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ぬくもりに包まれて
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からかうでもなくそう言われて、私は素直にうなずいた。従兄さんのこういうところが優しいなと思うし、好きだとも思う。
「うん、繋ぐ……繋ぎたい」
すっと右手を差し出すと、従兄さんはすぐに左手で包んでくれた。
皮の手袋越しに伝わってくる、長くて硬い指の感触。そしてぬくもり。従兄さんの体温がじわじわと伝わってくる。
途端にほっとしてしまい、大きく息を吐き出した。それを見た従兄さんが真顔で訊いてくる。
「そんなに怖かったのか?」
「怖かった。私、ホラー映画とか苦手だし。テレビでやってた『エクソシスト』を怖いもの見たさで観ちゃって後悔したことがあるもん。……でも、今は従兄さんが手を繋いでくれているから全然怖くないよ」
話しながら、自然と頬が緩む。
実際、従兄さんのおかげで背筋が寒くなるような恐怖心はなくなっていた。それどころか、今はひどく安心してる。ただ手を繋いでいるだけなのに。こんなのまるで――
「魔法みたい」
思わず思考が口から飛び出してしまっていた。
ハッとして従兄さんの顔を見上げると、従兄さんは「何が魔法みたいなんだ?」――そう言って眉を上げた。
……は、恥ずかしい!
「その、手を繋いでもらっただけで怖くなくなるなんて……ま、魔法みたいだなって……思っちゃって……」
恥ずかしさに耐えきれなくなりながら、ぼそぼそと説明する。従兄さんの顔を見ていられなくて俯いた。
……絶対、笑われる。もしくは小さな子供みたいだと思われて呆れられるかも。
そう思った瞬間、右手を包んでくれていた大きな左手がパッと離れていった。ぬくもりが消える。
――やっぱり呆れられたんだ。
そう思って寂しくなった瞬間、目に映っていた景色がガラリと変わった。
「えっ?」
思わず目を大きく開く。すぐ目の前には従兄さんが着ているコート……の一部。そして、身体全部を包む暖かさ。それを認識してやっと今、従兄さんに抱き締められているのだと気が付いた。
とっさのことに反応できないでいると、頭上から声がした。
「本当に可愛いな、お前は」
「か、可愛いって……子供っぽいから可愛いって意味?」
実際に私はまだ子供だし、小さい子が言うような言葉を口走ったという自覚もある。だけど、従兄さんは私の質問を即座に否定した。
「そんな訳あるか。女として可愛い、そういう意味に決まってるだろう」
少し不満そうな声が降ってくる。
――女として可愛い。心の中で反芻したら、顔だけじゃなく、胸の奥まで熱を帯びてしまった。
「でも……子供っぽいとか、やっぱりまだ子供なんだなとか思わないの? 私、自分で言っておきながらそう思ったのに」
熱い頬を従兄さんの胸に預けながら問う。
「少しも思わない。むしろ嬉しいんだ。俺と手を繋いだだけで笑ってくれるのも、怖さが消えたことを魔法みたいだと喜んでくれるのも、この世界で椿だけだから」
「そんなことないと思うけど……だって――」
従兄さんは自分で意識していないだけで、格好良くて優しいもん。そう口にしようとしたら、身体を抱き締めている腕の力が強くなって、言葉を飲み込んでしまった。
――冬なのに、外なのに、なんて暖かいんだろう。
目を閉じて、思わず従兄さんの着ているコートを両手でぎゅっと握り締めた。
それをどう解釈したのか、従兄さんは私の左頬を片手で掬うように持ち上げると、顔を近付けてきた。
びっくりしながらも反射的に強く目を瞑る。
たぶんこのままキスされちゃう。そう考えて心臓が強く跳ねた後、唇に柔らかくて少し冷たいものが触れた。従兄さんの唇だ。
そのまま何度かついばむようなキスをされて、まるで火を吹いているみたいに顔中が熱くなった。
すごく恥ずかしい。でも、感じてるのはそれだけじゃない。――嬉しい。気持ちいい。
「うん、繋ぐ……繋ぎたい」
すっと右手を差し出すと、従兄さんはすぐに左手で包んでくれた。
皮の手袋越しに伝わってくる、長くて硬い指の感触。そしてぬくもり。従兄さんの体温がじわじわと伝わってくる。
途端にほっとしてしまい、大きく息を吐き出した。それを見た従兄さんが真顔で訊いてくる。
「そんなに怖かったのか?」
「怖かった。私、ホラー映画とか苦手だし。テレビでやってた『エクソシスト』を怖いもの見たさで観ちゃって後悔したことがあるもん。……でも、今は従兄さんが手を繋いでくれているから全然怖くないよ」
話しながら、自然と頬が緩む。
実際、従兄さんのおかげで背筋が寒くなるような恐怖心はなくなっていた。それどころか、今はひどく安心してる。ただ手を繋いでいるだけなのに。こんなのまるで――
「魔法みたい」
思わず思考が口から飛び出してしまっていた。
ハッとして従兄さんの顔を見上げると、従兄さんは「何が魔法みたいなんだ?」――そう言って眉を上げた。
……は、恥ずかしい!
「その、手を繋いでもらっただけで怖くなくなるなんて……ま、魔法みたいだなって……思っちゃって……」
恥ずかしさに耐えきれなくなりながら、ぼそぼそと説明する。従兄さんの顔を見ていられなくて俯いた。
……絶対、笑われる。もしくは小さな子供みたいだと思われて呆れられるかも。
そう思った瞬間、右手を包んでくれていた大きな左手がパッと離れていった。ぬくもりが消える。
――やっぱり呆れられたんだ。
そう思って寂しくなった瞬間、目に映っていた景色がガラリと変わった。
「えっ?」
思わず目を大きく開く。すぐ目の前には従兄さんが着ているコート……の一部。そして、身体全部を包む暖かさ。それを認識してやっと今、従兄さんに抱き締められているのだと気が付いた。
とっさのことに反応できないでいると、頭上から声がした。
「本当に可愛いな、お前は」
「か、可愛いって……子供っぽいから可愛いって意味?」
実際に私はまだ子供だし、小さい子が言うような言葉を口走ったという自覚もある。だけど、従兄さんは私の質問を即座に否定した。
「そんな訳あるか。女として可愛い、そういう意味に決まってるだろう」
少し不満そうな声が降ってくる。
――女として可愛い。心の中で反芻したら、顔だけじゃなく、胸の奥まで熱を帯びてしまった。
「でも……子供っぽいとか、やっぱりまだ子供なんだなとか思わないの? 私、自分で言っておきながらそう思ったのに」
熱い頬を従兄さんの胸に預けながら問う。
「少しも思わない。むしろ嬉しいんだ。俺と手を繋いだだけで笑ってくれるのも、怖さが消えたことを魔法みたいだと喜んでくれるのも、この世界で椿だけだから」
「そんなことないと思うけど……だって――」
従兄さんは自分で意識していないだけで、格好良くて優しいもん。そう口にしようとしたら、身体を抱き締めている腕の力が強くなって、言葉を飲み込んでしまった。
――冬なのに、外なのに、なんて暖かいんだろう。
目を閉じて、思わず従兄さんの着ているコートを両手でぎゅっと握り締めた。
それをどう解釈したのか、従兄さんは私の左頬を片手で掬うように持ち上げると、顔を近付けてきた。
びっくりしながらも反射的に強く目を瞑る。
たぶんこのままキスされちゃう。そう考えて心臓が強く跳ねた後、唇に柔らかくて少し冷たいものが触れた。従兄さんの唇だ。
そのまま何度かついばむようなキスをされて、まるで火を吹いているみたいに顔中が熱くなった。
すごく恥ずかしい。でも、感じてるのはそれだけじゃない。――嬉しい。気持ちいい。
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