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第三章 亡霊、竜になる
第二十話 ウサ王&耳だけエルフ WITH 悪霊女、深夜の大暴走! #1
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「もっと早く走れないの!!」
「やってますってば! 無茶言わないでください」
ミーシャは背後を振り返って声を荒げ、ドナは手綱をしならせて馬を追い立てる。
速度が上がるにつれて車軸が軋んで、耳障りな音が耳朶を衝き、小石が跳ね飛ばされて、からんからんと石畳を転がる。
やがて、追ってくる男達の姿が遠ざかってしまうと、ミーシャはホッと息を吐いた。
「もう……大丈夫みたいね」
「一体、何が起こってるんです?」
「そんなのこっちが聞きたいわよ。風精霊達が逃げろっていうから逃げただけだもん。……ねえ、レイ。さっきの男の人って、ほんとに只の人間だったの?」
――ああ。
ミーシャは難しい顔をして、考え込むような素振りを見せる。
「じゃあ、何かに操られてたのかも……」
――わからん。が、そうだとすれば、さっきの男には悪い事をした。
レイの声が神妙なニュアンスを帯びると、
「そんなの気にしないの! そうじゃなかったら、アタシがやられてたんだから。アンタはなーんにも悪くない! ね!」
ミーシャは慌てて、わざとらしくも明るい声でそう言った。
――もしかして、気を使ってるのか?
「もしかしてって、何よ! まったく……アンタ、一体私の事どういう目で見てんのよ」
――がさつで、落ち着きがない。
「なんだとぉ!? こんにゃろー! 王様気分で悪霊女の胸にふんぞり返ってるだけのエロウサギの癖に! ウサギの国へ帰れ! このウサ王!」
――ウサ王!? そっちこそ、少しはエルフらしくしたらどうだ? この耳だけエルフ!
「耳だけ!? 言ったわね!」
ジタバタと足を踏み鳴らすミーシャを眺めて、ドナが思わず肩を竦める。
二人の間にどんな会話が交わされているのかは知らないが、どう考えても、碌でもない話に違いない。
「お二人とも、少しは落ち着いてください。で、耳長殿、これからどうします? 普通に考えれば西門を出て、そのままヌーク・アモーズに向かうべきなのでしょうけど……」
「そ、そうね……ちょっと待ってて」
そう言って、ミーシャは静かに目を閉じる。
おそらく、風精霊達の声に耳を傾けているのだろう。
「ダメね。西門も東門もたくさん人が群れ集まってる。私たちを町から出す気は無いみたい。それと……何かヤバいのがいるって。やっぱり操られてるっていうのが正解っぽいわ」
「何かって、何です?」
「わかんないわよ。そんなの」
「では、どこかで馬車を止めますか? 町から出られないというのなら、どこかに隠れて朝を待つのが得策の様に思えますけど……」
「ダメよ。相手がアンデットならともかく、人間じゃ朝になったって状況が変わってる保証なんて無いんだし……」
「言われてみれば、確かにそうですね」
二人の間に沈黙が居座る。
土地勘の乏しい町中を逃げ回ることを思えば、ドナの言うことにも一理有る。
だが、馬車を捨てるという選択肢を選ぶ決断はあまりにも難しい。
それは、見つかっても逃げ切れなくなるという意味でもあるのだ。
ミーシャがとりとめもなく思考を巡らせていると、暗闇の向こう、前方に幾つもの篝火が灯り始めるのが見えた。
篝火の数は見る見る内に増え続け、徐々に群衆の輪郭がはっきりと見えてくる。
「道を塞がれてるわ! 曲がって! 早く!」
「ええっ!? どうなっても知りませんよ、もう!」
「やってますってば! 無茶言わないでください」
ミーシャは背後を振り返って声を荒げ、ドナは手綱をしならせて馬を追い立てる。
速度が上がるにつれて車軸が軋んで、耳障りな音が耳朶を衝き、小石が跳ね飛ばされて、からんからんと石畳を転がる。
やがて、追ってくる男達の姿が遠ざかってしまうと、ミーシャはホッと息を吐いた。
「もう……大丈夫みたいね」
「一体、何が起こってるんです?」
「そんなのこっちが聞きたいわよ。風精霊達が逃げろっていうから逃げただけだもん。……ねえ、レイ。さっきの男の人って、ほんとに只の人間だったの?」
――ああ。
ミーシャは難しい顔をして、考え込むような素振りを見せる。
「じゃあ、何かに操られてたのかも……」
――わからん。が、そうだとすれば、さっきの男には悪い事をした。
レイの声が神妙なニュアンスを帯びると、
「そんなの気にしないの! そうじゃなかったら、アタシがやられてたんだから。アンタはなーんにも悪くない! ね!」
ミーシャは慌てて、わざとらしくも明るい声でそう言った。
――もしかして、気を使ってるのか?
「もしかしてって、何よ! まったく……アンタ、一体私の事どういう目で見てんのよ」
――がさつで、落ち着きがない。
「なんだとぉ!? こんにゃろー! 王様気分で悪霊女の胸にふんぞり返ってるだけのエロウサギの癖に! ウサギの国へ帰れ! このウサ王!」
――ウサ王!? そっちこそ、少しはエルフらしくしたらどうだ? この耳だけエルフ!
「耳だけ!? 言ったわね!」
ジタバタと足を踏み鳴らすミーシャを眺めて、ドナが思わず肩を竦める。
二人の間にどんな会話が交わされているのかは知らないが、どう考えても、碌でもない話に違いない。
「お二人とも、少しは落ち着いてください。で、耳長殿、これからどうします? 普通に考えれば西門を出て、そのままヌーク・アモーズに向かうべきなのでしょうけど……」
「そ、そうね……ちょっと待ってて」
そう言って、ミーシャは静かに目を閉じる。
おそらく、風精霊達の声に耳を傾けているのだろう。
「ダメね。西門も東門もたくさん人が群れ集まってる。私たちを町から出す気は無いみたい。それと……何かヤバいのがいるって。やっぱり操られてるっていうのが正解っぽいわ」
「何かって、何です?」
「わかんないわよ。そんなの」
「では、どこかで馬車を止めますか? 町から出られないというのなら、どこかに隠れて朝を待つのが得策の様に思えますけど……」
「ダメよ。相手がアンデットならともかく、人間じゃ朝になったって状況が変わってる保証なんて無いんだし……」
「言われてみれば、確かにそうですね」
二人の間に沈黙が居座る。
土地勘の乏しい町中を逃げ回ることを思えば、ドナの言うことにも一理有る。
だが、馬車を捨てるという選択肢を選ぶ決断はあまりにも難しい。
それは、見つかっても逃げ切れなくなるという意味でもあるのだ。
ミーシャがとりとめもなく思考を巡らせていると、暗闇の向こう、前方に幾つもの篝火が灯り始めるのが見えた。
篝火の数は見る見る内に増え続け、徐々に群衆の輪郭がはっきりと見えてくる。
「道を塞がれてるわ! 曲がって! 早く!」
「ええっ!? どうなっても知りませんよ、もう!」
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