上 下
1 / 9

1

しおりを挟む
私が生まれ育ったこのグレゴニア王国はかつて竜人族のみが住むことの許された閉鎖的な国だった。

しかし今から400年前、今現在このグレゴニア王国を納めているグラオス王がとある人間の少女と出会ったことからこの国は竜人族とその他の種族が共存する国になった。

そして、グラオス王がそのような行動に出た影響を与えた理由である少女の名前はティリア・グレゴニア。

彼女はグラオス王の唯一の妻であり、この国の今はもう既に亡くなってはいるものの国母であった人物である。

私はパラパラとグラオス王とティリア王妃の出会いと最期までが綴られた小説を読みつつ、なんとも言えない気持ちになりながら小さな声でこのような事を呟いた。

「……この小説の内容って色々と美化され過ぎたと思うのよね」

途端にそんな私の呟きに反応したのは自身の目の前に座っていた、我が家の専属庭師であるアンドリューの息子であるオリバー。

彼は挙動不審に周りを見渡しながら私に対して「ちょ、リーザお嬢様!そんな事、思っても言っちゃダメですよ!!」と自分の口元に人差し指を立てて首を横に振る。

けれど、そうは言われても私はこの物語の内容が大きく美化されていることを知っているのだからそう思ってしまうのも仕方ないだろうと思うのだ。

何しろ私はこの小説に出てくるティリア王妃の生まれ変わりなのだから。

私は目の前の彼に適当に「はいはい、ごめんなさいね。これから気を付けるわ」と返事をしながらも、小説の中に書かれている『グラオスとティリアはお互い一目見た時からお互いに恋をした』なんて言葉に鼻を鳴らす。

お互い一目見た時から惹かれ合っていた?

そんな訳ないじゃない。

元々、彼はグレゴニア王国の前王であるガイル国王に言われて私の住んでいた村の近くにあったライネル王国を壊滅させる為にその先陣に立って周りに指示をする大将と参加した謂わば人間の敵。

あの当時のグラオスの私に対する気持ちなんて惹かれる所か憎悪の対象よ。

だって、あの時の彼は自分達よりも下等種族である人間達の戦術で多くの仲間を殺されて自分までその姑息な手に引っ掛かって瀕死まで追い込まれていたんだから。

そして、私は私でそんな彼の種族は勿論のこと何故怪我を負っているのかの事情など露知らず死にかけてる怪我人を放っておけないという考えで彼を引き摺りながら家に連れ帰った。

その結果、彼を拾って3日ほど経った夕方に彼は目覚めたものの人間に対する憎悪というものがとてつもなく強くて目覚めるなり彼は常に彼の世話をしようとする私を鋭い目付きで睨み付け、時には暴力を振るうという事もあった。

だからこそあの時の私は彼に対して惹かれるなんてことは全く無く、彼に近寄る時は彼と目も合わせることなく常に怯えながら彼の世話をしていた。

でも、彼の世話をし始めて半月ほどが経った頃から彼は日々甲斐甲斐しく彼の世話を焼いていた私に対して気を許すようになった。

そして、その頃に私はグラオスの口から自身が竜人族であると言う事実を教えられた。

ただ、私を含む当時を生きていた人々は昔の文献に書かれていた『竜人族は生きた他種族の血肉を好み骨すらも噛み砕く』という言葉を誰もが信じており、私は彼がその残虐な性質を持つといわれる竜人族であるということを知るなり彼に対して強い恐怖心を抱いた。

でもまあ、それから完全に彼の体にある傷が癒えるまでの間を彼と過ごして、彼の優しさに沢山触れて、彼が国に帰還する2ヶ月前ぐらいには既にお互いに惹かれたといえば惹かれあっていたんだけど。

けど、なんと言われようが私はこの小説の中にある『グラオスとティリアはお互いを一目見た時から惹かれあっていた』なんていうこの文章は完全否定したい。

私とグラオスがお互いに惹かれ合うまでには物凄い暴力的なエピソードやら色々な出来事があるのだ。

私は昔のことを思い出すと同時に小説の内容に対して大きな溜息を吐きながら本を閉じると、そのまま「どうかしました?」と尋ねて来たオリバーに「何でもないわ」と答えて机の上に伏せる。

その時、ふと頭に浮かんだのは微笑みながら自身に手を伸ばすグラオスとそんな彼の両隣りでニコニコと笑いながら『まま!』と前世の私を呼ぶ可愛い双子のレグロスとニアの姿。

「……会いたいな」

私はぽつりとそんなことを呟くと、自身の胸に掛かっている小さな深い青色をした宝玉を握り締めながら窓の外に見えるグレゴニア城に目を向けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです! 投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...