想紅(おもいくれない)

笹椰かな

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男の我慢

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 俯いたままの私の頬に、長い指先が触れてきた。そうしてそのまま、肌の上に残っている涙を優しく拭ってくれる。
「大袈裟なもんか。お前は俺にとって特別なんだぞ」
「……うん」
 私は従兄さんにとって特別ーーその事実は嬉しいけど、同じくらい恥ずかしい。私はペンダントの入った箱の蓋を閉めると、それを抱き締めた。
 本当は今すぐ身に付けたかったけど、お母さんに見つかったら「そんは高そうな物を貰って……」って気にされてしまいそうで嫌だったのだ。
「大事にするね」
 私の言葉に従兄さんが頷いた。
 私も従兄さんの誕生日には何か喜ばれそうな物を贈りたいなあ。そう思っていると、従兄さんに頭を撫でられた。
「機嫌は直ったか?」
 デリカシーのない台詞。聞いた途端、思わず頬が膨んでしまった。まったくもう。
「そういうことは口にしない方がいいよ。それに、見ればわかるでしょ?」
「そうだな、悪かった」
 従兄さんはそう返しながら、私の頬にまた触れてくる。反対側の頬にも触れてきて、そのまま顔を包まれた。
 あ、と思った時には顔が近づいてきて、優しく唇を重ねられた。柔らかい。そしてやっぱり、恥ずかしい。
 すぐに唇を離してくれると思っていたのに、わずかな隙間から突然舌がにゅるりと入ってきた。しかもそれはくちゅっと音を立てながら、口の中で動き回り始めてしまう。ディープキスはアソコが濡れちゃうからだめなのに! お願い、やめて!
「んんっ……やぁっ!」
 私が悲鳴を漏らしても、従兄さんは動きを止めてはくれない。熱い舌が生き物のように口内を這い回っていく。
 左手で従兄さんの身体を押して離れようとしたら、片手で腰を掴まれてしまった。逃げられないーーそう思った瞬間、一方的にされているキスがどんどん気持ちよくなってきた。お腹がむずむずして、アソコから粘液がいっぱい出てくる。
「はぁはぁはぁ……」
 私は荒く息を吐き出しながら、従兄さんの舌にめちゃくちゃにされていた。口の中をくすぐられたり、舌を擦られるのが気持ちいいせいで、アソコがずぶ濡れになっている。クリトリスまで少し勃起してきてしまい、もうどうしていいのか分からない。
 身体の力が抜けていくのを感じていると、突然キスが終わった。腰の力が抜けてその場に座り込みそうになった私を従兄さんが支えてくれた。だけどその時、アソコから思い切りくちゅくちゅと音が鳴ってしまった。
「ぐしょぐしょに濡れてるのか?」
 従兄さんが息を荒くしながら訊いてくる。あまりの恥ずかしさに私は泣きそうになった。
「バカ。訊かないで……」
 小さな声で答えると、従兄さんが唾を飲み込む音が聞こえた。やだ。変態、スケベ。そう心の中で罵っていたのも束の間、身体が急に宙に浮いた。従兄さんに抱っこされているのだ。驚いているうちに、私の身体はベッドの上に戻されてしまった。
「えっ!?」
 従兄さんは私の右手からペンダントの入った箱を抜き取った後、それを学習机の上に置いた。
「やだ、何……?」
 不安になりながら従兄さんを顔を見ると、なんだかその瞳はぎらぎらと光っているように感じた。それは気のせいじゃなかったらしく、次の瞬間、従兄さんは最低な言葉を発したのだ。
「椿のパンツの中が見たい」
 信じられない! 私は顔を燃えるように熱くしながら、従兄さんを罵った。
「エッチ! 変態! ドスケベ!」
「どう思われてもいい。少しでいいから見せてくれないか?」
 私の罵倒に顔色を変えることなく、従兄さんが懇願してくる。どうして引き下がってくれないの。
「絶対だめ……。お願いだから、見たがらないで」
 私はスカートを両手で押さえながら言った。だけど従兄さんは往生際が悪かった。
「それは無理だ。俺は頻繁にお前の裸が見たいと思ってる。抱きたいと思ってる。これでも我慢してるんだ」
 また変態と罵りたくなったけど、従兄さんの声が苦しそうなのが気になったのでやめた。
 “……俺の言葉をお前は信用できないかもしれないが、俺はお前の了承もなくセックスをするつもりはない”
 以前、従兄さんから言われた言葉を思い出す。従兄さんは無理矢理私を抱かないと誓ってくれた。でも、本当は私を襲いたくて仕方がないのかもしれない。
「あの……我慢するのって辛いの? 苦しい?」
 私の質問に、従兄さんは頷いた。
「腹が減った状態で目の前に好物が置かれているのに、それを食べてはいけないと言われたら辛いだろう。それと同じだ」
 私は想像した。お腹が空いて仕方がないのに、目の前にあるお蕎麦やくるみゆべしが食べられない状況を。
「……それって辛いね」
「ああ。本当は今すぐ食べたいのを我慢してるんだ」
 その言葉にどきっとした。だってこれって、今すぐ私とセックスしたいって意味だ。途端に今の状況が怖くなってしまう。思わず肩が竦んだ。
「お願い。襲わないで」
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