上 下
19 / 56
第一部

歌羽天音③

しおりを挟む
 男の子との再会は突然の事だった。 それは収録を終えた後、家に帰る為に赤星さんの運転する車の後部座席に乗り込んだ時の事。収録で疲れてしまったのか私はいつの間にか夢の中へ─



『─はい、赤星です!』 

 どのくらい眠っていたのかは分からない。短い時間だとは思う。赤星さんはどうやら電話中みたいだ。相手の声は聞こえない。 

『はい。はい。そうですね。はい、それは私が持ってますよ、社長』 

 社長!?赤星さんは今、社長と電話しているの!?目をうっすら開けるとハンズフリーで通話中みたい。 そのまま寝たフリをして耳を傾けていると… 

『それなら今からお持ちしますよ!社長が今いらっしゃる場所ならこれから車で通る道ですので!はい、横付けしますんで窓からお渡ししますね。はい、はい、了解しました。それでは…後程…』 

 嘘っ!?今から社長と会うの!?ホントにっ!? 

「天音は居るけど……寝てるみたいだし、書類渡すだけだし、通り道でチャッチャッっと渡すだけだから、別に問題ないわよね?」 

 こここ、これはっ!?もしかして寝たフリを続ける事が出来たら社長の姿を拝めるっ?謎に包まれた社長を目にする事が出来る!?思い出すのよ、私…。賞を頂いた時みたいに役になりきるのっ…演じるのは熟睡している私…。 

 私なら出来る筈よ? 

「さてと…水を飲んだら喉がうるウォーター」


 唐突に何!?もしかして私が本当に寝てるか試してるの!?私はそれくらいでは笑わないよ!? 

「私の人生のモテ期はまだ訪れていないだけ!」 

 今度は何なのっ!? 

「それってあなたの感想ですよね?」 

 突然のヒ◯ユキ降臨!?一人でしかも自虐ネタ!?そこを突っ込むのっ!? い、今のはかなり危なかったよ!? 起きているのがバレるところだったじゃないっ!? 

「…ホントに寝てるみたいね」 

 な、何とか乗り切れたみたいだ…。 

「あっ、そういえば…社長の作る音楽って、素晴らしいと思わない、天音?」 

「それは当たり前で…あっ…」 

「やっぱり起きてた」 

「…もしかして最初から分かってました?」

「そりゃあね。電話の相手が社長だと分かった瞬間だと思うけど、バックミラーに映るあなたがソワソワしているみたいだったから」 

「そ、そうでしたか…」 

 バレてしまった以上は社長のお姿は見れないかなと思い落ち込んでいると、そんな私を見かねたのか… 

「…社長を一目見たい?」 

「は、はいっ!!」 

 私は赤星さんに即答でそう返した。

「…分かったわ。そのまま帽子を深く被って、寝たフリしながら見てなさい。資料を渡すだけだから見逃さない様にね?後、社長には内緒だからね?」 

「はい、勿論です!」




♢ 


 車を路肩の停められる場所に横付けすると、助手席の窓が開く。 

「社長、これがその資料になります」 

「ありがとう、赤星さん」 

「っ!?」 

 薄っすらと目を開けていた私は思わず目を見開き、声をあげそうになった。 

「んっ?」

 後部座席に居るのが気付かれた!? 

「ああ。すいません社長。先程収録を終えた担当の子を家迄送っていく最中だったんです…。どうやら疲れて今は眠っているみたいですが…」 

 な、ナイスです、赤星さん。 

「そうなんですね。赤星さん御苦労様です。眠っている子にもお疲れ様ですと伝えておいて下さい」 

「はい。ありがとうございます。それでは社長。担当の子を送り次第私はそのまま直帰しますね」 

「うん。安全運転でね?わざわざありがとうね、資料」 

「いえいえ…では」 

 車が走り出す。それにしても…まさか… 

「…こら、天音。社長を見た瞬間、声を出しそうだったでしょ?」 

「………」 

「…天音?」 

「…あ、赤星さん。あの男の子が…本当に…社長なんですか?」 

「そうだけど…どうしたの?」 

「い、いえ…優しそうな…人だなって…」 

「まあ、優しいし、格好いいし、気が利くし、お金も持ってるし、私が若かったら狙ってたわね」 

「な、何を言ってるんですか!?」 

「いや、まあ、半分本気でそう思うって事よ」

「…は、半分は思っているんですね」 

「な~に?もしかして豊和君に一目惚れとか言わないわよね?」 

「ち、違いますよ~。そ、そんなんじゃあ…ないです…たぶん…んっ?…豊和君?」 

「あ、ヤバっ!?」 

 そんな会話をしていたらあっという間に家へと到着。ご飯を食べて、お風呂に入りベッドに横になる。 

「そっかぁ。あの男の子…社長は豊和君というのかぁ…」

 いつもなら…ベッドに横になると役の事とか歌の事とかを考えるんだけど…今日はあの男の子の事ばかり考えてしまう。結局あの後、赤星さんは名前以外は教えてくれなかったけど…。

 まあ、口を滑らせてしまった感じだったしね。 それにしても…あの男の子が社長だったなんて…探しものを一緒に探してくれて…あんなに素敵な音楽を作れて…おまけに優しくて…

 “──トクン…トクン…” 

「な、何だろう?今の…」 

 男の子の事を考えてたら… 

“──トクン トクン…” 

「またっ!?」 

 つ、疲れちゃったかな?何だか体も熱い気がするし…。今日はもう寝ようっと。



♢ 

 社長と出会ってからというもの…社長の事を考える時間が日に日に増えて来た様に思える…。 まあ、だからといって何かが変わったわけじゃあないんだけどね。

 そんななかでも日々勉学と仕事に精を出していると、私もとうとう高校生になる時がやって来た。それと同時にナンバーワンアイドルと言われる様になった。 まだ自分では全然だと思うんだけど…頑張った証みたいで嬉しくなる。 そして高校生活が始まるというときに、お父さんからこんな話が…。 

「天音。急な事で悪いんだが…俺の仕事の都合で引っ越しする事になった。ついてはみんなで引っ越しを考えてる」 

 お父さんはせめて私が高校卒業するまでは家族みんなで過ごしたいという思いがあるみたい。私はそれに了承。転校先にある高校の編入試験を受けて、見事に合格。 入学式から遅れる事10日後…。 

 私の初の登校日。

 先生に呼ばれたので教室に入り、自己紹介…。自己紹介を終え、教室を見渡すとそこには…あなたの姿が……。

 “──トクントクン” 

 ま、また心臓が音を奏でる。 そして、ふと…私が好きな恋愛映画で流れる言葉を思い出した。 


『一度目は偶然…二度目も偶然…でも、三度目は運命と…』 






*** 
あとがき 

優花「いや、三度目も偶然よっ!」 

凛「そうだよ、偶然だよ!」

芽依「アイドル…恐るべし…」 

日和「これが…アイドルと呼ばれる由縁なのか?」 

優花「運命は私だからっ!!」

 凛「そんなの私だって…」 

芽依「凛ちゃんは舞台にも立ててないじゃん」

凛「………へっ?」 

日和「まあ、そうだな」 

凛「…えっ?えっ?」 

優花「ライバルだと思ってたけど…残念だわ…」

凛「ちょっ!?ちょっと待って!?私も、私も舞台に立つから!もうすぐ…きっと…私の出番が……あるもん」 

芽依「あっ、ちなみに優花ちゃんの今日のショーツはクマさんのイラストがお尻の方に大きく描かれた白いショーツだよ!!」 

優花「ちょっ!?何言ってんのっ!?きょ、今日はたまたまソレしかなかったのよ~~」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

18禁ゲームの貴族に転生したけど、ステータスが別ゲーのなんだが? えっ? 俺、モブだよね?

ライカ
ファンタジー
【アルタナシア・ドリーム】 VRオンラインゲームで名を馳せたRPGゲーム その名の通り、全てが自由で様々な職業、モンスター、ゲーム性、そして自宅等の自由性が豊富で世界で、大勢のプレイヤーがその世界に飛び込み、思い思いに過ごし、ダンジョンを攻略し、ボスを倒す……… そんなゲームを俺もプレイしていた なんだけど……………、何で俺が貴族に転生してんだ!? それこそ俺の名前、どっかで聞いた事ある名前だと思ったら、コレ、【ルミナス・エルド】って言う18禁ゲームの世界じゃねぇか!? 俺、未プレイなんだが!? 作者より 日曜日は、不定期になります

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

【R18】愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!

春瀬湖子
恋愛
大国グランジュから弱小国であるリヒテンベルンへと婚姻の申し入れがあったが、それは明らかに我が国への警告を意味したもの。 嫁いだ後の待遇は妻ではなく『人質』だと誰もが理解している中、その『人質妻』になったセヴィーナだったが……? 「貴方を指名します、私と恋をしてください!」 「はぁ?」 案外気遣いは出来る敵国王太子(夫)×人質として嫁いだ脳筋ゴリラ姫(妻)の喧嘩っぷるラブコメです。 序盤はヒロインが不遇でシリアスな雰囲気です、ご注意ください。 ※他サイト様でも公開しております。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

ヤリチン無口な親友がとにかくすごい

A奈
BL
 【無口ノンケ×わんこ系ゲイ】  ゲイである翔太は、生まれてこの方彼氏のいない寂しさをディルドで紛らわしていたが、遂にそれも限界がきた。  どうしても生身の男とセックスしたい──そんな思いでゲイ専用のデリヘルで働き始めることになったが、最初の客はまさかのノンケの親友で…… ※R18手慣らし短編です。エロはぬるい上に短いです。 ※デリヘルについては詳しくないので設定緩めです。 ※受けが関西弁ですが、作者は関東出身なので間違いがあれば教えて頂けると助かります。 ⭐︎2023/10/10 番外編追加しました!

隣国に売られるように渡った王女

まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。 「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。 リヴィアの不遇はいつまで続くのか。 Copyright©︎2024-まるねこ

【完結・BL】偽装カップルですが、カップルチャンネルやっています【幼馴染×幼馴染】

彩華
BL
水野圭、21歳。ごくごく普通の大学生活を送る一方で、俗にいう「配信者」としての肩書を持っていた。だがそれは、自分が望んだものでは無く。そもそも、配信者といっても、何を配信しているのか? 圭の投稿は、いわゆる「カップルチャンネル」と言われる恋人で運営しているもので。 「どう? 俺の自慢の彼氏なんだ♡」 なんてことを言っているのは、圭自身。勿論、圭自身も男性だ。それで彼氏がいて、圭は彼女側。だが、それも配信の時だけ。圭たちが配信する番組は、表だっての恋人同士に過ぎず。偽装結婚ならぬ、偽装恋人関係だった。 始まりはいつも突然。久しぶりに再会した幼馴染が、ふとした拍子に言ったのだ。 「なぁ、圭。俺とさ、ネットで番組配信しない?」 「は?」 「あ、ジャンルはカップルチャンネルね。俺と圭は、恋人同士って設定で宜しく」 「は??」 どういうことだ? と理解が追い付かないまま、圭は幼馴染と偽装恋人関係のカップルチャンネルを始めることになり────。 ********* お気軽にコメント頂けると嬉しいです

【完結】苦しく身を焦がす思いの果て

猫石
恋愛
アルフレッド王太子殿下の正妃として3年。 私達は政略結婚という垣根を越え、仲睦まじく暮らしてきたつもりだった。 しかし彼は王太子であるがため、側妃が迎え入れられることになった。 愛しているのは私だけ。 そう言ってくださる殿下の愛を疑ったことはない。 けれど、私の心は……。 ★作者の息抜き作品です。 ★ゆる・ふわ設定ですので気楽にお読みください。 ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様にも公開しています。

処理中です...