19 / 143
第一章 亡霊、大地に立つ
第六話 一点突破 #2
しおりを挟む
次の瞬間、扉を力一杯蹴破って、二人はそのまま降りしきる雨の中へと飛び出した。
「ぐぎゃあああああああああ!」
「ばかああああああああああ!」
雄叫びを上げたつもりだったのだが、レイの口から飛び出したのは、ゴブリンそのものの奇声。
それに、誰に向けたものとも知れない、ミーシャの絶叫染みた罵倒が重なった意味不明な大音声に、小屋の傍まで近づいてきていたゴブリン達が、ビクリと身体を跳ねさせて後ずさる。
だが、それも一瞬のこと。
飛び出してきたのが、自分達が追って来た裏切り者とエルフだと分かると、ゴブリン達は次々に奇声をあげて、二人の方へと殺到し始めた。
――遅れるな!
「わ、わかってるわよ!」
背後のミーシャの気配に意識を向けながら、レイは遥か遠くに浮かぶ山頂のシルエットを見据える。
向かう方角を確認し終わると、昼なお暗い曇天の空の下、レイはうねる波の様に迫りくるゴブリンの群れへと一気に突っ込んだ。
顔を叩く雨粒に負けじと目を見開き、両手の鉈を振りかぶる。
ぐぎゃあああ!
正面のゴブリンが声を上げた途端に、レイは大上段に振りかぶった鉈を叩きつけ、その頭をかち割る。
そのまま速度を落とさずに、倒れ込むゴブリンの死体を踏みつけにすると、当たるを幸いとばかりに両手の鉈を振り回し、周囲のゴブリンを遠ざけながら、一気に駆け抜けた。
ぐぎゃぐぎゃぎゃぎゃぎゃああ!
死にたくなければ道を開けろ! そう言ったつもりなのだが、無論言葉にはならないし、言葉になったところで、ゴブリンがそれを理解できる訳でもない。
だが、雨でぐちゃぐちゃ、血でぐちゃぐちゃ。
そんな戦場で、言葉は大した意味を持たない。
何を叫ぼうと、生き残った者が強い。
それ以上の意味はないのだ。
レイは行く手を阻むゴブリン達を次々に斬り刻み、勇気と無謀の違いをその身に叩きこむ。
次々と斬り倒されていく仲間の姿に、ゴブリン達が怯む様子を見せると、レイは大振りに鉈を振り回しながら、更に速度を上げた。
――離れるな。死ぬぞ。
「わ、わかってるけどぉ! けどぉ!」
ミーシャにしてみれば、いくらレイに守られているとはいえ、四方八方からゴブリンが殺到してくるこの状況では、生きた心地がしない。
追い縋るゴブリンの爪が、時折、ミーシャの背嚢を掠めて、その度に彼女は「ひぃ」と喉の奥に悲鳴を詰めながら、慌てて足を速める。
小屋を取り囲んでいたゴブリン達の包囲網は、レイたちが突っ込んだ一角に引っ張られる様に歪に歪んで、二人の突っ込んだ場所だけが突起のように膨らんでいる。
包囲されているとは言っても一点に限れば、僅かに五、六匹を踏み越えるだけで、囲みの向こう側へと到達する。
迫りくるレイの姿に恐れをなして背を向けた一匹を、真っ二つにした途端、その向こう側に風景が拓けた。
「ぐぎゃあああああああああ!」
「ばかああああああああああ!」
雄叫びを上げたつもりだったのだが、レイの口から飛び出したのは、ゴブリンそのものの奇声。
それに、誰に向けたものとも知れない、ミーシャの絶叫染みた罵倒が重なった意味不明な大音声に、小屋の傍まで近づいてきていたゴブリン達が、ビクリと身体を跳ねさせて後ずさる。
だが、それも一瞬のこと。
飛び出してきたのが、自分達が追って来た裏切り者とエルフだと分かると、ゴブリン達は次々に奇声をあげて、二人の方へと殺到し始めた。
――遅れるな!
「わ、わかってるわよ!」
背後のミーシャの気配に意識を向けながら、レイは遥か遠くに浮かぶ山頂のシルエットを見据える。
向かう方角を確認し終わると、昼なお暗い曇天の空の下、レイはうねる波の様に迫りくるゴブリンの群れへと一気に突っ込んだ。
顔を叩く雨粒に負けじと目を見開き、両手の鉈を振りかぶる。
ぐぎゃあああ!
正面のゴブリンが声を上げた途端に、レイは大上段に振りかぶった鉈を叩きつけ、その頭をかち割る。
そのまま速度を落とさずに、倒れ込むゴブリンの死体を踏みつけにすると、当たるを幸いとばかりに両手の鉈を振り回し、周囲のゴブリンを遠ざけながら、一気に駆け抜けた。
ぐぎゃぐぎゃぎゃぎゃぎゃああ!
死にたくなければ道を開けろ! そう言ったつもりなのだが、無論言葉にはならないし、言葉になったところで、ゴブリンがそれを理解できる訳でもない。
だが、雨でぐちゃぐちゃ、血でぐちゃぐちゃ。
そんな戦場で、言葉は大した意味を持たない。
何を叫ぼうと、生き残った者が強い。
それ以上の意味はないのだ。
レイは行く手を阻むゴブリン達を次々に斬り刻み、勇気と無謀の違いをその身に叩きこむ。
次々と斬り倒されていく仲間の姿に、ゴブリン達が怯む様子を見せると、レイは大振りに鉈を振り回しながら、更に速度を上げた。
――離れるな。死ぬぞ。
「わ、わかってるけどぉ! けどぉ!」
ミーシャにしてみれば、いくらレイに守られているとはいえ、四方八方からゴブリンが殺到してくるこの状況では、生きた心地がしない。
追い縋るゴブリンの爪が、時折、ミーシャの背嚢を掠めて、その度に彼女は「ひぃ」と喉の奥に悲鳴を詰めながら、慌てて足を速める。
小屋を取り囲んでいたゴブリン達の包囲網は、レイたちが突っ込んだ一角に引っ張られる様に歪に歪んで、二人の突っ込んだ場所だけが突起のように膨らんでいる。
包囲されているとは言っても一点に限れば、僅かに五、六匹を踏み越えるだけで、囲みの向こう側へと到達する。
迫りくるレイの姿に恐れをなして背を向けた一匹を、真っ二つにした途端、その向こう側に風景が拓けた。
0
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる