら階段を急いで駆け下りた。 

モノトーンの部屋とは対象的な華やかな色合いの玄関先には、両親と思われる壮年そうねんの男女と若い女性と私が肩を並べているカラー写真が飾られていた。

 家族が皆、仲良さそうに寄り添って笑っている。 

姉だと思われる年上の女性の優しい笑顔は心成こころなしか斉嬀せいきに似ている気がした。 


「今回は“親ガチャ”は当たりかも!」


 ガチャッ

 私は真新しいローファーに足を入れると学校に行く為、内鍵うちかぎを外しノブを右へと回した。 

腕時計の 時刻は6時45分。 

もうすぐ学校行きのバスの出発の時間だ。  
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