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特別
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「えっ」
驚いて思わず声が出た。同時に顔も上がり、目線は従兄さんの方を向く。
今日の髪型――右側の髪の一部を薔薇の飾りの付いたゴムで束ねて、ワンサイドアップにしている――は、たしかに今まで従兄さんの前では見せたことがなかったかもしれない。
でも本人である私でさえ、『かもしれない』と思っているくらいのことなのに。
『口紅』については、今日塗ってきたこれは正確には色付きのリップクリームで口紅じゃない。少し濃いピンク色を可愛いと思って最近、お小遣いで買ったものだ。
それを今日になって初めて塗ってみた。だから従兄さんが言ったことは正解。
……単純に記憶力があるのか、私のことだから覚えているのか。でも後者だと解釈するのは、ちょっと自意識過剰だよね。
そう思いつつも、つい意識してしまう。それが可愛いとか綺麗とか言われたせいなのか、私が従兄さんのことを好きなせいなのかは分からないけれど。
「これ、口紅じゃなくて色付きのリップだよ。それにしてもそんなこと、よく覚えてるね」
自分の唇を指差す。
「覚えてる。最近はあまり会えないからな」
「普通は逆じゃない? 会えなければ会えないほど、前に会った時は相手がどんな髪型をしていたかなんて忘れちゃうと思うけど」
首をかしげると、従兄さんは優しく目を細めた。
「そういうものか? ……受験生であるお前との外出は貴重だから、なかなか忘れないものだぞ。それに――」
一旦言葉を止めて、従兄さんはハンドルを切った。交差点をゆっくり左折していく。角を曲がり終えてから、その口が再び開いた。
「お前は誰よりも特別な存在だから、そのせいもあるんだろう」
誰よりも特別な存在。その言葉を聞いた途端に、心が弾けるような感覚がした。
私よりもずーっと年上のこの人が出会ってきた様々な人たちの中で一番。第一位。それって、ものすごいことじゃない?
一瞬そう考えたけれど、伯父様と伯母様には敵わないだろうなと思い直す。だって、実の親だもん。生まれてからずっと世話になってきたんだから。
そんな私の心中を見透かしたように、従兄さんが言葉を継ぎ足した。
「一応言っておくが、俺は両親よりもお前の方が特別だからな。言葉通り、誰よりも特別なんだ」
「どうして? 私、従兄さんのために何かしてあげたことなんてないし、これからだって私がそばにいて従兄さんが得するようなことがあるかどうかわからないのに」
素直な気持ちが口から溢れ出した。
特別だという言葉は驚くくらい嬉しい。
だけど、伯父様たちよりも特別に思ってもらえるような理由を私は持っていないし、従兄さんが私のことを特別に思っていてもメリットなんてない気がした。
そんな思考を一蹴するように、従兄さんの真面目な声が車内に響く。
「俺は損得で好きな女を選んだりしない。それに親よりも特別に思えないような相手なら、もしもの時に最優先で守ることもできない。何かあった時に親の方を優先するくらいの愛情しか持っていないなら、結婚なんて視野に入れるべきじゃないだろう?」
スラスラと口にされた言葉は思いがけないものだった。
『最優先で守る』、だって。何だかフィクションの中のヒーローみたい。胸が高鳴るのを感じながら、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「それって……従兄さんがこれからも私と一緒にいるとして、そのせいで損をしちゃってもいいってこと?」
「ああ、そうだ」
「私、従兄さんからそんな風に想ってもらえるような事……何かしたっけ?」
「した」
えっ? 即答?
「何? 私、何をしたの? 全然思い当たらないんだけど」
「お前は昔から……小さな頃から俺のことを怖がらなかった。大抵の女は俺の目を見て怖がったり、よそよそしくなったりするんだが、お前は違った。それは俺にとって珍しいことであり、嬉しいことでもあったんだ」
驚いて思わず声が出た。同時に顔も上がり、目線は従兄さんの方を向く。
今日の髪型――右側の髪の一部を薔薇の飾りの付いたゴムで束ねて、ワンサイドアップにしている――は、たしかに今まで従兄さんの前では見せたことがなかったかもしれない。
でも本人である私でさえ、『かもしれない』と思っているくらいのことなのに。
『口紅』については、今日塗ってきたこれは正確には色付きのリップクリームで口紅じゃない。少し濃いピンク色を可愛いと思って最近、お小遣いで買ったものだ。
それを今日になって初めて塗ってみた。だから従兄さんが言ったことは正解。
……単純に記憶力があるのか、私のことだから覚えているのか。でも後者だと解釈するのは、ちょっと自意識過剰だよね。
そう思いつつも、つい意識してしまう。それが可愛いとか綺麗とか言われたせいなのか、私が従兄さんのことを好きなせいなのかは分からないけれど。
「これ、口紅じゃなくて色付きのリップだよ。それにしてもそんなこと、よく覚えてるね」
自分の唇を指差す。
「覚えてる。最近はあまり会えないからな」
「普通は逆じゃない? 会えなければ会えないほど、前に会った時は相手がどんな髪型をしていたかなんて忘れちゃうと思うけど」
首をかしげると、従兄さんは優しく目を細めた。
「そういうものか? ……受験生であるお前との外出は貴重だから、なかなか忘れないものだぞ。それに――」
一旦言葉を止めて、従兄さんはハンドルを切った。交差点をゆっくり左折していく。角を曲がり終えてから、その口が再び開いた。
「お前は誰よりも特別な存在だから、そのせいもあるんだろう」
誰よりも特別な存在。その言葉を聞いた途端に、心が弾けるような感覚がした。
私よりもずーっと年上のこの人が出会ってきた様々な人たちの中で一番。第一位。それって、ものすごいことじゃない?
一瞬そう考えたけれど、伯父様と伯母様には敵わないだろうなと思い直す。だって、実の親だもん。生まれてからずっと世話になってきたんだから。
そんな私の心中を見透かしたように、従兄さんが言葉を継ぎ足した。
「一応言っておくが、俺は両親よりもお前の方が特別だからな。言葉通り、誰よりも特別なんだ」
「どうして? 私、従兄さんのために何かしてあげたことなんてないし、これからだって私がそばにいて従兄さんが得するようなことがあるかどうかわからないのに」
素直な気持ちが口から溢れ出した。
特別だという言葉は驚くくらい嬉しい。
だけど、伯父様たちよりも特別に思ってもらえるような理由を私は持っていないし、従兄さんが私のことを特別に思っていてもメリットなんてない気がした。
そんな思考を一蹴するように、従兄さんの真面目な声が車内に響く。
「俺は損得で好きな女を選んだりしない。それに親よりも特別に思えないような相手なら、もしもの時に最優先で守ることもできない。何かあった時に親の方を優先するくらいの愛情しか持っていないなら、結婚なんて視野に入れるべきじゃないだろう?」
スラスラと口にされた言葉は思いがけないものだった。
『最優先で守る』、だって。何だかフィクションの中のヒーローみたい。胸が高鳴るのを感じながら、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「それって……従兄さんがこれからも私と一緒にいるとして、そのせいで損をしちゃってもいいってこと?」
「ああ、そうだ」
「私、従兄さんからそんな風に想ってもらえるような事……何かしたっけ?」
「した」
えっ? 即答?
「何? 私、何をしたの? 全然思い当たらないんだけど」
「お前は昔から……小さな頃から俺のことを怖がらなかった。大抵の女は俺の目を見て怖がったり、よそよそしくなったりするんだが、お前は違った。それは俺にとって珍しいことであり、嬉しいことでもあったんだ」
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