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お高い指輪
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「そうなんだ……ってこれ、いくらしたの?」
ルビーよりも安いと訊いて、私は油断していた。前回のプレゼントと同じくらいのお値段かと思って訊ねたのに、従兄さんの口から出た金額は「約四万」だった。
「ええっ!?」
思わず声を上げていた。だって仕方がないじゃない。前回のプレゼントの二倍の金額だったんだから。
「従兄さんてば、こんな高い物を私に贈るなんて! お金がもったいないよ!」
「またお前は……もったいなくなんかない。好きな女に贈る指輪なんだから、安いくらいだ。もっと高い物を贈りたかったんだが、高すぎるとお前から突っ返されると思ったからその値段で妥協したんだぞ」
本当に妥協した上でこの指輪を選んだのだろう。従兄さんの声色から、渋々といった感情がにじみ出ている。
「まったくもう。私、アクセサリーに興味がない訳じゃないし、むしろ綺麗だから好きだけど……でも、私は気持ちだけもらえればそれでいい。物なんかもらえなくたって構わないのに」
そう言うと従兄さんは、「お前は欲がなさすぎる」と少し困ったような声を出した。
「そんなことないよ。だって気持ちは欲しいもん」
「そんなもの、いくらだってくれてやる。もう要らないと思うくらい贈ってやる。だからたまには物も贈らせてくれ」
真剣な様子で言われてしまい、渋々だけれどうなずいた。
でも本人がいいって言ってるのに、物を贈りたいという従兄さんのことが少し心配になってしまう。だってホストに貢いじゃう女の人みたいで。そんなこと言ったら怒られそうだから、口に出す気はないけれど。
それから少し経ったあと。本家のみんなに突然外に出たことを謝罪し、帰る前の挨拶をしてから徒歩で家に帰ろうとした。そうしたら、従兄さんが車で家まで送ってくれた。
家に入る前になってから、やっと従兄さんに指輪のお礼を伝えることができた。なんだかすごく気恥ずかしくて、その時まで「ありがとう」を言えなかったのだ。
小さな声だったけれどそれはちゃんと伝わったみたいで、従兄さんは優しく笑った。あまり見られる機会のないその顔にどきどきしながら、私は熱を帯びた頬を隠すように慌てて玄関のドアを開けて中に入った。
お母さんに見られたら怒られるかな。「こんなに高い物、うちの娘にはまだ早いです」って従兄さんに返しちゃうかも。そう思った私は、指輪をもらったことを隠そうと考えた。だけど時々は指にはめていたいし……。
私は夕食後、ダメ元でお母さんに、従兄さんから誕生日プレゼントとして指輪をもらったことを話した。現物も見せた。
そうしたらお母さんは、「まあ、素敵な指輪ね。大事にしなさいね」と笑顔を浮かべた。肩の力がすーっと抜けていく。
「返しましょうって言われるかと思った」
「何を? まさか指輪を?」
うなずくと、お母さんは身体を逸らしながら大きな声を出して笑った。そのまま椅子ごとひっくり返ってしまうんじゃないかと心配になる。……杞憂に終わったけれど。
「言うわけないじゃない。猛くんがまだ学生だったら、そういうふうに考えたかもしれないけど」
「そういうものなの?」
「家庭によって違うでしょうけどね。学生のうちから好きな人のために高い物を贈ってしまったら、もっともっと喜んでもらうためにエスカレートしちゃって、無理をしすぎてしまうかもしれないから」
「要は、どんどん貢いじゃうかもしれなくて心配ってことだよね?」
またお母さんが笑った。それも、さっきよりもおかしそうに笑っている。私はまた、お母さんが椅子ごとひっくり返らないか心配になった。やっぱり杞憂に終わったけれど。
「そうね。猛くんは椿のことが大好きみたいだから、実際にそうならないとは限らなかったかもね」
「だ、大好きかどうかは置いといて! それなら学生か社会人かは関係なくない?」
私が質問すると、お母さんはテーブルの上の湯のみを掴んでお茶を一杯飲んでから、急に真面目な声を出した。
「そんなことないわよ。学生なのか社会人なのかはとっても大事なことよ」
ルビーよりも安いと訊いて、私は油断していた。前回のプレゼントと同じくらいのお値段かと思って訊ねたのに、従兄さんの口から出た金額は「約四万」だった。
「ええっ!?」
思わず声を上げていた。だって仕方がないじゃない。前回のプレゼントの二倍の金額だったんだから。
「従兄さんてば、こんな高い物を私に贈るなんて! お金がもったいないよ!」
「またお前は……もったいなくなんかない。好きな女に贈る指輪なんだから、安いくらいだ。もっと高い物を贈りたかったんだが、高すぎるとお前から突っ返されると思ったからその値段で妥協したんだぞ」
本当に妥協した上でこの指輪を選んだのだろう。従兄さんの声色から、渋々といった感情がにじみ出ている。
「まったくもう。私、アクセサリーに興味がない訳じゃないし、むしろ綺麗だから好きだけど……でも、私は気持ちだけもらえればそれでいい。物なんかもらえなくたって構わないのに」
そう言うと従兄さんは、「お前は欲がなさすぎる」と少し困ったような声を出した。
「そんなことないよ。だって気持ちは欲しいもん」
「そんなもの、いくらだってくれてやる。もう要らないと思うくらい贈ってやる。だからたまには物も贈らせてくれ」
真剣な様子で言われてしまい、渋々だけれどうなずいた。
でも本人がいいって言ってるのに、物を贈りたいという従兄さんのことが少し心配になってしまう。だってホストに貢いじゃう女の人みたいで。そんなこと言ったら怒られそうだから、口に出す気はないけれど。
それから少し経ったあと。本家のみんなに突然外に出たことを謝罪し、帰る前の挨拶をしてから徒歩で家に帰ろうとした。そうしたら、従兄さんが車で家まで送ってくれた。
家に入る前になってから、やっと従兄さんに指輪のお礼を伝えることができた。なんだかすごく気恥ずかしくて、その時まで「ありがとう」を言えなかったのだ。
小さな声だったけれどそれはちゃんと伝わったみたいで、従兄さんは優しく笑った。あまり見られる機会のないその顔にどきどきしながら、私は熱を帯びた頬を隠すように慌てて玄関のドアを開けて中に入った。
お母さんに見られたら怒られるかな。「こんなに高い物、うちの娘にはまだ早いです」って従兄さんに返しちゃうかも。そう思った私は、指輪をもらったことを隠そうと考えた。だけど時々は指にはめていたいし……。
私は夕食後、ダメ元でお母さんに、従兄さんから誕生日プレゼントとして指輪をもらったことを話した。現物も見せた。
そうしたらお母さんは、「まあ、素敵な指輪ね。大事にしなさいね」と笑顔を浮かべた。肩の力がすーっと抜けていく。
「返しましょうって言われるかと思った」
「何を? まさか指輪を?」
うなずくと、お母さんは身体を逸らしながら大きな声を出して笑った。そのまま椅子ごとひっくり返ってしまうんじゃないかと心配になる。……杞憂に終わったけれど。
「言うわけないじゃない。猛くんがまだ学生だったら、そういうふうに考えたかもしれないけど」
「そういうものなの?」
「家庭によって違うでしょうけどね。学生のうちから好きな人のために高い物を贈ってしまったら、もっともっと喜んでもらうためにエスカレートしちゃって、無理をしすぎてしまうかもしれないから」
「要は、どんどん貢いじゃうかもしれなくて心配ってことだよね?」
またお母さんが笑った。それも、さっきよりもおかしそうに笑っている。私はまた、お母さんが椅子ごとひっくり返らないか心配になった。やっぱり杞憂に終わったけれど。
「そうね。猛くんは椿のことが大好きみたいだから、実際にそうならないとは限らなかったかもね」
「だ、大好きかどうかは置いといて! それなら学生か社会人かは関係なくない?」
私が質問すると、お母さんはテーブルの上の湯のみを掴んでお茶を一杯飲んでから、急に真面目な声を出した。
「そんなことないわよ。学生なのか社会人なのかはとっても大事なことよ」
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