想紅(おもいくれない)

笹椰かな

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紅い宝石の付いた――

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 頬に感じた柔らかさと冷たさを今度は唇で感じてしまい、頬が夏の太陽に照らされているみたいに熱くなっていく。

 お屋敷の中にいる誰かに見られたら――そう考えた瞬間怖くなって、衝動的に従兄さんの身体をお尻でえいっと突き飛ばした。
 だけど、従兄さんはビクともせずに私の背後にいた。お尻が硬い身体にぶつかった感触は確かにあったのに。

「こら、尻でタックルしてくるな」

 唇を離した従兄さんが耳元で囁く。低い声と吐息のせいで背筋がゾクッとして、思わず身体が小さく震えた。

「か、勝手にキスするからでしょっ」
「今日のお前は一段と可愛いから、何度だってキスしたくなる」

 そう言いながら従兄さんは、私のお腹に両腕を回してきた。そのまま頭のてっぺんにキスをされる。

「こんな所でベタベタされたら恥ずかしいってば」
「なら、俺の部屋に行くか?」

 囁いた唇が右耳に触れてきた。くすぐったくて変な声が出てしまう。

「やぅっ! 耳はやだっ……それに、部屋にも行かないっ」
「どうして」
「だって、従兄さんの部屋なんかに行ったら絶対にいやらしいことされるもん」

 実際、前にされたし。

「したら駄目なのか」

 悪びれもせずに言われた……信じられない!
 腹が立ってしまい、お腹の上にある手の甲をキュッとつねっると、従兄さんが痛そうにうめいた。

「うっ」
「ダメに決まってるでしょ! 家にはお祖父様たちがいるのに」
「そうか」

 その声は心なしか萎んでいる。もうっ!

「まだ受験だって終わってないのに。従兄さんのバカ、スケベ、変態、自己中」
「そこまで言わなくてもいいだろう」
「言う」

 ――だって今、従兄さんにエッチなことなんてされたらきっと勉強に集中できなくなっちゃう。私だって本当は……ああもう、人の気も知らないで。
 私は唇を噛み締めて、もう一度従兄さんの手の甲をつねった。

「うっ……椿、地味に痛いからやめてくれ」
「痛くて結構。従兄さんはこれくらいしないと分かってくれないでしょ」

 手の甲から指を放せば、背後で従兄さんがホッと息をつく気配がした。さらにはもう片方の手でつねられた手の甲をさすり始める。

「え、そんなに痛かったの?」
「ああ」

 視線を下に移してよく見てみると、つねった部分が赤くなっていた。少し罪悪感が湧いてきて、私は赤く染まっているそこを従兄さんの指を押し退けて優しく撫でてあげた。

「痛くしすぎて、ごめんね」
「謝るな。お前は少し優しすぎる」

 少し心配ぎみに言ってから、従兄さんは手の甲を撫でていた私の右手を捕まえて、その大きな手のひらで包み込んだ。あったかい。

「私、別に優しくないよ」
「十分優しいと思うが」
「そうかなぁ。本当に優しいなら手をつねったりしないよ」

 それを聞いた従兄さんが笑う気配がした。

「椿、左手を広げてくれないか」
「手?」

 唐突な注文に戸惑いながらも、言われた通りに左手をぱっと広げる。なんだろう?
 首を傾げていたら、手の甲を上にしてほしいと乞われた。とりあえず言う通りにしてみる。すると、従兄さんがゴソゴソと自分の懐に手を突っ込んでから私の左手を掴んだ。さらにはもう一方の手が――

「えっ!?」

 大きな手で摘むように持った指輪を薬指にくぐらせ始めたのだ。私は慌てながら、子供のキリンが親キリンを見上げる時みたいに首を思い切り上向かせて真上にある彼氏の顔を見た。

「ちょ、ちょっとこれ……」
「誕生日プレゼントだ」
「それはもう去年の八月に貰ったよ!?」
「また改めて誕生日に贈ると言ったはずだぞ」
「もう……またこんな高そうな物……無駄遣いだよ」
「気に入らなかったか?」
「そんな訳ないじゃない」

 嬉しさと驚きが混ざって頭の中がぐるぐるしている中、首を下に向けて左手の薬指をじっと見る。従兄さんの懐に入っていたせいか、ほのかに温かい銀色の輪っか。中心にはルビーのような真っ赤で綺麗な宝石が付いている。

 ……まさか本当にルビー!? おっかなびっくりしながら訊ねれば、「違う、ガーネットという石だ。基本的にルビーよりも安い」と返されて思わずホッと息を吐いてしまう。
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