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第二章 亡霊、勇者のフリをする。

第十二話 アンタたちの勇者 #2

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「悪趣味ぃ……」

 武骨なハノーダー砦の外観からは想像のつかない、白壁に金細工の薔薇ばらをあしらった豪奢ごうしゃな部屋。

 王族の視察の際に使われるその部屋へと通されたミーシャは、思わず頬を引きらせる。

 自然と共に生きるエルフの彼女からしてみれば、ゴテゴテと飾り付けられたこの部屋は、不自然の極みとしか言いようが無い。

 だが、不満げな顔をしながらも、彼女はソファーの上へ、えいやと身を投げる。

「でも、このソファーは悪くなーい」

 そして、横たわれば自然に腰が沈むほどふかふかのソファーの感触に、目尻を下げた。

 ――はしたないぞ、姫。

「次に姫なんて呼んだら、ぶっ飛ばすわよ」

 ミーシャは、ソファーの脇に立ったままのレイを、ギロリと睨みつける。

 だが、レイにつゆほどもひるむ様子はない。

 ――で、どうするのだ?

「何が?」

 ――旅路を急ぐ必要があるのかどうか。すぐにここを出るのかどうかだ。

「そうね……」

 ミーシャは天井を眺めながら、考える素振りを見せる。

「今日はここに泊めて貰って、明日の朝出発ってことにしない? お風呂入りたいし、ひょろひょろに頼めば、馬車ぐらい貸してもらえると思うわ」

 ――ゴディンと言ったか。しかし、ひょろひょろという呼び名は違和感がすごいな。

 むしろ、ガチムチとでもいう方がしっくりと来る。

「あはは。でも、本当に女の子みたいだったのよ、二十年前は。信じてもらえないかもしれないけど」

 ――信じたくない。というのが本音だな。

 フードの奥でレイが眉間にしわを寄せる気配を感じとって、ミーシャは思わず苦笑した。

「で、泊まるってことになると、うっかりアンタの顔を見られたりしたら騒動になっちゃうから、先にバラしちゃうことにするわ」

 ――大丈夫なのか?

「そこは、このミーシャちゃんにおまかせ! ただちょっぴりハッタリをかますから、話を合わせてよね」

 ――心配せずとも、キミ以外の人間とは話が出来ない。

「分かってるわよ。態度よ。態度。私が何を言っても、平然としててくれればそれで良いから」

 そう言いながら、ミーシャが身体を起こすのとほぼ同時に、扉の向こう側から、「姫! 失礼します!」という、ゴディンの鯱張しゃちほこばった声が聞こえた。

 扉が開くと、ゴディンの後について、二人の人物が部屋へと入ってくるのが見えた。

 二人とも、ゆったりとした白の布地に、青い十字を大きくあしらった修道衣姿の女性。

 ――子供?

 二人のうち一人は、年端も行かない子供。

 少なくとも、レイにはそう見えた。

 頭巾ウィンプルの間から覗く栗色の巻き毛に、榛色はしばみいろの真ん丸な瞳。

 黙って座っていれば、陶器人形ビスクドールと見紛う様な、整った顔立ちをしている。

 もう一人はというと、二十歳を少し越えたぐらいだろうか。

 旧家のお嬢様を思わせる、しとやかな雰囲気の女性。

 修道女特有の頭巾ウィンプルは被っておらず、後ろで編み上げた髪が、長く腰の下にまで垂れ下がっているのが見えた。

 ちらりとミーシャの様子をうかがうと、どういうわけか、彼女は苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

「姫は面識がお有りだと思いますが……」

 ゴディンがそこまで言ったところで、ミーシャはそれを遮って、

「何で、アンタがここにいんのよ!」

 と、幼女に指を突きつけた。
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