貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

唐突な

「どないしよっ…道に迷ってしもうたわぁ」 

　体力向上の為に近所を散歩している時にふとそんな困ってるような女性の声を耳にした。その声の方に視線を向けるといかにも高そうな着物を着た女性の姿が。その姿は京都の舞妓さんを連想させるかのようだ。 

　残念な事に舞妓さんの姿はテレビでしか観た事はないんだけどな…。とにかくそんな風に俺は思ったんだ。まあ、困ってるなら… 

「どうかされましたか？」 

　どうにかしてあげたいと思うのもまた人間だよな？そういう優しさは大事な事だと俺は思う。 

「どうやら道に迷ってしもうたみたいで…」 

「どこに行かれる予定なんですか？俺が分かるところなら道を教えますけど？」 

「へぇ…あんさん優しいなぁ？下手に男子が女性に声を掛けたら連れ込まれる時代やいうのに…そんなのものをものともせずに声をかける…あんさんのその気概さに惚れてしまいそうやわぁ。ホンマやで？」 

　まあ、女性が困っててもこの世界の男性が声を掛けるわけないしな。急いでその場を離れるだろうな。 それにしても…『惚れてしまいそうやわぁ』とか、京美人ともいえる女性に言われるとドキッっとしてしまうやろ！？ 

「と、とりあえず…どこに向かう予定だったんです？」 

「ああ…せやったなぁ…あんさんがイイ男過ぎて目的の場所に向かうのを忘れるところやったわ…あて私が向かいたいのはおすここどすえ」 

　女性が持っている地図を見せてもらう。彼女が向かいたい目的の場所は赤丸で囲まれているのが見てとれる。その横の方にはここですわ！と書かれている。その文字と言葉にやけに既視感を感じてしまうな。いや、今はそんな事よりも…どれどれ… ………んっ？ 

「流石に分からへんか？」 

「…いえ…知っています」 

　よ～～～く知っていますとも…。だって…この赤丸で囲まれた場所は… 

「ほんまっ！？そら、よろしおすなぁ～」 

「…もしかしてなんですけど…ルナ…西園寺ルナさんのお知り合いの方ですか？」 

　何故そう思ったのかというと、赤丸で囲まれた場所にある家は俺達が今住んでいる場所だし、文字はルナの言葉遣いを彷彿させるからだ。もしかしたら既視感を感じたのはそれが原因かもな。 

「そうどすえ。ルナはあての娘どす」 

　やっぱりか。そうか…。ルナのお母さんか……… 

「…はあっ！？ルナのお母さんっ！？」 

「何を驚いてはるんですえ？」 

　いやいや…驚くだろ…？ルナのお母さんである事にも驚いたんだけど…見た目が若過ぎるだろ？舞妓さんみたいな恰好をしているから少し大人って感じがするものの、どう見ても俺達と同じくらいか少し歳上にしか見えないんだけどっ！？ 

「あら？ あらあら…それは嬉しい事を言ってくれはりますなぁ～」 

　ヤベッ…驚き過ぎて心の声が知らず知らずのうちに洩れていたか…。ルナ先輩とは付き合いが長いんだけど、こうして親御さんにお会いするのは初めてなんだよな。この世界結婚の挨拶やらもないしな…。 

「もしかして…あんさんがあてのルナが見つけた男どすえ？」 

「えっ…と…はい。挨拶が遅れました…はじめして、ルナのお母さん。隼豊和です」 

「あらあら…これはご丁寧にっ♪あてはルナの母親のシズどすえ。コレからよろしゅうにっ♪」 

「はい、宜しくお願いします。本当はこちらから挨拶にお伺いしたかったのですが」 

「ルナがそういうのはいいと言いはったのやろ？かまへんかまへん。あても気にしてないでな？」 

「とりあえずこんなところで立ち話もアレですので家の方で…」 

「よろしゅうにっ♪」 




♢ 

　シズさんを自宅のリビングへと案内すると、タイミングがいいことにリビングのソファにはルナとアリシアの姿があった。二人は驚いた表情を見せて、口を慌てて開いた。二人のこういう表情はあまり見ないのでなんたか新鮮な感じがするな。 

「お母様っ！？」 
「シズ叔母様っ！？」 

「久しぶりやねぇ、二人とも。元気にしてはりましたか？それにしても気になるのは…アリシアは今あての事を何と言いはりました？叔母っ？叔母と言いはりましたか？」 

　シズさんは物凄い笑顔なのに…なんだか言葉というか雰囲気に圧を感じてしまうな。 

「…い、いえっ……し、シズお姉様とお呼びしました」 

「そうやよななぁ…あての気のせいやったみたいやね？」 

「も、勿論です」 

　アリシアがタジタジな姿はホント可愛いな。もしかして…シズさんには流石のアリシアも敵わない感じなのかも知れないな。 

　そんな風に俺は思いながら…この機会に出来ていなかった挨拶を改めてしておこうと思う俺だった。