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第四章 亡霊、魔王討伐を決意する。
第三十六話 マンティコアライダー #3
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「何処へ行くのだ!」
「お姉ちゃんのところ!」
階段を駆け下りて、吹き抜けの玄関ホールへと降り立つと、ミーシャは正面の扉を押し開く。
扉の向こうは、城と町を隔てる内部城壁。
その手前では、兵士達が慌しく行き来しているのが見えた。
王妃の妹のエルフが訪れていることは、既に知れ渡っているのだろう。
「こちらは危のうございます。姫、お部屋にお戻りください!」
ミーシャの姿を目にした兵士が、慌てて駆け寄ってくる。
だが、ミーシャは兵士の制止を振り切って駆け出すと、慌てる彼らを振り返りもせずに、城壁の上へと駆け上がっていく。
城壁の上から街並みを見回せば、既にいくつかの煙が立ち上っているのが見えた。
通りを埋める人々は、西の方角、港の方へと悲鳴をあげて逃げている。
だが、その流れから外れた城門前の通りには、人通りはほとんどない。
「行くわよ、レイボーン!」
そう言うなり、ミーシャは城壁の上から一気に跳躍する。
「ま、待て!」
レイボーンが、その後を追って飛び降りた。
兵士達は思わず眼を丸くする。
内部城壁とは言っても、高さは十メートルを超えるのだ。どう考えても、ただで済む高さではない。
落下しながら、
「お願い、風精霊達!」
ミーシャがそう声を上げると、彼女の身体がふわりと浮き上がった。
そして、彼女は音も無く、ゆっくりと着地する。
だが、レイボーンは地面に落ちると、がしゃん! と音を立てて、バラバラに飛び散った。
まるで、子どもが積み木の塔を崩したかのような有様である。
「レ、レイボーン!?」
ミーシャが慌てて声を上げると、レイボーンの身体を形作る骨が、ズルズルと寄り集まってきて、元の身体を構成する。
「気持ちわるっ!?」
寄り集まる骨の動きを眺めて、ミーシャが思わず声を上げると、レイボーンは不満げな声を洩らした。
「ずるいではないか……私にも魔法を掛けてくれても良いだろうに」
「魔法じゃないわよ。風精霊達にお願いしただけよ。アンタの事もお願いしたんだけど、風精霊達ってば、アンタのこと、あんまり好きじゃないみたいね」
「今度、そいつらとはきっちり話をつけてやる。通訳を頼む」
「いやよ、めんどくさい」
そう言い捨てるとミーシャは、人通りの溢れる大通りを避けて、路地を走り始める。
無論、大通りほどではないにしろ、そこにも人が溢れていた。
だが、エルフの後を追って、骸骨が走ってくるのを目にすると、人々は悲鳴を上げながら逃げ惑って、道が拓けた。
やがて、二人は路地を抜けて、比較的広い道へと辿り着く。
港へ向かう経路からは外れているのだろう。人通りはほとんどない。
だが、その通りに出た途端、レイボーンはミーシャの肩を掴んで、引っ張った。
「来たぞ」
レイボーンの視線を追って目を向けると、通りの向こうから、巨大な魔獣が真っすぐに駆けてくるのが見える。
肉食獣らしい跳ねる様な走り方。白目を剥いた老爺のような悍ましい顔が、二人の姿を見つけて牙を剥いた。
「人面獅子!?」
ミーシャが目を見開くと、魔獣の背中に跨ったゴブリンが嘲るように、ぎゃぎゃっ! と声を上げる。
「路地の方へ隠れていろ」
レイはミーシャを路地の方へと押し込んで、迫りくる魔獣を見据え、そして、声を上げた。
「歩法!」
ミーシャの視界から、レイボーンの姿が消える。
次の瞬間には人面獅子の背中に跨ったゴブリンの首が、宙を舞っていた。
レイボーンは、人面獅子の背中で立ち上がると、首の無いゴブリンを蹴落として、そこに跨る。
そして、人面獅子の首筋に剣を突きつけた。
「言葉はわかるのだろう。死にたくなければ止まれ!」
途端に、魔獣が足を突っ張る様にして動きを止めると、レイはミーシャの方を振り返って声を上げた。
「早く乗れ! ミーシャ!」
「乗るの!? 大丈夫なの、それ!?」
レイボーンは剣の柄で魔獣の頭をぶん殴って、身を伏せさせると、手を伸ばして、戸惑うミーシャを魔獣の背の上へと引っ張り上げる。
そして、再び魔獣の首筋に剣を突きつけながら、こう指示を出した。
「城壁の向こうまでつれていけ。そうすれば解放してやる」
------
※レイの本体が陥っている状況に関しては、本編終了後にSSとして書く予定です。
「お姉ちゃんのところ!」
階段を駆け下りて、吹き抜けの玄関ホールへと降り立つと、ミーシャは正面の扉を押し開く。
扉の向こうは、城と町を隔てる内部城壁。
その手前では、兵士達が慌しく行き来しているのが見えた。
王妃の妹のエルフが訪れていることは、既に知れ渡っているのだろう。
「こちらは危のうございます。姫、お部屋にお戻りください!」
ミーシャの姿を目にした兵士が、慌てて駆け寄ってくる。
だが、ミーシャは兵士の制止を振り切って駆け出すと、慌てる彼らを振り返りもせずに、城壁の上へと駆け上がっていく。
城壁の上から街並みを見回せば、既にいくつかの煙が立ち上っているのが見えた。
通りを埋める人々は、西の方角、港の方へと悲鳴をあげて逃げている。
だが、その流れから外れた城門前の通りには、人通りはほとんどない。
「行くわよ、レイボーン!」
そう言うなり、ミーシャは城壁の上から一気に跳躍する。
「ま、待て!」
レイボーンが、その後を追って飛び降りた。
兵士達は思わず眼を丸くする。
内部城壁とは言っても、高さは十メートルを超えるのだ。どう考えても、ただで済む高さではない。
落下しながら、
「お願い、風精霊達!」
ミーシャがそう声を上げると、彼女の身体がふわりと浮き上がった。
そして、彼女は音も無く、ゆっくりと着地する。
だが、レイボーンは地面に落ちると、がしゃん! と音を立てて、バラバラに飛び散った。
まるで、子どもが積み木の塔を崩したかのような有様である。
「レ、レイボーン!?」
ミーシャが慌てて声を上げると、レイボーンの身体を形作る骨が、ズルズルと寄り集まってきて、元の身体を構成する。
「気持ちわるっ!?」
寄り集まる骨の動きを眺めて、ミーシャが思わず声を上げると、レイボーンは不満げな声を洩らした。
「ずるいではないか……私にも魔法を掛けてくれても良いだろうに」
「魔法じゃないわよ。風精霊達にお願いしただけよ。アンタの事もお願いしたんだけど、風精霊達ってば、アンタのこと、あんまり好きじゃないみたいね」
「今度、そいつらとはきっちり話をつけてやる。通訳を頼む」
「いやよ、めんどくさい」
そう言い捨てるとミーシャは、人通りの溢れる大通りを避けて、路地を走り始める。
無論、大通りほどではないにしろ、そこにも人が溢れていた。
だが、エルフの後を追って、骸骨が走ってくるのを目にすると、人々は悲鳴を上げながら逃げ惑って、道が拓けた。
やがて、二人は路地を抜けて、比較的広い道へと辿り着く。
港へ向かう経路からは外れているのだろう。人通りはほとんどない。
だが、その通りに出た途端、レイボーンはミーシャの肩を掴んで、引っ張った。
「来たぞ」
レイボーンの視線を追って目を向けると、通りの向こうから、巨大な魔獣が真っすぐに駆けてくるのが見える。
肉食獣らしい跳ねる様な走り方。白目を剥いた老爺のような悍ましい顔が、二人の姿を見つけて牙を剥いた。
「人面獅子!?」
ミーシャが目を見開くと、魔獣の背中に跨ったゴブリンが嘲るように、ぎゃぎゃっ! と声を上げる。
「路地の方へ隠れていろ」
レイはミーシャを路地の方へと押し込んで、迫りくる魔獣を見据え、そして、声を上げた。
「歩法!」
ミーシャの視界から、レイボーンの姿が消える。
次の瞬間には人面獅子の背中に跨ったゴブリンの首が、宙を舞っていた。
レイボーンは、人面獅子の背中で立ち上がると、首の無いゴブリンを蹴落として、そこに跨る。
そして、人面獅子の首筋に剣を突きつけた。
「言葉はわかるのだろう。死にたくなければ止まれ!」
途端に、魔獣が足を突っ張る様にして動きを止めると、レイはミーシャの方を振り返って声を上げた。
「早く乗れ! ミーシャ!」
「乗るの!? 大丈夫なの、それ!?」
レイボーンは剣の柄で魔獣の頭をぶん殴って、身を伏せさせると、手を伸ばして、戸惑うミーシャを魔獣の背の上へと引っ張り上げる。
そして、再び魔獣の首筋に剣を突きつけながら、こう指示を出した。
「城壁の向こうまでつれていけ。そうすれば解放してやる」
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※レイの本体が陥っている状況に関しては、本編終了後にSSとして書く予定です。
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