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恥ずかしくて逃げ出した
しおりを挟む「私からすると、その我慢を受験が終わっても続けてくれたらありがたいんだけど」
だって、受験が終わったって三月三十一日まで私は中学生なんだから。
未成年のカノジョからのお願いに、従兄さんあからさまに難しい顔をして黙ってしまった。……もう、従兄さんのスケベ!
……私だって色々と我慢してるんだから、とは言えなかった。
だって口から出してしまったら、お互いに蓋をしているものが溢れ出してしまう気がしたから。
その後。従兄さんは適当に車を走らせて、コンビニ以外に開いているお店がないかを確かめてくれた。だけど結局、他に開いているお店を見つけることはできなかった。
「ごめんね。私のせいで余計に運転させちゃって」
申し訳なさがこみ上げてきて思わず謝った。でも従兄さんは、
「こんなのは些細なことだ。謝る必要なんかない」
と言ってくれた。
それから私たちはコンビニに寄って、お土産――イカの燻製、おせんべい、お酒、大福、クッキー等など――を買ってから本家へと帰った。
従兄さんが言っていた通り、本家の人たちはお土産として渡されたコンビニで買った食べ物を見てもガッカリしたり怒ったりなんてしなかった。
それどころか、私たちが正月の真っ只中だというのにデートに出かけたことを家族の誰ひとりとして不思議がらなかったことが相当おかしかったらしく、
「わはははは! 家族全員もうろくしたか!?」
「わ、私たち、お正月だからって……ぼんやりしすぎだわっ」
「あはは! 本当にねぇ。どうして誰も気付かなかったんだろう」
全員で爆笑し始めた。居間が明るい笑い声に包まれる。
「しかし、猛。一番気を付けなくてはならなかったのはお前だぞ。男なら女につまらん思いをさせるな」
笑うことに飽きたらしいお祖父様が従兄さんを叱り出した。と言っても、その口調は優しい。
とはいえ、従兄さんが叱られていることに変わりはない。私は慌てて身を乗り出しながら口を開いた。
「お祖父様! 気を付けなければなからなかったのは私も同じです。男だとか女だとか関係ありません。だってふたりで出かけたんですから、ふたりの問題です。それに私、今日は従兄さんと出かけてつまらなくなんてありませんでした」
「ほう」
お祖父様が白髪混じりの眉をひょいと上げる。
その時にやっと、ハッとした。少し出しゃばりすぎたかもしれない。今度は私が叱られるかも。
そう思ったけど、でも、何も悪くない従兄さんが叱られているのを黙って見ているなんてできない。
緊張する私を見ながら、お祖父様はうんうんと唸りながら頷き出した。これから何を言われるのかと身構えていると、
「椿は猛のことが本当に好きなんじゃなあ。去年、この家に呼び出して猛と婚約しろと告げた日に泣いていたのが嘘のようじゃ」
しみじみと言われた。
「え!?」
伯父様と伯母様――それに猛従兄さんもいるのに、お祖父様ったらなんてこと言うの!?
カーッと顔が熱くなっていくのを感じる。思わず視線をさ迷わせたら、従兄さんと目が合ってしまった。
深いこげ茶色をした細い瞳。鋭利なそれらがまっすぐに私を見つめている。まるで心の中まで見透かすように――
「あ……」
恥ずかしい!!
顔が限界まで熱くなったと同時にその場に留まっていられなくなって、私は慌てて座布団の上から立ち上がった。そのまま居間を早足で出ていく。
「椿?」
「椿ちゃん?」
従兄さんの声と伯母様の声が聞こえたけれど、私は足を止めなかった。だってみんながいる前で従兄さんのことが本当に好きなんだな、なんて言われて、笑顔で「はいそうです」なんて返せない。
しかも、あの日泣いたことまで持ち出すなんて。
「お祖父様ってば、私に恥をかかせるためにわざとやってるんじゃないの!?」
文句を言いながら、誰にも追いかけられたくなくて急いで靴を履いて外に出た。
寒い! でも庭に出て散歩をして、少し気分を落ち着かせたい。
そう思って駆け出そうとした時、玄関の引き戸が開く音がした。
だって、受験が終わったって三月三十一日まで私は中学生なんだから。
未成年のカノジョからのお願いに、従兄さんあからさまに難しい顔をして黙ってしまった。……もう、従兄さんのスケベ!
……私だって色々と我慢してるんだから、とは言えなかった。
だって口から出してしまったら、お互いに蓋をしているものが溢れ出してしまう気がしたから。
その後。従兄さんは適当に車を走らせて、コンビニ以外に開いているお店がないかを確かめてくれた。だけど結局、他に開いているお店を見つけることはできなかった。
「ごめんね。私のせいで余計に運転させちゃって」
申し訳なさがこみ上げてきて思わず謝った。でも従兄さんは、
「こんなのは些細なことだ。謝る必要なんかない」
と言ってくれた。
それから私たちはコンビニに寄って、お土産――イカの燻製、おせんべい、お酒、大福、クッキー等など――を買ってから本家へと帰った。
従兄さんが言っていた通り、本家の人たちはお土産として渡されたコンビニで買った食べ物を見てもガッカリしたり怒ったりなんてしなかった。
それどころか、私たちが正月の真っ只中だというのにデートに出かけたことを家族の誰ひとりとして不思議がらなかったことが相当おかしかったらしく、
「わはははは! 家族全員もうろくしたか!?」
「わ、私たち、お正月だからって……ぼんやりしすぎだわっ」
「あはは! 本当にねぇ。どうして誰も気付かなかったんだろう」
全員で爆笑し始めた。居間が明るい笑い声に包まれる。
「しかし、猛。一番気を付けなくてはならなかったのはお前だぞ。男なら女につまらん思いをさせるな」
笑うことに飽きたらしいお祖父様が従兄さんを叱り出した。と言っても、その口調は優しい。
とはいえ、従兄さんが叱られていることに変わりはない。私は慌てて身を乗り出しながら口を開いた。
「お祖父様! 気を付けなければなからなかったのは私も同じです。男だとか女だとか関係ありません。だってふたりで出かけたんですから、ふたりの問題です。それに私、今日は従兄さんと出かけてつまらなくなんてありませんでした」
「ほう」
お祖父様が白髪混じりの眉をひょいと上げる。
その時にやっと、ハッとした。少し出しゃばりすぎたかもしれない。今度は私が叱られるかも。
そう思ったけど、でも、何も悪くない従兄さんが叱られているのを黙って見ているなんてできない。
緊張する私を見ながら、お祖父様はうんうんと唸りながら頷き出した。これから何を言われるのかと身構えていると、
「椿は猛のことが本当に好きなんじゃなあ。去年、この家に呼び出して猛と婚約しろと告げた日に泣いていたのが嘘のようじゃ」
しみじみと言われた。
「え!?」
伯父様と伯母様――それに猛従兄さんもいるのに、お祖父様ったらなんてこと言うの!?
カーッと顔が熱くなっていくのを感じる。思わず視線をさ迷わせたら、従兄さんと目が合ってしまった。
深いこげ茶色をした細い瞳。鋭利なそれらがまっすぐに私を見つめている。まるで心の中まで見透かすように――
「あ……」
恥ずかしい!!
顔が限界まで熱くなったと同時にその場に留まっていられなくなって、私は慌てて座布団の上から立ち上がった。そのまま居間を早足で出ていく。
「椿?」
「椿ちゃん?」
従兄さんの声と伯母様の声が聞こえたけれど、私は足を止めなかった。だってみんながいる前で従兄さんのことが本当に好きなんだな、なんて言われて、笑顔で「はいそうです」なんて返せない。
しかも、あの日泣いたことまで持ち出すなんて。
「お祖父様ってば、私に恥をかかせるためにわざとやってるんじゃないの!?」
文句を言いながら、誰にも追いかけられたくなくて急いで靴を履いて外に出た。
寒い! でも庭に出て散歩をして、少し気分を落ち着かせたい。
そう思って駆け出そうとした時、玄関の引き戸が開く音がした。
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