亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市

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第四章 亡霊、魔王討伐を決意する。

第三十九話 リバースする少女。絡まる神官。それはともかく黄金の右腕は趣味が悪い。そんな混沌とした状況 #2

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「まだ城門は開かないのか!」

 いつまでたっても開かない城門にガープは苛立ち、周囲の魔物達を怒鳴りつけた。

 背後のクシャーナは、不貞腐ふてくされたままで返事もしない。

 その時、前線の方から一匹の魔物が駆け寄ってきて、ガープの前にひざまずいた。

「どうした!」

「はっ! ご報告申し上げます。頭のおかしい女神官が単独で特攻して参りました」

「は? なんだそれは? 神官の一人や二人、一々報告するな!」

「それが……恐ろしい勢いで突っ込んで参りまして、ミノタウロス他、十数体の魔物が倒されました!」

「は? 十数体だと!? 神官一人でか!?」

「アルケニーが糸で絡めとって沈黙させましたが、予想外の損害ゆえ、ご報告に上った次第です」

「で、その神官はどうした!」

「アルケニーが、夕食にすると持ち去りました!」

 獲物は捕らえた者の物だ。

 何もおかしなことではない。

 だが、ガープは思わず首を捻った。

 今回の遠征に、アルケニーなど連れて来ただろうか?

「……まあ良い。おかしな連中が突っ込んできて悪戯に被害を受けるぐらいなら、力づくで攻め入った方がマシか……」

 そしてガープは車両の先頭に立って、大声を張り上げた。

「全軍前進! 大型の魔獣を前面に押し出せ! 城門を打ち破るのだ!」


 ◇ ◇ ◇


 先に動いたのは、レイボーンだった。

 神速の踏み込み。鋭い突き。

 だが、ストラスは風にそよぐすすきの如くに、ゆらりと身体を捻って、それをあっさりとかわす。

「ならば!」

 レイボーンは、再び剣を突き出した。

 かわされるのは織り込み済み、そのままノーモーションで横薙ぎに剣をはらう。

 ところが、それすらもあっさりと躱される。まるでストラスには、剣線の行く末が見えてでもいるかのようだった。

「くっ!」

 レイボーンが悔しげな声を洩らした途端、ストラスは突き出したレイボーンの手首を掴み、そして、ニヤリとわらう。

「面白い物を見せてやろう」

 途端にレイボーンの右腕。ストラスが握ったその部分から徐々に色が変わり始めた。

「なにっ!?」

 慌てて手を払いのけて飛び退くレイボーン。だが、変色し始めた部分は、どんどんと広がっていく。

 それは光輝く黄金の色。

「ふはは! 私に触れられたものは全て黄金に変わる。人間は黄金を価値ある物としているらしいな。黄金の髑髏どくろなど、さぞ値打ちがでることだろうよ」

 手首から先は既に完全に黄金と化して、動かすこともできない。

 ぞわぞわと腕を這いあがってくる黄金こがね色。

「やむをえん!」

 レイボーンは、右肩から先を切り離す。

 剣を掴んだまま黄金と化した右腕が、どさりと地に落ちた。

「ふはは、切り離したか。賢明な判断だ。だが、武器を失っては最早どうすることもできまい。なあ、竜牙兵トゥースウォーリア!」

 レイボーンはくらい穴だけの眼で、ストラスを見据える。

 既に勝った気でいる知識の悪魔は、ふくろうの頭をくるくると回転させながら、上機嫌に口を開いた。

「知っているぞ。竜牙兵トゥースウォーリア。所詮、貴様は牙のゴーレム。バラバラになっても再生する以外には、特殊な力は無いのだろう? だが、黄金に変わってしまえば、再生することすらかなうまい」

「一つ聞かせて貰おう。剣をかわしたのも特殊能力か?」

「ああ、そうだ。私は数秒先の未来が見える。貴様には最初から勝ち目など無かったのだよ」

 未来視と黄金へと変える力。

 ――確かに侮り過ぎだな。

 レイボーンは、そう自嘲する。

「ならば……仕方あるまい。確かに竜牙兵トゥースウォーリアには大した特殊能力はない。にはな」

 次の瞬間、レイは大きく口を開いた。

 空洞の頭蓋骨、その内側。そこで突然、蒼い炎が渦を巻く。

 がらんどうの眼窩がんかの奥、外れんばかりに開いた口腔の奥。その向こう側で、蒼い炎が燃え盛った。

「なっ!? なんだそれは!」

 数秒後の未来を視たのだろう。ストラスの顔が絶望に歪んだ。

「見えなければ、恐怖を感じる暇も無かっただろうな」

「は、反則だ、ず、ずるいぞ!」

「ルールなど最初から無い」

 途端に、レイボーンの大きく開いた口から、巨大な炎の柱が噴き出す。

 それはブレス。規模は流石に劣るものの、古竜エンシエントドラゴンそのものの、蒼い炎の柱が一気に周囲を薙ぎ払う。

 やがて、

 炎が消えた時には、既にストラスの姿もオルトロスの姿もどこにも見当たらない。

 風景は一変。

 辺り一面が灰燼と化して、地面には、真っ黒な灰と消え残った残り火がちろちろとおこっていた。

「ふむ、奴が死んでも、右腕は戻らないか……」

 地面に転がる黄金の右手を眺めて、レイボーンが独り言ちる。

「あーあ、もうちょっと加減できないの? 地形変わっちゃってるじゃない」

 背後から、ミーシャの声がした。

「もういいのか?」

「うん……って、アンタ、右手どうしたのよ?」

 レイボーンが顎をしゃくって地面を指し示すと、ミーシャは眼を丸くして、黄金のオブジェと化した右手を眺める。

「うわっ……趣味悪いわね。それ、玄関かどこかに飾る感じ?」

「私の趣味ではない」

 表情の無い顔にムスッとした雰囲気を漂わせるレイボーン。

 それを眺めて、ミーシャはクスリと笑う。

「で、アンタの本体が来るまで、どれぐらい掛かりそう?」

「四、五時間というところだな」

 その答えに、ミーシャは静かに目を瞑る。

 そして、静かにまぶたを開くと、レイボーンを見据えて言った。

「わかった。じゃあ、それまで私が頑張る。くわよ!」

「は?」

 途端に、二人の周囲で、風が激しく渦を巻き始めた。
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