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少しずつ変わる…
しおりを挟む【神話戦争】
マナの魔法で叩き落されたナビィは上空の彼女を見上げる
身体は問題なく動くが、まるで巨石で殴られたような衝撃だった
あれほどの魔法をいつ詠唱したのだ?
いや、詠唱などしていなかった
無詠唱呪文(クイックスペル)など机上の空論ではなかったのか?
先に魔法を込めた物、魔道具と呼ばれる物ならば無詠唱で魔法は発動できる
だが、基本的に使い切りであり、その威力は大した事がない
先程の威力の魔道具が存在するのだろうか?・・・いや、無いだろう
ならば、あの女は無詠唱で私の常識を超える魔法を使う者という事になる
あれが伝承で聞く巫女という類の者か?
そもそも、どうやって水の上に立っている
あれもまた魔法なのか?
となると、彼女は複数の魔法を同時に発動している事になる
複数呪文(マルチスペル)、難しいが不可能ではない
2つまでの魔法ならば同時詠唱できる者もごく稀にだがいるだろう
しかし、見たところ彼女の発動していた魔法は3つある
あの薄い水を維持する魔法、その上に乗る魔法
更に私を叩き落としたあの強力な魔法だ
それを無詠唱で使いこなす相手だとしたら・・・・
そこでナビィはある事に気がつく
何故こんな当たり前の事を見落としていたのか
とことん愚かな自分に嫌気がする
あの女の魔力量は今の私・・・嵐神(スパルナ)を超えているではないか
何だあの化物は、今まであんなのがどこに息を潜めていた
だが、勝てない相手ではない
魔力量だけが勝敗を決める訳ではないからだ
ナビィは魔力を集め始める
彼女の背にある光翼が激しく輝き、様々な色の光が集まってゆく
すると、上空にいるマナはゆっくりと降下し
ナビィから目を離さぬまま自身のうなじに手を回した
彼女が首にかけていたネックレスのようなものを取り出す
「君さ、もうやめなよ」
十字のようなデザインのネックレスを回しながら彼女は言う
「お前のせいで大切な人が1人死んだんだよ、わかる?」
誰のことだ?ヒッタイト兵に想い人でもいたのだろうか
「君があの国の人をどれだけ殺そうと関係無いけどさ
超えちゃいけないラインってのがあるんだよ?わかってる?」
ナビィには何の事を言っているのかさっぱりだった
しかし、マナの目つきが変わり、ナビィは身震いする
それは絶対的な恐怖からだった
「お前は世界の敵になった」
明らかに空気が変わり
ナビィは咄嗟に集め始めたばかりの魔力を放とうとするが
それよりも早く、ナビィの足元と頭上から凄まじい量の水が現れ
上下から凄まじい水量に潰され、身動きが取れなくなる
この黄金の身体は人間の能力を遥かに超えている
片手で1トン程度なら持てるほどの腕力があるのだ
その身体が一切動けなくなるほどの水圧だった
『ナビィ隊長を守れ!!』
メンフィス軍からそんな声が聞こえ、矢の雨が降る
だが、矢は全て障壁に阻まれ彼女に届く事はなかった
槍隊が突撃をし、マナは片手を払うだけで20名近くの人間を水で吹き飛ばす
その様子を見ていたヒッタイト軍は歓声を上げ
この好機逃すまいとメンフィスに突撃をしかける
『お前らいい加減にしろよっ!!』
マナが叫び、彼女の両手から発生した大量の水が両軍の兵を押し流してゆく
『み、水の巫女が裏切ったぞ!!』
「は?」
ヒッタイト兵の1人がそう叫ぶと、マナは鋭い目つきで睨みつける
「誰がいつ君たちの"仲間"になった?」
その一言で声を上げた兵は黙り、後ずさってゆく
だが、そんな彼を押し退け、1人の傭兵が前へと出る
彼はこの戦で戦績を上げ大量の金を貰うつもりの腕に自信のある男だ
「魔法使いなど近寄ってしまえばっ!」
男は2本の長剣(ロングソード)を操り、彼女に襲いかかる
だが、マナは微動だにせず、彼の攻撃は障壁に阻まれる
「くっ!なんだこれは!」
男が動かぬ剣を押し込もうと必死になっていると
マナの手が彼の顔を覆う
「な・・・に?」
刹那、男の全身から血が吹き出し、炸裂し、バラバラになる
マナは返り血は一切浴びておらず
触れていたはずの手にすら血はついていなかった
「ひ、人が破裂したぞ・・・」
「化け物め・・・」
マナは水の巫女だ、水ならば何でも操れると言っていい
今彼女がしたのは男の体内の水分、血液を操作したのだ
そして、彼女は水の巫女であると同時にある立場にある者である
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
1つのオアシスを巡るメンフィスとヒッタイトの戦争から約6000年前
世界は大変動(カタクリズム)に見舞われていた
大災害、地殻変動、そして世界大戦・・・
ありとあらゆる様々な災厄が世界を支配していた時代
人類は激減し、世界の総人口の4分の1に死が訪れた頃
世界に変化が起きた
ある神が門(ゲート)を開いたのだ
その神は"破壊神"や"災厄神"と呼ばれていた
純白の髪や肌や眼を持つ人型の神
その姿は見た者によって異なるとされており
幼い少年という者や、麗しい女性という者や、老人だとも言われていた
災厄神は門を開き、この世界とある世界を繋げた
その世界とは"魔界"である
魔族・・・悪魔と呼ばれる者達の巣食う世界
何故彼の神は魔界の門を開いたのかは分からないが
世界には悪魔達が溢れかえる事となった
悪魔にとっての人類とは、娯楽であり餌であった
そして、人類は今更だが気づく事となる
人類同士で争っている場合ではない、と・・・
世界各地から軍が集まり
人間、亜人、エルフ、ドワーフなど
様々な人類が手を取り合い、悪魔と戦った
その戦いは想像を絶する激しいものだった
幾つもの種族が滅び、文明が滅んだ
だが、人類には希望があったのだ
神の使徒、巫女、そして、神の勇者という存在がいた事である
彼等は1人で数万の兵をも上回る戦闘力を有し
上位悪魔と呼ばれる魔族に太刀打ち出来る唯一の存在だった
神の使いである彼等の中に、際立つ力を有した3人がいた
1人は最強に限りなく近いとされる種族である竜人(ドラゴニュート)の男
名はオルフェー、鮮やかな緑色の鱗の大男だ
彼は神の勇者に選ばれ、試練の乗り越え、聖剣を手に数多の悪魔を屠る
その力は神にも迫ると言われたほどだった
1人はある国の王、人間だ
いや、正確には人間だった、と言うべきかもしれない
彼は人の限界を遥かに超え、その力は禍々しく、神の使いには到底見えなかった
神の使徒たる黒衣の王、その名はアヴァロン
唯一竜人の勇者と互角に渡り合えた男だった
そして、最後の1人は"神の子"と呼ばれた少女
他の二人ほどではなかったが、彼女もまた特別な存在だった
彼女の名はマグ・メル、水の巫女である
マグ・メルは生を受ける前から巫女に選ばれ
類稀なる魔法の才を持ち合わせていた
巫女である事以外にも彼女には特異な点が複数あった
その1つが人類には不可能とされていた無詠唱呪文だ
更に複数呪文、何と彼女は6つの呪文を同時に発動する事ができる
三重詠唱すら不可能に近いとされている中で、だ
そんな彼女は神の使い達に様々な武器・・・神器を与えた
勇者である竜人の聖剣もまた彼女から授かった物である
彼女がどこでそんな武具を手に入れたのかは誰も知らなかったが
人類にはそれらの武具は希望の光となった
彼女の登場により人類は攻勢に出る
神の使いが集い、悪魔軍との最終決戦を迎えようとしていた・・・
「ったく、アヴァロンの奴、こんな時だってのにどこ行ったの!」
短いスカートを揺らしながら怒る少女、マグ・メルが声を荒げる
「いつもの事だろう、ヤツに期待するだけ無駄だ」
雷をまとう剣を持つ左利き剣士が言う、彼はアヴァロンが嫌いなのだ
彼は正義という言葉が好きな生真面目な男で
女にだらしないアヴァロンとは馬が合わなかった
「今回は敵にならないだけマシと思いましょう」
エルフの美しい青年が言う
彼は後にハイエルフと呼ばれる事となるエルフである
妖精や精霊を従え、別世界への門すら開ける力があった
彼が言う通り、アヴァロンは以前に敵になった事がある
「来ナイ者ヲ気ニシテモ仕方ナイ
仮ニ奴ガ剣ヲ向ケテコヨウト、俺ガ止メヨウ」
アヴァロンを止められるのは神の勇者であるオルフェーのみだ
その彼が言うのだからと、この話はここまでとなった
「で、ボクは何をすればいいのさ、マグちゃん」
巨大なハルバートを軽々と担ぐボーイッシュな女性が言う
彼女はマグより神器を授かって以降、マグを崇拝している
若干行き過ぎなその好意にマグは引き気味なのだが
そんなマグの気持ちなど気づかぬ彼女は、ずずいと近寄りながら聞く
「あ、うん、いいよ、そこで、はいストップ」
マグが片手で彼女を制して言葉を続ける
「君はオルフェーに着いてって、死んでも彼を守って」
「マグちゃんのお願いとあれば!」
「はいはい、お願い」
マグは適当にあしらうようにして次の話に移る
「オルフェー、大変な役割だけど・・・大丈夫?」
マグは首から下げている錨十字(アンク)のネックレスを握りながら聞く
これは彼女の癖、不安になるとネックレスを強く握るのだ
「問題無イ」
オルフェーは腕組みをしたまま大きく頷いた
自信に満ちたその姿にマグの不安が和らいでゆく
彼の背負う大剣が目に入り、マグの不安は更に減っていった
この大剣こそがマグがオルフェーに与えた聖剣フラガラッハだ
勝利が約束された剣とも言われる神器である
だが、この聖剣はこれが本来の姿ではない・・・
「今度は抜ける?」
彼女の問いにオルフェーは答えなかった
ただ黙って瞳を閉じるだけだった
・・・・・
・・・
・
その後、彼等は悪魔との全面戦争に向かい、その大半を倒した
しかし、災厄神を止める事は出来ず、魔界に追いやる事で精一杯だった
甚大な被害は出たが、結果的には勝利したと言ってもいいだろう
元凶である災厄神は倒す事は叶わなかったが
魔界に追いやり、門を閉じ、何重にも結界を張った
これで様々な災厄は収まってゆくだろう
その後、現世に残っていた悪魔王アスタロトを封印し
世界には平和が戻ったと誰もが歓喜した
平和が訪れた・・・そう思っていた
後に神話戦争と呼ばれるこの戦が終わってから半年後
世界から災厄が消えるどころか悪化の一途を辿っていた
「・・・アタシ達は負けたんだ」
ヒビ割れた大地を眺めながらマグは呟く
「どうする事もできないのか?」
雷をまとう剣を持つ男が聞くが、マグは首を横に振る
「水だけなら何とか出来るけど・・・」
彼女はしゃがんで土を掴み、手でこねるように感触を確かめる
「土が死んでるんだよ」
その原因は先の神話戦争の時
悪魔王ベルゼビュートに地の神が倒されたためだ
だが、神は殺された訳ではない
今は力を取り戻すために眠りに入っただけなのだ
しかし、いつ起きるか分からないため、人類は滅亡の危機に瀕していた
「これ以上、神の復活が遅れたらマズいね」
マグは手についた土を払いながら立ち上がる
「アタシは聖域を守るための結界を作るよ
地の巫女にも手伝ってもらわなきゃな・・・」
地の巫女はドワーフの女性だ
彼女には礼儀というものが無いため、マグは少し苦手だった
「地の魔法を使えるのか?」
彼の疑問はもっともだ
地の神が眠りについて以降、地の魔法は発動しなくなっている
「大丈夫だよ、やり方はある」
「ほぉ」
「ゴーレムは動いてるでしょ?あれも地の魔法だよ」
「確かに・・・どう違うのだ?」
「地の神が眠る前に込められた地の魔力は有効って事」
「聖域を守れるほどの大魔力が込められた物なんてあるのか?」
「もちっ!」
マグが歯を見せ笑顔を作る
だが、その笑顔が偽物である事は分かっていた
彼女なりに気を使ってくれたのだろう
「ね、ソー」
ソーと呼ばれた雷をまとう剣を持つ左利きの剣士は不思議そうに彼女を見る
「なんだ?」
彼女に名前で呼ばれた事などなかったからだ
「アタシの宝物庫連れてってあげるよ」
「ほぉ・・・神器の出処と噂のお前の宝物庫か」
誰に聞かれても絶対に教えなかった秘密を何故今教える気になったんだ?
「俺に教えてもいいのか?」
「うん、君ならいいよ・・・でも内緒ね?」
「あぁ、了解だ」
マグはソーを連れて旅に出る
彼女が案内した場所は底の見えない崖だった
その崖を彼女の魔法でゆっくりと下りて行き
その下で待っていたのは光輝く川だった
「これは・・・」
「龍脈だよ、あまり直視しないでね、目が潰れるから」
「りょ、了解だ」
見るなというのも難しいのだが
何せこの川は途方もなく巨大なのだ
「龍脈っていうのはね、この星の血管だと思っていいよ」
マグは龍脈に入らぬよう避けながら進んで行く
その道筋を辿るようにソーも続いた
「神器っていうのはね、神々の力を分けてもらった物なんだけど
その器になる武具が必要でしょ?それは私達人類じゃ作れないんだ」
「なら誰が作るんだ?」
「星だよ」
「星・・・?この星そのものが、か?」
「うん」
話しながら彼女は再び魔法を発動し、薄い水の上を二人は歩く
「落ちないでね、星に飲まれるよ」
ゴクリと唾を飲み込み、ソーはマグの後に続く
「あった、あれだよ」
しばらく龍脈を進むと一際輝きの強い場所を見つける
そこには流れる川が凝固したような結晶が存在していた
「あ、3歩くらい下がってて」
「了解だ」
足元を確認しながら3歩下がると
マグは瞳を閉じて集中しているようだった
「星よ・・・また少しだけ力を分けて」
マグの周囲に水で出来た4つの刃が出現し
結晶を綺麗に切り取ってゆく
しばらくして切り取られた結晶は不規則に点滅を続けていた
腰から小さな瓶を取り出したマグは、中の液体を1滴だけ結晶に垂らす
すると、結晶の点滅は終わり、光は黄色く変わる
「これで地の器の材料が出来た」
「今の液体はなんだ?」
「あれは先々代の地の巫女の血だよ」
アタシが少しいじったけどね、と彼女はおどけて見せる
何故彼女が先々代の巫女の血を持っているのか謎だが
今は聞く必要はないと思い、もっと大事な別の事を聞く事にした
「1つ聞いていいか」
「なに?」
「マグ・・君は何者なんだ」
ソーの質問にマグは困った顔をしてからクスっと小さく笑う
「君にならいっか、一応秘密にしてね」
「了解だ」
「アタシは転生者、この世界を見守る者
永遠の水の巫女、神の分身、色々言われてるけどそんな感じ」
色々聞きたい事が溢れてくるが何から聞いていいものか悩んでいた
そんな彼の想いを察してか、マグは続ける
「アタシは何度も生まれ変わってるんだ
記憶を維持したまま、何度も何度も・・・ね」
「輪廻転生というやつか」
「そそ、流石ソーだね、1発で理解してくれて嬉しいよ」
「一体いつから・・・」
「忘れちゃった、少なくとも10回は生まれ変わってるかな」
人じゃなかった時もあるけどね、と彼女は笑いながら言った
その笑顔はどこか寂しそうで、辛そうだった
「10回か・・・途方もない年月だな・・・」
「時間はまだいいんだ
それよりも、死んで終わりじゃないのがちょっとしんどいかな」
「そう・・・か」
ソーにはその感覚は想像する事しか出来なかったが
永遠に巫女として戦い続けなければならないというのは
もはや地獄なのではないだろうか、そう思えた
「大変だったな」
「あはは!まぁねぇ~」
マグは珍しく本当の笑顔を見せて笑っていた
「それじゃ、これ加工しなきゃ」
先程切り取った結晶を水の刃で削ってゆく
上手いものだ、と関心するほど鮮やかなものだった
あっという間に30センチほどあった結晶は片手サイズの珠へと姿を変える
「こんなもんかな?・・・仕上げにっと」
4つの水の刃は形を変え、珠を包み込む
「よーし、帰ろーう」
「そのまま持って行くのか?」
珠は水に包まれたままだ
「うん、しばらくは触れないから、こうやって慣らすんだよ」
「なるほど、器用なものだな」
マグは水の檻に珠を入れたまま、ひょいひょいと龍脈を渡って行く
ジャンプで超えられない場所では水の地面を出し、その上を渡る
「これは知っていてもマグ以外は取って来れないだろうな」
「そう?」
「あぁ、複数の魔法を同時に使えんと無理だろう」
「あー・・・そうかもね、言われて初めて気がついた」
あはは、と笑うマグは偽物じゃない笑顔を見せていた
「マグはその笑顔の方が似合うな」
「なっ!」
マグの顔が真っ赤に染まり、ソーは小さく笑う
「次からかったら龍脈に叩き落とす」
プイッと横を向くマグは照れているようで少し可愛かった
彼女に対してこんな風に思う日が来るとは想像もしていなかったソーは
自分の心の変化がおかしくなり、笑い始める
「そ・ん・な・に・落ちたいのかなぁ?」
偽物の笑顔でこめかみ辺りに血管を浮かせる彼女に全力で否定し
ソーは素直に思った事を口にする事にした
「マグはちゃんと笑うと可愛いと思ってな
君の事をそんな風に思う日が来るとは思っていなかったからおかしくてな」
「まっ!」
マグの顔が茹でダコのようになり
足場・・・薄い水が揺らぐ
「マ、マグ!足場!足場!」
「あ・・・」
慌てて足場の水を元に戻し、汗など出ていない額を拭う
「ふぅ・・・もうからかうの禁止だかんね」
「了解だ」
それからの二人はあまり会話もせず旅を続けた
神の加護を受け、新たに誕生した神器を地の巫女に渡し
聖域を高い山々で囲む・・・魔力が足りず一部穴が出来てしまったが
この地は後に神の聖域、ラルアースと呼ばれる事となる
ラルアースには一部の人間やエルフが聖域を守る者として移り住み
数は少ないが亜人達も住み着いた
エルフは長い年月をかけてラルアースにある穴を木々で塞ぎ
この地を隔離する事に成功する
今回の件で神の眠りが世界に及ぼす被害を知ったため
神のいる場所たる聖域に近づけぬようしたのだ
念のため、世界最大のミスリル原石を使い、1体のゴーレムを作り出す
そのゴーレムを生と死の神の聖域の手前に配置し
何人も近寄れぬようにした
「これでもう安心だね」
「それにしてもピエドラを使うとはな」
ピエドラとは世界最大のミスリル原石の名である
「アヴァロンが持ってたから勝手に使ってやった」
にしし!とマグは笑い、親指を立てる
最近の彼女は自然に笑うようになっていた
「奴も神の役に立てるなら本望だろう」
「どうかなー、アイツは自分さえ良ければいいタイプだからなぁ」
「しかし、よく奴を倒せたな」
ソーは改めてマグという人物の凄さを実感する
「アタシだけじゃ無理だよ、オルフェーもいたからね」
「オルフェーは元気だったか?」
「・・・ううん、アヴァロンに関しては手を貸してくれたけど
もう自分には関わらないでくれって飛んで行っちゃった」
彼の心には癒えない傷ができていた
それは神話戦争の時、大勢の仲間を失ったためだ
その中には彼の愛する者すらも・・・・
「そう言えば、奴の死体が盗まれたというのは本当なのか?」
「うん、気がつけば煙みたいに消えちゃってて
あんなのどうするんだろね?」
「首が無くとも生きていたというのは本当なのか?」
「うん、びっくりした、オルフェーが焼いたから確実に死んだはずだけどね」
「そうか・・・人間を辞めたというのは本当だったのだな」
アヴァロンには黒い噂が絶えなかった
その1つが魔物の血をすすったという噂だ
普通の人間ならば死ぬのだが、奴は平然としていたらしい
更には悪魔の血すらすすったと聞く
「死体の件は気になるが、今は聖域の守りが完成した事を祝おう」
「うん、そだね!」
地の神は目を覚まし、大地は少しずつだが力を取り戻している
神話戦争からこの数年の間に人類は半分以下まで減ってしまった
滅んだ国も多く、数多くの文明が受け継がれる事なく消えた
しかし、人類は必死に足掻き、種が絶える事はなかった
そんな苦しい時代をマグという女性は生きていた
その後、彼女は寿命で息絶える時まで世界のために働き
再び転生し、世界を見守り続けた・・・・
マナの魔法で叩き落されたナビィは上空の彼女を見上げる
身体は問題なく動くが、まるで巨石で殴られたような衝撃だった
あれほどの魔法をいつ詠唱したのだ?
いや、詠唱などしていなかった
無詠唱呪文(クイックスペル)など机上の空論ではなかったのか?
先に魔法を込めた物、魔道具と呼ばれる物ならば無詠唱で魔法は発動できる
だが、基本的に使い切りであり、その威力は大した事がない
先程の威力の魔道具が存在するのだろうか?・・・いや、無いだろう
ならば、あの女は無詠唱で私の常識を超える魔法を使う者という事になる
あれが伝承で聞く巫女という類の者か?
そもそも、どうやって水の上に立っている
あれもまた魔法なのか?
となると、彼女は複数の魔法を同時に発動している事になる
複数呪文(マルチスペル)、難しいが不可能ではない
2つまでの魔法ならば同時詠唱できる者もごく稀にだがいるだろう
しかし、見たところ彼女の発動していた魔法は3つある
あの薄い水を維持する魔法、その上に乗る魔法
更に私を叩き落としたあの強力な魔法だ
それを無詠唱で使いこなす相手だとしたら・・・・
そこでナビィはある事に気がつく
何故こんな当たり前の事を見落としていたのか
とことん愚かな自分に嫌気がする
あの女の魔力量は今の私・・・嵐神(スパルナ)を超えているではないか
何だあの化物は、今まであんなのがどこに息を潜めていた
だが、勝てない相手ではない
魔力量だけが勝敗を決める訳ではないからだ
ナビィは魔力を集め始める
彼女の背にある光翼が激しく輝き、様々な色の光が集まってゆく
すると、上空にいるマナはゆっくりと降下し
ナビィから目を離さぬまま自身のうなじに手を回した
彼女が首にかけていたネックレスのようなものを取り出す
「君さ、もうやめなよ」
十字のようなデザインのネックレスを回しながら彼女は言う
「お前のせいで大切な人が1人死んだんだよ、わかる?」
誰のことだ?ヒッタイト兵に想い人でもいたのだろうか
「君があの国の人をどれだけ殺そうと関係無いけどさ
超えちゃいけないラインってのがあるんだよ?わかってる?」
ナビィには何の事を言っているのかさっぱりだった
しかし、マナの目つきが変わり、ナビィは身震いする
それは絶対的な恐怖からだった
「お前は世界の敵になった」
明らかに空気が変わり
ナビィは咄嗟に集め始めたばかりの魔力を放とうとするが
それよりも早く、ナビィの足元と頭上から凄まじい量の水が現れ
上下から凄まじい水量に潰され、身動きが取れなくなる
この黄金の身体は人間の能力を遥かに超えている
片手で1トン程度なら持てるほどの腕力があるのだ
その身体が一切動けなくなるほどの水圧だった
『ナビィ隊長を守れ!!』
メンフィス軍からそんな声が聞こえ、矢の雨が降る
だが、矢は全て障壁に阻まれ彼女に届く事はなかった
槍隊が突撃をし、マナは片手を払うだけで20名近くの人間を水で吹き飛ばす
その様子を見ていたヒッタイト軍は歓声を上げ
この好機逃すまいとメンフィスに突撃をしかける
『お前らいい加減にしろよっ!!』
マナが叫び、彼女の両手から発生した大量の水が両軍の兵を押し流してゆく
『み、水の巫女が裏切ったぞ!!』
「は?」
ヒッタイト兵の1人がそう叫ぶと、マナは鋭い目つきで睨みつける
「誰がいつ君たちの"仲間"になった?」
その一言で声を上げた兵は黙り、後ずさってゆく
だが、そんな彼を押し退け、1人の傭兵が前へと出る
彼はこの戦で戦績を上げ大量の金を貰うつもりの腕に自信のある男だ
「魔法使いなど近寄ってしまえばっ!」
男は2本の長剣(ロングソード)を操り、彼女に襲いかかる
だが、マナは微動だにせず、彼の攻撃は障壁に阻まれる
「くっ!なんだこれは!」
男が動かぬ剣を押し込もうと必死になっていると
マナの手が彼の顔を覆う
「な・・・に?」
刹那、男の全身から血が吹き出し、炸裂し、バラバラになる
マナは返り血は一切浴びておらず
触れていたはずの手にすら血はついていなかった
「ひ、人が破裂したぞ・・・」
「化け物め・・・」
マナは水の巫女だ、水ならば何でも操れると言っていい
今彼女がしたのは男の体内の水分、血液を操作したのだ
そして、彼女は水の巫女であると同時にある立場にある者である
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
1つのオアシスを巡るメンフィスとヒッタイトの戦争から約6000年前
世界は大変動(カタクリズム)に見舞われていた
大災害、地殻変動、そして世界大戦・・・
ありとあらゆる様々な災厄が世界を支配していた時代
人類は激減し、世界の総人口の4分の1に死が訪れた頃
世界に変化が起きた
ある神が門(ゲート)を開いたのだ
その神は"破壊神"や"災厄神"と呼ばれていた
純白の髪や肌や眼を持つ人型の神
その姿は見た者によって異なるとされており
幼い少年という者や、麗しい女性という者や、老人だとも言われていた
災厄神は門を開き、この世界とある世界を繋げた
その世界とは"魔界"である
魔族・・・悪魔と呼ばれる者達の巣食う世界
何故彼の神は魔界の門を開いたのかは分からないが
世界には悪魔達が溢れかえる事となった
悪魔にとっての人類とは、娯楽であり餌であった
そして、人類は今更だが気づく事となる
人類同士で争っている場合ではない、と・・・
世界各地から軍が集まり
人間、亜人、エルフ、ドワーフなど
様々な人類が手を取り合い、悪魔と戦った
その戦いは想像を絶する激しいものだった
幾つもの種族が滅び、文明が滅んだ
だが、人類には希望があったのだ
神の使徒、巫女、そして、神の勇者という存在がいた事である
彼等は1人で数万の兵をも上回る戦闘力を有し
上位悪魔と呼ばれる魔族に太刀打ち出来る唯一の存在だった
神の使いである彼等の中に、際立つ力を有した3人がいた
1人は最強に限りなく近いとされる種族である竜人(ドラゴニュート)の男
名はオルフェー、鮮やかな緑色の鱗の大男だ
彼は神の勇者に選ばれ、試練の乗り越え、聖剣を手に数多の悪魔を屠る
その力は神にも迫ると言われたほどだった
1人はある国の王、人間だ
いや、正確には人間だった、と言うべきかもしれない
彼は人の限界を遥かに超え、その力は禍々しく、神の使いには到底見えなかった
神の使徒たる黒衣の王、その名はアヴァロン
唯一竜人の勇者と互角に渡り合えた男だった
そして、最後の1人は"神の子"と呼ばれた少女
他の二人ほどではなかったが、彼女もまた特別な存在だった
彼女の名はマグ・メル、水の巫女である
マグ・メルは生を受ける前から巫女に選ばれ
類稀なる魔法の才を持ち合わせていた
巫女である事以外にも彼女には特異な点が複数あった
その1つが人類には不可能とされていた無詠唱呪文だ
更に複数呪文、何と彼女は6つの呪文を同時に発動する事ができる
三重詠唱すら不可能に近いとされている中で、だ
そんな彼女は神の使い達に様々な武器・・・神器を与えた
勇者である竜人の聖剣もまた彼女から授かった物である
彼女がどこでそんな武具を手に入れたのかは誰も知らなかったが
人類にはそれらの武具は希望の光となった
彼女の登場により人類は攻勢に出る
神の使いが集い、悪魔軍との最終決戦を迎えようとしていた・・・
「ったく、アヴァロンの奴、こんな時だってのにどこ行ったの!」
短いスカートを揺らしながら怒る少女、マグ・メルが声を荒げる
「いつもの事だろう、ヤツに期待するだけ無駄だ」
雷をまとう剣を持つ左利き剣士が言う、彼はアヴァロンが嫌いなのだ
彼は正義という言葉が好きな生真面目な男で
女にだらしないアヴァロンとは馬が合わなかった
「今回は敵にならないだけマシと思いましょう」
エルフの美しい青年が言う
彼は後にハイエルフと呼ばれる事となるエルフである
妖精や精霊を従え、別世界への門すら開ける力があった
彼が言う通り、アヴァロンは以前に敵になった事がある
「来ナイ者ヲ気ニシテモ仕方ナイ
仮ニ奴ガ剣ヲ向ケテコヨウト、俺ガ止メヨウ」
アヴァロンを止められるのは神の勇者であるオルフェーのみだ
その彼が言うのだからと、この話はここまでとなった
「で、ボクは何をすればいいのさ、マグちゃん」
巨大なハルバートを軽々と担ぐボーイッシュな女性が言う
彼女はマグより神器を授かって以降、マグを崇拝している
若干行き過ぎなその好意にマグは引き気味なのだが
そんなマグの気持ちなど気づかぬ彼女は、ずずいと近寄りながら聞く
「あ、うん、いいよ、そこで、はいストップ」
マグが片手で彼女を制して言葉を続ける
「君はオルフェーに着いてって、死んでも彼を守って」
「マグちゃんのお願いとあれば!」
「はいはい、お願い」
マグは適当にあしらうようにして次の話に移る
「オルフェー、大変な役割だけど・・・大丈夫?」
マグは首から下げている錨十字(アンク)のネックレスを握りながら聞く
これは彼女の癖、不安になるとネックレスを強く握るのだ
「問題無イ」
オルフェーは腕組みをしたまま大きく頷いた
自信に満ちたその姿にマグの不安が和らいでゆく
彼の背負う大剣が目に入り、マグの不安は更に減っていった
この大剣こそがマグがオルフェーに与えた聖剣フラガラッハだ
勝利が約束された剣とも言われる神器である
だが、この聖剣はこれが本来の姿ではない・・・
「今度は抜ける?」
彼女の問いにオルフェーは答えなかった
ただ黙って瞳を閉じるだけだった
・・・・・
・・・
・
その後、彼等は悪魔との全面戦争に向かい、その大半を倒した
しかし、災厄神を止める事は出来ず、魔界に追いやる事で精一杯だった
甚大な被害は出たが、結果的には勝利したと言ってもいいだろう
元凶である災厄神は倒す事は叶わなかったが
魔界に追いやり、門を閉じ、何重にも結界を張った
これで様々な災厄は収まってゆくだろう
その後、現世に残っていた悪魔王アスタロトを封印し
世界には平和が戻ったと誰もが歓喜した
平和が訪れた・・・そう思っていた
後に神話戦争と呼ばれるこの戦が終わってから半年後
世界から災厄が消えるどころか悪化の一途を辿っていた
「・・・アタシ達は負けたんだ」
ヒビ割れた大地を眺めながらマグは呟く
「どうする事もできないのか?」
雷をまとう剣を持つ男が聞くが、マグは首を横に振る
「水だけなら何とか出来るけど・・・」
彼女はしゃがんで土を掴み、手でこねるように感触を確かめる
「土が死んでるんだよ」
その原因は先の神話戦争の時
悪魔王ベルゼビュートに地の神が倒されたためだ
だが、神は殺された訳ではない
今は力を取り戻すために眠りに入っただけなのだ
しかし、いつ起きるか分からないため、人類は滅亡の危機に瀕していた
「これ以上、神の復活が遅れたらマズいね」
マグは手についた土を払いながら立ち上がる
「アタシは聖域を守るための結界を作るよ
地の巫女にも手伝ってもらわなきゃな・・・」
地の巫女はドワーフの女性だ
彼女には礼儀というものが無いため、マグは少し苦手だった
「地の魔法を使えるのか?」
彼の疑問はもっともだ
地の神が眠りについて以降、地の魔法は発動しなくなっている
「大丈夫だよ、やり方はある」
「ほぉ」
「ゴーレムは動いてるでしょ?あれも地の魔法だよ」
「確かに・・・どう違うのだ?」
「地の神が眠る前に込められた地の魔力は有効って事」
「聖域を守れるほどの大魔力が込められた物なんてあるのか?」
「もちっ!」
マグが歯を見せ笑顔を作る
だが、その笑顔が偽物である事は分かっていた
彼女なりに気を使ってくれたのだろう
「ね、ソー」
ソーと呼ばれた雷をまとう剣を持つ左利きの剣士は不思議そうに彼女を見る
「なんだ?」
彼女に名前で呼ばれた事などなかったからだ
「アタシの宝物庫連れてってあげるよ」
「ほぉ・・・神器の出処と噂のお前の宝物庫か」
誰に聞かれても絶対に教えなかった秘密を何故今教える気になったんだ?
「俺に教えてもいいのか?」
「うん、君ならいいよ・・・でも内緒ね?」
「あぁ、了解だ」
マグはソーを連れて旅に出る
彼女が案内した場所は底の見えない崖だった
その崖を彼女の魔法でゆっくりと下りて行き
その下で待っていたのは光輝く川だった
「これは・・・」
「龍脈だよ、あまり直視しないでね、目が潰れるから」
「りょ、了解だ」
見るなというのも難しいのだが
何せこの川は途方もなく巨大なのだ
「龍脈っていうのはね、この星の血管だと思っていいよ」
マグは龍脈に入らぬよう避けながら進んで行く
その道筋を辿るようにソーも続いた
「神器っていうのはね、神々の力を分けてもらった物なんだけど
その器になる武具が必要でしょ?それは私達人類じゃ作れないんだ」
「なら誰が作るんだ?」
「星だよ」
「星・・・?この星そのものが、か?」
「うん」
話しながら彼女は再び魔法を発動し、薄い水の上を二人は歩く
「落ちないでね、星に飲まれるよ」
ゴクリと唾を飲み込み、ソーはマグの後に続く
「あった、あれだよ」
しばらく龍脈を進むと一際輝きの強い場所を見つける
そこには流れる川が凝固したような結晶が存在していた
「あ、3歩くらい下がってて」
「了解だ」
足元を確認しながら3歩下がると
マグは瞳を閉じて集中しているようだった
「星よ・・・また少しだけ力を分けて」
マグの周囲に水で出来た4つの刃が出現し
結晶を綺麗に切り取ってゆく
しばらくして切り取られた結晶は不規則に点滅を続けていた
腰から小さな瓶を取り出したマグは、中の液体を1滴だけ結晶に垂らす
すると、結晶の点滅は終わり、光は黄色く変わる
「これで地の器の材料が出来た」
「今の液体はなんだ?」
「あれは先々代の地の巫女の血だよ」
アタシが少しいじったけどね、と彼女はおどけて見せる
何故彼女が先々代の巫女の血を持っているのか謎だが
今は聞く必要はないと思い、もっと大事な別の事を聞く事にした
「1つ聞いていいか」
「なに?」
「マグ・・君は何者なんだ」
ソーの質問にマグは困った顔をしてからクスっと小さく笑う
「君にならいっか、一応秘密にしてね」
「了解だ」
「アタシは転生者、この世界を見守る者
永遠の水の巫女、神の分身、色々言われてるけどそんな感じ」
色々聞きたい事が溢れてくるが何から聞いていいものか悩んでいた
そんな彼の想いを察してか、マグは続ける
「アタシは何度も生まれ変わってるんだ
記憶を維持したまま、何度も何度も・・・ね」
「輪廻転生というやつか」
「そそ、流石ソーだね、1発で理解してくれて嬉しいよ」
「一体いつから・・・」
「忘れちゃった、少なくとも10回は生まれ変わってるかな」
人じゃなかった時もあるけどね、と彼女は笑いながら言った
その笑顔はどこか寂しそうで、辛そうだった
「10回か・・・途方もない年月だな・・・」
「時間はまだいいんだ
それよりも、死んで終わりじゃないのがちょっとしんどいかな」
「そう・・・か」
ソーにはその感覚は想像する事しか出来なかったが
永遠に巫女として戦い続けなければならないというのは
もはや地獄なのではないだろうか、そう思えた
「大変だったな」
「あはは!まぁねぇ~」
マグは珍しく本当の笑顔を見せて笑っていた
「それじゃ、これ加工しなきゃ」
先程切り取った結晶を水の刃で削ってゆく
上手いものだ、と関心するほど鮮やかなものだった
あっという間に30センチほどあった結晶は片手サイズの珠へと姿を変える
「こんなもんかな?・・・仕上げにっと」
4つの水の刃は形を変え、珠を包み込む
「よーし、帰ろーう」
「そのまま持って行くのか?」
珠は水に包まれたままだ
「うん、しばらくは触れないから、こうやって慣らすんだよ」
「なるほど、器用なものだな」
マグは水の檻に珠を入れたまま、ひょいひょいと龍脈を渡って行く
ジャンプで超えられない場所では水の地面を出し、その上を渡る
「これは知っていてもマグ以外は取って来れないだろうな」
「そう?」
「あぁ、複数の魔法を同時に使えんと無理だろう」
「あー・・・そうかもね、言われて初めて気がついた」
あはは、と笑うマグは偽物じゃない笑顔を見せていた
「マグはその笑顔の方が似合うな」
「なっ!」
マグの顔が真っ赤に染まり、ソーは小さく笑う
「次からかったら龍脈に叩き落とす」
プイッと横を向くマグは照れているようで少し可愛かった
彼女に対してこんな風に思う日が来るとは想像もしていなかったソーは
自分の心の変化がおかしくなり、笑い始める
「そ・ん・な・に・落ちたいのかなぁ?」
偽物の笑顔でこめかみ辺りに血管を浮かせる彼女に全力で否定し
ソーは素直に思った事を口にする事にした
「マグはちゃんと笑うと可愛いと思ってな
君の事をそんな風に思う日が来るとは思っていなかったからおかしくてな」
「まっ!」
マグの顔が茹でダコのようになり
足場・・・薄い水が揺らぐ
「マ、マグ!足場!足場!」
「あ・・・」
慌てて足場の水を元に戻し、汗など出ていない額を拭う
「ふぅ・・・もうからかうの禁止だかんね」
「了解だ」
それからの二人はあまり会話もせず旅を続けた
神の加護を受け、新たに誕生した神器を地の巫女に渡し
聖域を高い山々で囲む・・・魔力が足りず一部穴が出来てしまったが
この地は後に神の聖域、ラルアースと呼ばれる事となる
ラルアースには一部の人間やエルフが聖域を守る者として移り住み
数は少ないが亜人達も住み着いた
エルフは長い年月をかけてラルアースにある穴を木々で塞ぎ
この地を隔離する事に成功する
今回の件で神の眠りが世界に及ぼす被害を知ったため
神のいる場所たる聖域に近づけぬようしたのだ
念のため、世界最大のミスリル原石を使い、1体のゴーレムを作り出す
そのゴーレムを生と死の神の聖域の手前に配置し
何人も近寄れぬようにした
「これでもう安心だね」
「それにしてもピエドラを使うとはな」
ピエドラとは世界最大のミスリル原石の名である
「アヴァロンが持ってたから勝手に使ってやった」
にしし!とマグは笑い、親指を立てる
最近の彼女は自然に笑うようになっていた
「奴も神の役に立てるなら本望だろう」
「どうかなー、アイツは自分さえ良ければいいタイプだからなぁ」
「しかし、よく奴を倒せたな」
ソーは改めてマグという人物の凄さを実感する
「アタシだけじゃ無理だよ、オルフェーもいたからね」
「オルフェーは元気だったか?」
「・・・ううん、アヴァロンに関しては手を貸してくれたけど
もう自分には関わらないでくれって飛んで行っちゃった」
彼の心には癒えない傷ができていた
それは神話戦争の時、大勢の仲間を失ったためだ
その中には彼の愛する者すらも・・・・
「そう言えば、奴の死体が盗まれたというのは本当なのか?」
「うん、気がつけば煙みたいに消えちゃってて
あんなのどうするんだろね?」
「首が無くとも生きていたというのは本当なのか?」
「うん、びっくりした、オルフェーが焼いたから確実に死んだはずだけどね」
「そうか・・・人間を辞めたというのは本当だったのだな」
アヴァロンには黒い噂が絶えなかった
その1つが魔物の血をすすったという噂だ
普通の人間ならば死ぬのだが、奴は平然としていたらしい
更には悪魔の血すらすすったと聞く
「死体の件は気になるが、今は聖域の守りが完成した事を祝おう」
「うん、そだね!」
地の神は目を覚まし、大地は少しずつだが力を取り戻している
神話戦争からこの数年の間に人類は半分以下まで減ってしまった
滅んだ国も多く、数多くの文明が受け継がれる事なく消えた
しかし、人類は必死に足掻き、種が絶える事はなかった
そんな苦しい時代をマグという女性は生きていた
その後、彼女は寿命で息絶える時まで世界のために働き
再び転生し、世界を見守り続けた・・・・
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