亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市

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第三章 亡霊、竜になる

第二十話 ウサ王&耳だけエルフ WITH 悪霊女、深夜の大暴走! #2

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 曲がってと言われても速度に乗った馬車が、そんなに都合よく曲がれるはずも無い。

 それでも言われるままに、ドナは必死の形相で身体を傾け、力任せに手綱を手繰たぐり寄せた。

 馬車馬は通常より一回り小さなクォーターホースではあるが、それでも体重は五百キロを超える。

 だが、大鎚スレッジハンマーを片手で軽々と振り回すドナの腕力は、尋常ではなかった。

 手綱たずながミチミチと音を立てて、馬は引き倒されそうになりながらも、必死に足をバタつかせて旋回する。

 途端に横向きのベクトルの力が馬車を押し流し、半狂乱の女みたいな悲鳴を上げて、後輪が石畳の上を滑る。

 荷台の鉄枠リムがガリガリと石壁を削って、暗闇に火花が散った。

「やればできるじゃないの!」

 ミーシャが快哉を上げた途端、口元は笑顔のままに、彼女は盛大に頬を引き攣らせた。

 前方で派手な衝突音が響き渡り、馬が跳ね上げた角材が髪をかすめて、後ろへと飛び去って行く。

「あわわわわ……な、なんなのよ!」

 この細い通りには、恐らく朝には市が立つのだろう。

 道の左右に並ぶ畳まれた屋台をなぎ倒しながら、馬車は通りを駆け抜ける。

「何やってんだァ! お前ら!」

「ああ! ウチの屋台が! てめえら許さねえぞ!」

 頭上から唐突に降り注ぐ怒声。見上げれば、周囲の建物から人が顔を覗かせている。

 どうやら街の住人、全員が全員操られているという訳ではなかったらしい。

「ど、どうしよう……もうコレ完全に悪者よ、私達」

 オロオロするミーシャに対して、ここまでくると腹が据わってしまったのか、ドナがやけに冷静に答える。

「形あるものはいつかは壊れます。まさに天罰。これは、唯一絶対なる神を信仰しなかった報いに違いありません」

「そいつ、絶対邪神だわ」

「な!? 耳長みみなが殿、流石にそれは聞き捨てなりませんよ!」

「わー! わー! 分かった! 分かったから! 幾らでも訂正するから前見て! お願い!」

 騒がしい二人を他所よそに、荷台の上では我関せずと、レイが後方へと目を凝らしている。

 角を曲がる直前から、ずっと何者かの視線を感じているのだが、周囲にそれらしき影は見当たらない。何かが追ってくる様子も無い。

 ミーシャが、レイの方を振り返って問いかける。

「ねえ、ウサ王」

 ――なんだ、耳だけエルフ。

「このまま走ってれば、大通りに出るわ。そこからどうするかなんだけど……」

 ――逃げ回っていても疲弊するばかりだ。馬車ごと突っ込んで突破が最善だな。

「……そう言うと思った」

 ミーシャは、大袈裟に肩を竦める。

「あんた、実はかなりの脳筋よね。なんか中央突破ばっかりしてる気がするんだけど?」

 ――まどろっこしいのは好きではない。

 レイの声が聞こえないドナは、蚊帳の外に置かれた様な気でもしているのか、不満げに唇を尖らせる。

「二人だけで話してないで、ワタクシにも教えてくださいよ」

「西門を強行突破するんだって。このウサ王が」

 ドナは一瞬目を丸くした後、意を決する様に口元を引き結ぶ。

「勇者様がそう仰るなら……」

「決まりね。ほら、大通りに出るわよ!」

 大通りにさしかかると、ドナは手綱を巧みに操って西の方角へと旋回する。

 西門までは、目と鼻の先。既に行く手には赤々と燃える篝火かがりびが見えている。

 ミーシャがゴクリと喉をならすと、ドナが背後を振り返って声を上げる。

「勇者様! 本当に良いんですね」

 レイがコクリと頷くのを視界の端に眺めながら、彼女は一際力強く手綱たずなをしならせた。
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