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第一章 亡霊、大地に立つ

第六話 一点突破 #2

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 次の瞬間、扉を力一杯蹴破って、二人はそのまま降りしきる雨の中へと飛び出した。

「ぐぎゃあああああああああ!」

「ばかああああああああああ!」

 雄叫びを上げたつもりだったのだが、レイの口から飛び出したのは、ゴブリンそのものの奇声。

 それに、誰に向けたものとも知れない、ミーシャの絶叫みた罵倒が重なった意味不明な大音声だいおんじょうに、小屋の傍まで近づいてきていたゴブリン達が、ビクリと身体を跳ねさせて後ずさる。

 だが、それも一瞬のこと。

 飛び出してきたのが、自分達が追って来た裏切り者とエルフだと分かると、ゴブリン達は次々に奇声をあげて、二人の方へと殺到し始めた。

 ――遅れるな! 

「わ、わかってるわよ!」

 背後のミーシャの気配に意識を向けながら、レイは遥か遠くに浮かぶ山頂のシルエットを見据える。

 向かう方角を確認し終わると、昼なお暗い曇天の空の下、レイはうねる波の様に迫りくるゴブリンの群れへと一気に突っ込んだ。

 顔を叩く雨粒に負けじと目を見開き、両手のナタを振りかぶる。

 ぐぎゃあああ!

 正面のゴブリンが声を上げた途端に、レイは大上段に振りかぶったナタを叩きつけ、その頭をかち割る。

 そのまま速度を落とさずに、倒れ込むゴブリンの死体を踏みつけにすると、当たるを幸いとばかりに両手のナタを振り回し、周囲のゴブリンを遠ざけながら、一気に駆け抜けた。

 ぐぎゃぐぎゃぎゃぎゃぎゃああ!

 死にたくなければ道を開けろ! そう言ったつもりなのだが、無論言葉にはならないし、言葉になったところで、ゴブリンがそれを理解できる訳でもない。

 だが、雨でぐちゃぐちゃ、血でぐちゃぐちゃ。

 そんな戦場で、言葉は大した意味を持たない。

 何を叫ぼうと、生き残った者が強い。

 それ以上の意味はないのだ。

 レイは行く手を阻むゴブリン達を次々に斬り刻み、勇気と無謀の違いをその身に叩きこむ。

 次々と斬り倒されていく仲間の姿に、ゴブリン達がひるむ様子を見せると、レイは大振りにナタを振り回しながら、更に速度を上げた。

 ――離れるな。死ぬぞ。

「わ、わかってるけどぉ! けどぉ!」

 ミーシャにしてみれば、いくらレイに守られているとはいえ、四方八方からゴブリンが殺到してくるこの状況では、生きた心地がしない。
 
 追いすがるゴブリンの爪が、時折、ミーシャの背嚢リュックを掠めて、その度に彼女は「ひぃ」と喉の奥に悲鳴を詰めながら、慌てて足を速める。

 小屋を取り囲んでいたゴブリン達の包囲網は、レイたちが突っ込んだ一角に引っ張られる様にいびつゆがんで、二人の突っ込んだ場所だけが突起のように膨らんでいる。

 包囲されているとは言っても一点に限れば、僅かに五、六匹を踏み越えるだけで、囲みの向こう側へと到達する。

 迫りくるレイの姿に恐れをなして背を向けた一匹を、真っ二つにした途端、その向こう側に風景がひらけた。
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