男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴

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第一章

吸血族の女の子

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 王都から領地への帰り道の事。年配の男性が領主として治めている村で一泊する事になったんだ。年配の男性の事を村の人はゼーレン村長と呼んで慕っている。そう、俺がこの世界で初めて会った男性だ。俺もゼーレンさんと呼ばせてもらっている。

 そんなゼーレン村長から色々自分の若い頃の話を聞かせてもらった。色々な場所に行った事があるんだそうだ。そのなかでも俺が特に聞きたかったのは調味料の事だ。何故そんな事が聞きたかったのかって? それはこの世界の料理がシンプル過ぎる事に起因する。

 王宮の料理も確かに美味しかったんだけど、味付けの幅が少ないのだ。塩や胡椒等による味付けはあるものの醤油や味噌はこの世界に来てからまだ口にした事がないからだ。この地域にはなくても他の地域や他の国ならと思って話を聞いたんだけど、どうやら存在してないみたいだ。 

「私が知らないだけかも知れませんがね…。世界は広いですし、私が行った事もない国もありますしね」 

「いえ、大変為になるお話ばかりでした。ありがとうございます!」 

「いやいや。どういたしまして。それにしてもエル君は3歳児なのにホントしっかりしてるね?私の小さい頃とは雲泥の差があるよ」 

「そんな事はないですよ」 

「まあ、エル君は料理に興味があるみたいだし、私が昔の事で何か思い出したりしたらエル君に手紙を書いて教えてあげる事を約束するよ」 

「ありがとうございます、ゼーレンさん!」



 ♢

 ゼーレン村長との話を終えた俺は宿へと戻る事にした。村ののどかな雰囲気を味わいながら宿への道をのんびりと歩く。田舎の村ってこういう情緒溢れる景色がまたいいんだよね…。

「エル様は料理に興味がおありアル?」

  そう口にしたのは侍女のリンリン。髪の毛でお団子を2つ作り、シニヨンキャップをそれに被せている。これがまた似合うこと似合うこと…。チャイナドレスを着せたら某格闘ゲームの女性キャラのコスプレが完成する…。 

「…僕は色々な事を知っておきたいだけだよ?」 

「エル様は3歳なのに感心アルな…」

  中身は高校生だけどね…。まあ、そんな話をリンリンとしていると、 

「さっさと歩きなさい!」 

 のどかな雰囲気をぶち壊す声が聞こえてきた。視線を声がした方に向けると身なりがいい女性と俺と歳がそう変わらないボロボロの服を着た白髪の色白い痩せ細った少女の姿が…。 

「はぁ~…海の向こうのあんなに遠く迄買い付けに行ったのに…こんな奴隷だったとは…ほら、早く歩かないと日が暮れちまうだろ!!」 

「……は、はぃ」 

「…あれは」 

「…奴隷アル…。エル様、あまり見ない方がいいアル」 

 そういえばこの世界には当然の様に奴隷が存在している…。奴隷に身を墜としている人は分かりやすい様に鉄製の首輪を嵌められている。わざわざ言う事でもないから言わなかったけど王都でもちょくちょく奴隷を見かけはしたんだ。 

「たぶん、あの女主人は奴隷商の店主アルよ。エル様、奴隷商には関わりにはならない方がいいアル。さっ、早くアル」

「…あっ…う、うん」 

 リンリンが俺の手を引き、急ぎその場から離れようとする。

「ああ、もう!鞭を振るわれないと急げないのかい?」

 俺はリンリンに掴まれた手を振りほどき、その奴隷商の元へと駆け出した…。 

「エ、エル様っ!?」 

 リンリンごめんね?俺は…

「お願い、ちょっと待って!」 

「…なんだい。何か用かい?」

 俺を何やら値踏みするような相手の視線。 

「…どこかの貴族の子供みたいだけど…子供が出る幕ではないよ?早くお家へお帰り!」 

「…その子は?」 

「はぁ~ 聞いても意味ないと思うけどね。この子は商品。うちの新しい売り物さ」

 商品…。こういう扱いは異世界では普通の事。本や漫画でもそういうシーンは沢山見てきた。それに領地の開拓等でも労働力として奴隷が必要な事も書物で読んだし、それは頭では分かっている。
 奴隷になった者を全員救うのかと言われれば無理な話だ。

 けど… 

「…その子を…買いたい。俺にその子を売って欲しい!」 

 その子の目を見たら駄目だった。放って置けなかったんだ。あんな…寂しそうな目をする子を見捨てられなかった。 

「買いたいって…君がかい?それとも親御さんかい?」 

「エル様なにをっ言ってるアル!!?」 

「…はて?……エル?…エル…? もしかして…君はアルタイル公爵様の?」 

「僕と母さんを知ってるの?」 

「それはそうでしょう…。アルタイル公爵様を知らない方がおかしいでしょう。私は王都近くに店を構えていますしね。それになにより商売人は情報が命ですしね。しかし、本当に買うのですか?アルタイル公爵様はこの件を?」 

「母はこの件には関係ありません。俺が買いますので」

「失礼ですが…エル様はお金は持っておられるのですか?」

「幾らなんです?」 

なのでサービスはしますが…それでも…値が張ってしまいますよ?」 

 曰く付き? 

「エル様、帰りましょうアル!」 

「リンリンはお願いだから口を挟まないで!」

「っ!?」

 俺のこんな態度にリンリンは驚いている。後で謝るから許してね?今は…

「それよりも曰く付きって?」 

「彼女は吸血族なのです」

「吸血族?」

 えっと……吸血鬼の事か?

「エル様はご存知ありませんよね?吸血族とは人や動物の生き血を吸う種族です。エル様に牙をお見せしなさい」

「はぃ…ぁっ」

 奴隷商の女性に言われて奴隷の子が指で口を開く。歯並びが良い普通の歯だなと思っていたら、上歯の犬歯が2本鋭い牙に変化した。

「…なるほど。任意で変化するのか…」

 任意と言っても血を吸う時位だろうけど…。

「吸う血の量は少量ですが、どうにもその行為自体を気味悪がられて、買い手がつかなかったといった感じなのです。だからこそ私が安く買い付け出来たのですが…。まあ、稀少ではありますしね。吸血族自体あまりお目にはかかれないので」

「それで?」

「ご聡明なエル様なら分かられると思うのですが…手数料、稀少性、その他諸々合わせると…サービスしてこれくらいですかね?」 

 奴隷商は両手の掌を前へと突き出し、右手の指を3本立て、左手は0と数字を示す…。示したのは30の数字…だよな? 金貨30枚って事か?

「エル様、口を挟ませてもらうアル!それはぼったくりアル!普通の奴隷の相場が金貨5枚アルよっ!曰く付きで金貨30枚なんて高過ぎアル!」 

「勘違いされないで頂きたい…サービスして普通の奴隷の30倍の値段なだけですよ?」 

「さ、30倍アルっ!?金貨150枚アルっ!?全然サービスじゃないアル!エル様早く帰りましょう!あの子は可哀想とは思いますが金貨150枚なんて…」 

「買うよ」

 俺の答えは最初から決まっている。

「「…はっ?」」

  リンリンと奴隷商の女性と声がハモる。奴隷商の女性も何で驚いているのさ?自分でその値段を言ったんだろ? 

「…本気ですか?」 

「うん。悪いんだけど、リンリン、母さんに連絡をして来てくれる?お金の事なら僕が責任を持って必ず全額返すからと伝えて欲しいんだ。大丈夫だよ。その件は元々考えていた事があるから!」 

「で、でも…アル…」

 「分かりました。本気でこの子を買うんですね?」

「勿論」

 即答で答える。

「それなら…お金は結構です。ただし…お金の代わりにそのエル様の考えてる事に一枚噛ませてもらいたいと思います。いかがですか?」 

 俺が考えていた事には人手がいる…。奴隷商なら顔も広いし、人手不足も解消出来るか?この展開は俺的には都合がいい。

「失敗するかも知れませんし、第一僕を信頼してもいいのです?僕としては…ある程度の資産があり、尚且つ顔が広いと思われるあなたみたいな人がそれでいいなら願ったり叶ったりでしかないのですが…」 

「勿論です。仮の話ですが失敗したり、裏切られた時は私の目が濁っていたという事でしょう。まあ、これでもここまで商会を大きくした自負もありますし、私の勘はエル様に掛けて間違いないと言っていますしね。」

「じゃあ…宜しく」

「契約成立ですかね?遅くなりましたが奴隷商を営むウーシェンと申します。以後お見知り置きを…」 

「では、ウーシェンさん、宜しくお願いします」 

「ウーシェンとお呼び下さいませ」 

「…じゃあ…ウーシェン。この後はどうするの?」 

「そうですね。まずは商会に一度戻らねばいけませんので…」

「商会の場所は?」

「私の商会はカンリンセンという街にあります。カンリンセンの街はここからですと王都の先になります」 

「そっかぁ。じゃあ、準備が出来次第、僕の所に来てほしいんだけどいいかな?その際、手先が器用な人、それと料理に優れた人を手配して欲しいんだ。人数は多ければ多い方がいいかな」 

「承知しました…。カンリンセンに戻り次第、準備を整えてエル様の下に参ります…。では早速私は旅立つ事にしましょう…。レイラ?こちらが今日から貴女の主人になるエル様よ、良いわね?」 

「…はぃ」 

「エル様。彼女はレイラと申します。レイラの事…宜しくお願いします」

「勿論」

「それではエル様。私はこの辺で失礼します」

 挨拶を終えたウーシェンは足早に去っていった。

「エル様。私達にも詳しく話をして欲しいアル。勿論マリア様にもアル」

「うん、分かってる。じゃあ、行こうかレイラ」

「…はぃ」

 こうして俺はこの世界に来て初めてとなる奴隷を引き取ったのだった。吸血族と呼ばれる一族の少女を…。
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