想紅(おもいくれない)

笹椰かな

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可愛いvs可愛くない

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 とにもかくにも少しムカムカしながら初詣を終えると、境内けいだいで従兄さんがデートに誘ってくれた。
 隣の市にある少し遠くの植物園まで車で連れて行ってくれることになって、私は途端に胸を躍らせた。さっきまでのムカムカは既にどこかに消えてしまっている。私って本当に――
「単純だなあ……」
 思わずぽつりとつぶやく。それを従兄さんは聞いていたらしく、訊ねられてしまう。
「何が単純なんだ?」
「独り言です。何でもないです」
 耳聡いなあ、もう。

 それから私たちは、本家まで徒歩で向かった。車がないことには目的地まで行けないからだ。
 歩き始めてから約十分後に着いたお屋敷で、お祖父様たちに挨拶をしたすぐ後、従兄さんがみんなに向けて「椿と出かけてくる」と言った。
 三人中、二人が微笑む。……残りの一人はちょっとしかめっ面だ。
「楽しんで来てね」
「気を付けて行ってくるのよ」
「かー。若いもんはこの寒い中よく外出する気になるもんだな」
 最後のセリフはもちろん(?)お祖父様から発せられた。お祖父様は寒いのが大の苦手なのだ。冬はこたつが一番の友達らしい。

「お土産、ちゃんと買ってくるから」
 従兄さんは律儀にそう告げてから家を出て、私を愛車に乗せてくれた。
 目的地を目指して走り出した車の中で、ぼーっと窓の外を見る。
 冬という季節のせいで植樹帯は枝が剥き出しになっていて、視界に移る景色の中は緑色が少ない。秋までは葉を茂らせていたツツジも、今は葉がだいたい散ってしまっている。
「冬は緑が少なくて寂しいね」
 私がつぶやいた後、従兄さんが微かに笑った。
「だからお前、植物園に行けるのが嬉しいんだろう?」
「別にそういう訳じゃないもん。春でも夏でも秋でも、いつだって植物園に行けるのは嬉しいよ」
「年に何回も行っていたら飽きないか?」
「飽きないよ。季節によって咲いてる花がほとんど違うから」
「そういうものか」
「そういうものだよ。好きなものって、何回見ても飽きなくない?」
 横顔を見ながら問うと、従兄さんは
「そうだな」
 と同意してくれた。
「たしかに、何回椿を見ても飽きないからな」
「ぅぇっ!?」
 不意打ちで恥ずかしいことを言われたせいで、変な声が口から出てしまった。『椿』が植物の椿のことだったら同意できるのに。従兄さんの場合、絶対に違う。椿の花が好きだなんて、聞いたことがないもの。
 ……もう、本当に恥ずかしいことをさらっと言うんだから。顔がかあっと熱くなってきて、困ってしまう。
「そ、そういう話じゃないったら。趣味とか、好きなものとかの話で……」
「俺はお前のことが好きだから、間違いじゃないと思うんだが?」
「だから違うったら……意地悪言わないで」
 恥ずかしすぎて従兄さんのことを見ていられなくなった私は、うつむいて自分の足を見た。
 するとなぜか従兄さんが、
「今、運転中じゃなかったら、お前にキスしたかった」
 なんて言ってきた。ますます顔が熱くなってしまう。きっと今、鏡を見たら、顔がポインセチアみたいに真っ赤な色をしているはずだ。
「な、なんでそうなるの?」
「照れてる椿が可愛いからだ」
 即答だった。
「なっ……照れてないし、可愛くないっ! 前から思ってたけど、従兄さんは私のこと、可愛く感じすぎだよっ。私、別に可愛くないのに。同じクラスの子の方が、ずっと可愛いもん」
 これは別に自虐なんかじゃなくて事実だ。
 同じクラスの赤木さんなんて、二重目蓋の目が大きくて、顔も小さくて、鼻だって高くて――よく可愛いって言われている。冬休みに入る前に彼女が別のクラスの男子に告白されたらしいという話を、誰かがしていたっけ。

 私は地味だし、恋バナも基本的に他人事扱いだし、可愛げだってないという自覚もある。だから従兄さんが可愛い可愛いって私を褒めるのは、少し変に感じてしまう。……嬉しくないって言ったら、嘘になるけど。
「俺はその同じクラスの子とやらは知らないが、お前は自分で思っているよりもずっと可愛いし、綺麗だ。今日だって、めかしこんできてくれたんだろ? 髪型がいつもと違うし、その口紅の色も初めて見た」
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