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第一章 亡霊、大地に立つ
第一話 ゴブリンから始める肉体強奪(ボディスナッチ)#5
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亡霊は膝に手をついて立ち上がろうとした途端、思わず足を縺れさせた。
――これは……なかなか厄介だな。
手の長さの違い、足の長さの違い。
生前の彼とは、おそらく何もかもが違うのだろう。
寝転がっている分にはそうでも無かったが、立ち上がろうとすると違和感が凄まじい。
――これは、思う通りに動かせる様になるまで、少々時間がかかりそうだ。
胸の内でそう独りごちて、亡霊はこの身体の主が、生前握っていた得物を拾い上げる。
それは、赤茶けた錆の浮いた鉈。
どこかの農家か、木こりから奪い取ってきた物だろう。
刃も欠けてギザギザ。
人間なら鉄くずとして、すぐにでもゴミの山に放り込むような代物だ。
だが、どんなに身体が動きにくかろうと、どんなに得物がショボかろうと、たかがゴブリンに後れを取る事などない。
――そう、そんな事などありえない。
亡霊は、なぜかそう確信していた。
彼は軽く鉈を振るって手ごたえを確かめると、エルフの少女を威嚇しているゴブリンの集団へと背後から静かに歩み寄る。
そして、今にも彼女に飛び掛かろうとしている一匹の頭上へと、一息に鉈を振り下ろした。
気を刀身に漲らせ、接触する直前に手首をスナップ。
すると、錆びた鉈の刃が、まるでバターにナイフを入れるかのように、ゴブリンの身体を、頭から股下へとすっと通り抜けた。
ぐぎゃぎゃ!?
斬られたゴブリンが、ふざけた子供が発する様な珍妙な声を上げて、硬直する。
周囲のゴブリンが、不思議そうにその一匹の顔を覗き込んだ途端。
そのゴブリンがまるで干物さながらに真っ二つに割れて、噴水の様に緑の血を噴き出した。
「きゃあ!? ちょ、ちょっと!? あんたねぇ!」
飛び散る血しぶきに、エルフの少女が非難めいた声を上げ、ゴブリン達も「ぐぎゃ!?」と声を上げて、一斉に飛び退いた。
――は、はは、ははは……。
彼女の非難の声も耳には届いているが、そんなことはすでにどうでも良かった。
何かを斬る。
その手ごたえの懐かしさに、思わず鼻の奥がつーんと痺れて、目の奥が潤む。
この時彼は、ゴブリンにも涙腺があるという事を初めて知った。
――これは……なかなか厄介だな。
手の長さの違い、足の長さの違い。
生前の彼とは、おそらく何もかもが違うのだろう。
寝転がっている分にはそうでも無かったが、立ち上がろうとすると違和感が凄まじい。
――これは、思う通りに動かせる様になるまで、少々時間がかかりそうだ。
胸の内でそう独りごちて、亡霊はこの身体の主が、生前握っていた得物を拾い上げる。
それは、赤茶けた錆の浮いた鉈。
どこかの農家か、木こりから奪い取ってきた物だろう。
刃も欠けてギザギザ。
人間なら鉄くずとして、すぐにでもゴミの山に放り込むような代物だ。
だが、どんなに身体が動きにくかろうと、どんなに得物がショボかろうと、たかがゴブリンに後れを取る事などない。
――そう、そんな事などありえない。
亡霊は、なぜかそう確信していた。
彼は軽く鉈を振るって手ごたえを確かめると、エルフの少女を威嚇しているゴブリンの集団へと背後から静かに歩み寄る。
そして、今にも彼女に飛び掛かろうとしている一匹の頭上へと、一息に鉈を振り下ろした。
気を刀身に漲らせ、接触する直前に手首をスナップ。
すると、錆びた鉈の刃が、まるでバターにナイフを入れるかのように、ゴブリンの身体を、頭から股下へとすっと通り抜けた。
ぐぎゃぎゃ!?
斬られたゴブリンが、ふざけた子供が発する様な珍妙な声を上げて、硬直する。
周囲のゴブリンが、不思議そうにその一匹の顔を覗き込んだ途端。
そのゴブリンがまるで干物さながらに真っ二つに割れて、噴水の様に緑の血を噴き出した。
「きゃあ!? ちょ、ちょっと!? あんたねぇ!」
飛び散る血しぶきに、エルフの少女が非難めいた声を上げ、ゴブリン達も「ぐぎゃ!?」と声を上げて、一斉に飛び退いた。
――は、はは、ははは……。
彼女の非難の声も耳には届いているが、そんなことはすでにどうでも良かった。
何かを斬る。
その手ごたえの懐かしさに、思わず鼻の奥がつーんと痺れて、目の奥が潤む。
この時彼は、ゴブリンにも涙腺があるという事を初めて知った。
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