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冥府①

11、→歌、歌う←

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冥府めいふに留め置かれた罪人たちには刑期がある。 

刑期を終えた元罪人達は、夕刻を告げる鐘のの後、地蔵菩薩じぞうぼさつが管理している|宮殿の大広間に集められる。

 地蔵菩薩じぞうぼさつの宮殿は広さから言えば、閻魔王えんまおうの官署の方が広いといえるが、絢爛豪華けんらんごうかな造りと言われれば、こちらの柱の装飾の方が評価が高いのかもしれない。  

* 

冥府めいふでは、死者は寿服じゅふくと呼ばれる白いころもを着ることが義務づけられている。

だが、今日はその中に一人、朱色の血で染められた朱い衣をまとった女が1人いた。  

血染めの衣をまとった色白のその女は背は高くはない。 

 冥府めいふでは、刑期を終えた死者は地蔵菩薩じぞうぼさつと面談の上、無理のない範囲で生まれ変わる容姿や生まれ変わる六道場所の希望が叶う事が決められている。 

 
「……播金ばんじん。中に入りなさい」 


「はい」


 スッー  

朱色のころもまとった女は自分の名前が呼ばれると音を立てずに立ち上がり、床を滑るように歩き出した。  

彼女のそのたたずまいは、歩いているだけなのに舞を舞っているようで見る者の視線を一心に集めてしまう、そんな美しいちょうのような姿をしていた。  

* 
 
女が部屋に入ると平均的な男性よりも一回ひとまわり程小柄な男が部屋に置かれた、黒檀こくたん椅子イスに座り彼女を待っていた。 

 彼は冥府めいふの総監督・地蔵菩薩じぞうぼさつだ。  

地蔵菩薩じぞうぼさつは女が部屋に入ると肘掛ひじかけの上に置かれたひじを浮かし、両手を前に添えると小鬼の持ってきた書類を一読しうなずいた。 


「んっ」


彼の前に長椅子ながいすに座っている女の姿はまるで牡丹ぼたんがそこに咲いているかのようにあでやかで美しい。 


「たしか……あなた、姉妹がいましたなぁ」 


地蔵菩薩じぞうぼさつ鈍色にびいろの衣の袖から出した細い手で《目の下》のクマと同じ位置にできた逆三角の形をした黒子ほくろを触りながら、突然、話を切り出した。 

彼は中指には金の幅の広い指輪をめている。 


「……」


その男の問いに女は微笑ほほえみを浮かべたまま男の話を無視するように窓の外を見た。
 
女の目線の先には三途さんずの川が見える。

三途さんずの川の向こう岸に見えるのは朱の宮殿だ。 


朱の宮殿は五道転輪王ごどうてんりんおうの官署がある朱を基調とした繊細な造りの多い宮殿。

彼女の緑玉エメラルドに輝く双眼は夕焼けのひかりが映り、徐々に濃い朱色に変わっていった。  


「どこか希望する六道りくどうはあるか?」


地蔵菩薩じぞうぼさつは無言を貫く女の態度に少し苛立いらだちながら紙の右端を折りながら問いを続けた。 


「検討中でございます」


それだけ言うと女はスッと音もたてずに立ち上がり、退出の許可も得ず元、来た扉を持ち前の威圧感いあつかんで開けさせ部屋を出ていってしまった。 

呑気のんきに鼻歌などを歌いながら……。

 女のその後ろ姿は五道転輪王ごどうてんりんおうと同じ美しく、気まぐれで残酷な空気をまとっていた。
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