58 / 63
自覚と我慢
しおりを挟む「肝に銘じておく」
そうは言いながらも、従兄さんの口元には笑みが浮かんでいた。
もう、余裕そうにしちゃって……悔しい!
私の両頬がますます膨れ上がる。
「本当に嫌いになりそうっ」
「お前……時々、そうやってかんしゃくを起こすな」
従兄さんが少し戸惑っているような声を出した。凛々しい眉毛が下がっている。
「かんしゃくなんて起こしてないもん」
「椿の少し怒りっぽいところはお祖父様似かもしれないな」
「一緒に住んでないのに似るわけないじゃない」
「遺伝というやつだ」
「遺伝~? なんか胡散臭い」
不機嫌を隠しもせずに口をとがらせながら言ったら、従兄さんが突然笑い出した。笑いのツボを刺激してしまったらしい。
「はは。そうか、胡散臭いか」
「そうだよ。だって普通、性格ってそばにいる人の影響を受けるものじゃない?」
「たしかに周囲の人間の影響というのも無関係ではないと思うが、俺は持って生まれた性質というのも馬鹿に出来ないと思うぞ」
「そういうものなのかなぁ。だとしたら、猛従兄さんは生まれつきエッチだってことになっちゃうよ?」
意地悪で言った訳じゃなかったその言葉を聞いた途端、従兄さんの表情が固くなった。なんとも言えない表情が浮かんでいる。
「……俺はお前から見て、そんなにいやらしいか?」
「誰が見たって、中学生にいやらしいことをする成人男性はいやらしいと思うけど。人に知れたら色々まずいよ」
「そうだな……たしかにそうだ」
「そうだよ。今さら気が付いたの?」
少し呆れながら問うと、「でも俺は、お前が好きだから。好きな相手に欲情しない方がおかしい」そんな返事が返ってきた。
開き直ってない?
「でも私、まだ中学生なんだよ?」
「何度も言わなくても分かってる。……もしかして椿は、今まで俺がしてきたことを恨んでるのか?」
真剣な声で問われた。もしかしたら、私から遠回しに責められていると解釈したのかもしれない。
私は太ももの上に置いた右手と左手の指を交差させながら、少しだけ俯いた。
「そうじゃないけど……でも……」
「でも?」
「自覚は持っていてほしいの。私はまだ未成年で、私にその……手を出すってことは……」
「犯罪だと?」
全て言い終える前に従兄さんの方から言われた。
「う、うん」
ためらいながらも頷く。でもそれが真実だ。この国に住んでいる以上、無視はできない。
従兄さんはハンドルを切りながら少し難しい顔をした後、真面目な声音でこう訊ねてきた。
「それは牽制か?」
「牽制?」
『牽制』という言葉は知っているけれど、質問の意味がすぐには理解できなくて思わず聞き返していた。
「『成人するまで私に触るな』……そういう意味かと訊いているんだ」
道路の前方にある信号機が黄色に変わり、ゆるやかに車が減速し始めた。直後に黄色の電灯は消えて赤色の電灯が光り始める。
信号の前には一台も他の車は止まっておらず、従兄さんの車が先頭に止まった。
下に向けていた顔を上げると、従兄さんがこっちを見ていた。少し寂しそうな顔をして、けれど瞳は真剣な光を宿して、私を見ていた。
視線が絡んだ瞬間、その鋭い焦げ茶色の瞳から目を逸らせなくなっていた。思わず胸の中心を両手でぎゅっと押さえる。鼓動が勝手に早くなっていた。
「違うよ。違うけど……なんのためらいもなく……その、エッチなことをするのは大人としてどうなのかなって」
「ちゃんと悪事を働いている自覚を持て。そう言いたいのか?」
「そういうことに……なるのかな。そうじゃないと、だって、他に人がいる場所でも気がゆるんじゃうことがあるかもしれないでしょ」
信号を見るために、従兄さんの視線が私から離れていく。
その後に従兄さんは、
「これでも我慢してるんだが。特に、今日も含めた受験期間中は気を遣っているつもりだ」
困ったような顔をして、車をゆるやかに発進させた。
信号はいつの間にか青に変わっていた。
そうは言いながらも、従兄さんの口元には笑みが浮かんでいた。
もう、余裕そうにしちゃって……悔しい!
私の両頬がますます膨れ上がる。
「本当に嫌いになりそうっ」
「お前……時々、そうやってかんしゃくを起こすな」
従兄さんが少し戸惑っているような声を出した。凛々しい眉毛が下がっている。
「かんしゃくなんて起こしてないもん」
「椿の少し怒りっぽいところはお祖父様似かもしれないな」
「一緒に住んでないのに似るわけないじゃない」
「遺伝というやつだ」
「遺伝~? なんか胡散臭い」
不機嫌を隠しもせずに口をとがらせながら言ったら、従兄さんが突然笑い出した。笑いのツボを刺激してしまったらしい。
「はは。そうか、胡散臭いか」
「そうだよ。だって普通、性格ってそばにいる人の影響を受けるものじゃない?」
「たしかに周囲の人間の影響というのも無関係ではないと思うが、俺は持って生まれた性質というのも馬鹿に出来ないと思うぞ」
「そういうものなのかなぁ。だとしたら、猛従兄さんは生まれつきエッチだってことになっちゃうよ?」
意地悪で言った訳じゃなかったその言葉を聞いた途端、従兄さんの表情が固くなった。なんとも言えない表情が浮かんでいる。
「……俺はお前から見て、そんなにいやらしいか?」
「誰が見たって、中学生にいやらしいことをする成人男性はいやらしいと思うけど。人に知れたら色々まずいよ」
「そうだな……たしかにそうだ」
「そうだよ。今さら気が付いたの?」
少し呆れながら問うと、「でも俺は、お前が好きだから。好きな相手に欲情しない方がおかしい」そんな返事が返ってきた。
開き直ってない?
「でも私、まだ中学生なんだよ?」
「何度も言わなくても分かってる。……もしかして椿は、今まで俺がしてきたことを恨んでるのか?」
真剣な声で問われた。もしかしたら、私から遠回しに責められていると解釈したのかもしれない。
私は太ももの上に置いた右手と左手の指を交差させながら、少しだけ俯いた。
「そうじゃないけど……でも……」
「でも?」
「自覚は持っていてほしいの。私はまだ未成年で、私にその……手を出すってことは……」
「犯罪だと?」
全て言い終える前に従兄さんの方から言われた。
「う、うん」
ためらいながらも頷く。でもそれが真実だ。この国に住んでいる以上、無視はできない。
従兄さんはハンドルを切りながら少し難しい顔をした後、真面目な声音でこう訊ねてきた。
「それは牽制か?」
「牽制?」
『牽制』という言葉は知っているけれど、質問の意味がすぐには理解できなくて思わず聞き返していた。
「『成人するまで私に触るな』……そういう意味かと訊いているんだ」
道路の前方にある信号機が黄色に変わり、ゆるやかに車が減速し始めた。直後に黄色の電灯は消えて赤色の電灯が光り始める。
信号の前には一台も他の車は止まっておらず、従兄さんの車が先頭に止まった。
下に向けていた顔を上げると、従兄さんがこっちを見ていた。少し寂しそうな顔をして、けれど瞳は真剣な光を宿して、私を見ていた。
視線が絡んだ瞬間、その鋭い焦げ茶色の瞳から目を逸らせなくなっていた。思わず胸の中心を両手でぎゅっと押さえる。鼓動が勝手に早くなっていた。
「違うよ。違うけど……なんのためらいもなく……その、エッチなことをするのは大人としてどうなのかなって」
「ちゃんと悪事を働いている自覚を持て。そう言いたいのか?」
「そういうことに……なるのかな。そうじゃないと、だって、他に人がいる場所でも気がゆるんじゃうことがあるかもしれないでしょ」
信号を見るために、従兄さんの視線が私から離れていく。
その後に従兄さんは、
「これでも我慢してるんだが。特に、今日も含めた受験期間中は気を遣っているつもりだ」
困ったような顔をして、車をゆるやかに発進させた。
信号はいつの間にか青に変わっていた。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる