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料理長であるイグリスから材料を分けてもらい、ひたすらに黙ってスープを作っていると、私の隣で別の料理をしていたイグリスが突然私に声を掛けて来た。

「おい、嬢ちゃん。あんたもしかしてティリア嬢と縁がある家の子かい?」

心底不思議そうな顔をしながら私が煮込むスープの中身を覗き込む彼。

私はその言葉に曖昧に微笑みながら頷いた。

「まぁ、縁というかなんというか……」

すると、彼は私の顔を見るなり少し驚いた顔をしたかと思うと「少しおかしなことを言ってもいいかい?」と言った後に、私が頷いたのを見るなりこう告げた。

「嬢ちゃん、あんたもしかしてティリア嬢かい?」

ここで思わず目を見開いた私と、そんな私の反応を見て「やっぱりそうか!」と笑うイグリス。

彼はケラケラと笑いながらこう続けた。

「いやぁ、あんたが作ってるそのスープといい、包丁の使い方と仕草と言い、何処と無くティリア嬢に似ているなぁとは思いながら様子を見ていたんだがまさかなぁ!」

優しく頭を撫でてくれるその大きな手は昔と変わらず、私はクスリと笑いながら「よく分かりましたね」と呟く。

そうすれば、彼は私の頭を撫でるのをやめたかと思うと自身の腕の筋肉に触れながら前世の私ですら知らなかったことを話してくれた。

「そりゃまあ一応これでも俺はジェラードの坊主がこの国の騎士団長になる前の前騎士団長だからな!そいつが嘘を吐いてるか嘘を吐いてないか、そしてそいつの仕草なんかも見間違えるとこはない!!」

自信満々に最後は自身の胸を叩きながらそう言い切る彼。

私は彼はずっとここの料理長をしている人物だと思っていた為に軽く彼の発言に驚きつつ、目の前で「驚いたか?」と言ってきた彼の言葉に頷きながらこう答えた。

「私てっきりイグリスさんはずっと城の料理長をしていた人だと思ってました」

しかし、その瞬間に私は彼の口から思いもよらない言葉を耳にした。

「はははっ!まあティリア嬢ちゃんが城に来た時にはもうここにいたからなぁ。でも、実際はグラオス坊ちゃんが前王の首を討ち取る前まで俺は騎士団長を務めてたんだぞ?」

ここで、思わず「え……?」と呟いた私と、そんな私の様子を見て「どうかしたのか?」と首を捻るイグリス。

私は先程の彼の発言の中で気になったことに関して、目の前の彼に対して問い掛けてみた。

「イグリス、グラオスが前王の首を討ち取ったというのは一体……?」

途端、『やってしまった』というような顔をして私に対して別の話題を降って来る彼と、そんな彼からの話題を迷いなく跳ね除けながら彼へと詰め寄る私。

すると、イグリスは「分かった、分かった」と言いながら降参のポーズを取ったかと思うと「グラオス坊ちゃんには俺が教えたことは秘密にしてくれよ」と言いながらこんな事を話し始めた。

「元々、グラオス坊ちゃんは前王と同じく種族差別を酷くする人だった。だが、あんたと出会ったことによってグラオス坊ちゃんは種族の壁なんてなんでもない物だと思った。だから、国に帰って来てから坊ちゃんは前王に謁見した際に前王にあんたと結婚をしたいこと、そして鎖国状態だったこの国の鎖国を解こうという話しを持ち掛けた。でも、前王はそれを拒否した上にあんたを殺しに行くようにと俺を含む王国騎士達に言ってな。そこからは親子喧嘩という名の殺し合いだ。そして、勝ったのはあんたの旦那であり現国王のグラオス陛下。分かったか?」

トントンと自身の頭を指でこつきながら爽やかに笑う彼。

けれど、私がグラオスと婚姻をする前に彼は前王は元より患っていた病が悪化して亡くなり、彼が王位を継いだと聞いていたのだ。

それなのにまさか彼が自ら前王を殺めただなんて……。

まさに開いた口が塞がらないとはこのことだ。

私は彼の話を聞き終えるなり目を伏せ、何故この話を彼は私にはしてくれなかったのだろうと落ち込む。

しかし、そんな私の考えを読んだのかイグリスは何でもない様な口調で更にこう続けた。

「グラオス坊ちゃんにとっては父親であったガイル様よりもティリア嬢ちゃんの方がそれだけ大切で添い遂げたい相手だったんだろうよ。俺達自身、ガイル様が国を統一していた頃よりも今の方が生活しやすいし誰もグラオス坊ちゃんを恨んじゃいない。それに、ガイル様自身もグラオス坊ちゃんのことを恨んだりはしていないさ……」

どこか遠くを見ながら微笑んだイグリス。

私はそんな彼に対して小さく例の言葉を口にすると「ほら、そろそろスープができたんじゃないか?」と鍋を指さした彼に言われるがままにスープの様子を見る。

「……えぇ、出来てるわ」

「よしよし、まあ重苦しい話はここまでにしてさっさとグラオス坊ちゃんの所にそれを運んでやりな。あとついでにもしかしたらあの疑り深い坊ちゃんのことだからスープを見てもグダグダ言いそうだから、ボリアの実も分けてやるから昔あんたがよく剥いてた兎の形にでも皮を剥いて持って行きな!」

にこやかに笑いながらこちらにボリアの実を投げ渡して、スープの入った鍋の傍にスープを入れるお皿を並べてくれるイグリス。

「イグリス、何から何まで本当にありがとう」

私は昔から変わらない面倒みのいい彼にクスリと笑うと、そう感謝の言葉を告げたのだった。

そして、彼からの「気にするな!」の言葉を聞いた私はボリアの実を少し歪ではあるもののうさぎの形に剥くと、スープを台車に載せて、イグリスに頭を下げてから台車を押しながらグラオス達の居る元いた部屋まで歩き出した。

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