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第一章 亡霊、大地に立つ

第十話 リバース #2

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 ディアボラ山脈が崩れ落ちて一時間程が過ぎた頃、ハノーダー砦と同じ、山脈の西側。

 雨は少し前に降り止んでいたが、夕暮れ時だというのに空は黄色味を帯びた雲に覆われ、夜さながらに薄暗い。

 山肌を滑り落ちた土砂が、裾野に広がる木々を打ち倒し、森の半ばにまで侵食している。

 その堆積たいせきした土砂の中に、もぞもぞとうごめく物があった。

 ボコッ! という破裂音とともに、唐突に土が大きく盛り上がって、巨大な牙を持つ蚯蚓ミミズが顔を覗かせる。

 溜まった雨水が滴る音が響く、静かな夜の森。

 どこか遠くでホウホウと、ふくろうが鳴いた。

 そんな静かな風景の中で、巨大な蚯蚓ミミズは唐突に、ブルっとその身を震わせると、

 ヴォエェェェェェ!

 っと、起き抜けのおっさんが上げるような汚い音を立てて、何かを吐き出した。

 それは大量の粘液。

 湯気を立てる黄色の液体の中に、幾つか形のある物が見える。

 その中の一つ。

 黄色い粘液にまみれたそれは、大きな背嚢リュックを背負ったエルフの少女であった。

 ――おい、ミーシャ、起きろ。

 頭の中に響いてくるその声に、エルフの少女はまつ毛を震わせて、薄らと目を開く。

「な……に? もう朝なの?」

 寝ぼけまなここすりながら身を起こした途端、

「ひっ!?」

 彼女は目の前のデスワームの姿を目にして、喉の奥に短い悲鳴を詰まらせた。

「い、いや! た、食べたって、お、おいしくないわよ!」

 ミーシャは今にも卒倒しそうな顔で、盛大に目を泳がせながら、後退あとずさろうと、必死に足元の土を蹴る。

 だが、背中の背嚢リュックが邪魔になって、その場でジタバタするばかり。

 ――落ち着け、ミーシャ。私だ。レイだ。

「へ?」

 ミーシャはポカンとした顔で、あらためて目の前のデスワームを見上げる。

 ――賭けみたいなものだったが、山崩れに呑まれる直前に、この蚯蚓みみずの身体を乗っ取った。

「そう……なんだ」

 ――ぶっつけだったが、上手くいって良かった。

「よく身体から身体へ乗り移る方法が分かったわね」

 ――まあ、こいつが死んだ時に、飛び散った火花のデカさと言ったらなかったからな。

 ミーシャは思わず、ホッと胸を撫でおろした。
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