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暴走する嫉妬心
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「違う」
間髪を入れずに言われた。少しだけドキッとしたけれど、まだ私の心はへそを曲げたままだ。
「そんな言葉だけじゃ信用できない」
「なら、どうしたら信じてくれるんだ?」
「自分で考えてよ」
こんな自分はかっこ悪い。そう自覚しているのに、私の意地悪は続いてしまった。だって、私じゃない人を好きだったって、その人は美人で優しかったって――私がすぐ隣にいるのに言っちゃうんだもん。もうちょっと言葉を濁すとか、適当にごまかすとかしてくれたら良かったのに。
そこまで考えて気が付いたけど、そういうことができるような人じゃないんだよね、猛従兄さんは。正直者すぎて嘘をつくのが苦手。お世辞にも器用とは言えない性分をしている。
……そういう人だから好きになったのかもしれないけど。だって平気で嘘をついて、ヘラヘラ笑って、内心では打算を働かせながら誰かに媚びを売るような人なんてかっこ悪いもん。
それからの従兄さんは、私の家の前に着くまでずっと黙っていた。お互いに沈黙している車内は少し居心地の悪さを感じたけど、元々従兄さんは口数が少ないし……と思うと我慢が出来た。
「あの、今日はありがとう。じゃあね」
目を合わさずに告げてから、私は車を降りた。だって、何だか気まずかったから。
すると私が車のドアを閉める前に従兄さんが、少し大きな声でこう言った。
「お前の側にいてやりたい。共に人生を歩みたい。俺は確かにそう思ったんだ。だから、お前と結婚する事を望んでいる。身体が目当てなわけじゃない」
唐突な台詞に面を食らっていると、「信じてくれないか?」と続いた。
真面目そうなその表情を、私はじっと見つめた。どうしてか胸が苦しい。信じたいけど、信じたくない。だって、だって――
「私……従兄さんの初恋の人、嫌い」
気が付いたら勝手に声が出ていた。言葉が止まらない。
「従兄さんが好きだった人なんて嫌い!」
叫ぶように言ってからはっとした。私、何言ってるんだろう。
慌てて口元に手を当てながら、私は車のドアを閉めた。そこから逃げるように玄関のドアまで走り出す。
「椿!」
窓を開けたのだろう。従兄さんの声が後ろから聞こえてきたけど、私は振り返らなかった。――ううん、振り返れなかった。
そのまま急いで、鞄の中から家の鍵を取り出す。だけど手が震えて、鍵を落としてしまった。
「あっ」
チャリーンと、お金を落とした時のような甲高い音が周辺に響く。急いで鍵を拾い上げようとしていると、足音がした。
反射的に後ろを見れば、いつの間にか従兄さんが三メートルくらい離れた場所まで来ていた。
「こ、来ないで!」
私は慌てて拒んだ。
「なぜだ」
「だって私、今すごく恥ずかしいんだもん。かっこ悪いんだもん。従兄さんと話したくない。顔も見られたくない」
喋りながら、顔が熱くなっていくのがわかる。醜い自分を見られたくない。これ以上、恥をかきたくない。
でも、従兄さんはそんなことお構いなしだった。
「でも俺は、お前の顔を見たい。お前ともっと話したい」
「どうして? 私、さっきバカなこと言っちゃったのに。すごく嫌な女だって……自分で思ってるのに……従兄さんだって……」
そう思ってるでしょ? そう続けたかったのに、続けるべきだったのに、言葉が出てこなかった。
だって、従兄さんに批判されるのが怖い。私は思わず、口を両手で塞いでいた。指に唇の感触が伝わってきて、それが何だか気持ち悪い。
そうしたら、後ろから声がした。
「思ってない。俺はお前を、嫌な女だなんて思ってない」
嘘。一瞬そう思ったけど、ふと初めてデートをした時のことが頭をよぎった。
あの時も、私は会ったこともない人たちに嫉妬した。そして従兄さんは、嫉妬で不安定になった私を受け止めてくれたんだ。ああ――
私は指をずらしながら、深く息を吐き出した。
「……本当に?」
確かめるように訊ねながら、ゆっくりと振り返る。すると従兄さんは、こくんと頷いてくれた。
それを見た瞬間、全身から力が抜けていくのがわかった。肩が下がって、開いた口からはまた溜め息が漏れていく。
冷静になって考えてみれば、自分から初恋の話を振ったくせに、従兄さんに腹を立てるのは間違っていた気がする。うう……。
私が落ち込み始めたところで、従兄さんがこっちに近づいてきた。あっという間に距離を詰められて、大きな手でくしゃっと頭を撫でられる。
「落ち着いたか?」
「……うん」
少しどきどきしながら頷いた。だって従兄さんの声も手も、とても優しいから。
「怒っちゃって、ごめんなさい」
「別に謝らなくていい。お前が今もちゃんと俺のことを好きなんだとわかって、俺は嬉しかった」
「ちゃんとって……」
ひどい。そう言いかけてから、はっとした。私、従兄さんとお付き合いを始めてから、もしかして一度も彼女らしいことをしてないんじゃない?
間髪を入れずに言われた。少しだけドキッとしたけれど、まだ私の心はへそを曲げたままだ。
「そんな言葉だけじゃ信用できない」
「なら、どうしたら信じてくれるんだ?」
「自分で考えてよ」
こんな自分はかっこ悪い。そう自覚しているのに、私の意地悪は続いてしまった。だって、私じゃない人を好きだったって、その人は美人で優しかったって――私がすぐ隣にいるのに言っちゃうんだもん。もうちょっと言葉を濁すとか、適当にごまかすとかしてくれたら良かったのに。
そこまで考えて気が付いたけど、そういうことができるような人じゃないんだよね、猛従兄さんは。正直者すぎて嘘をつくのが苦手。お世辞にも器用とは言えない性分をしている。
……そういう人だから好きになったのかもしれないけど。だって平気で嘘をついて、ヘラヘラ笑って、内心では打算を働かせながら誰かに媚びを売るような人なんてかっこ悪いもん。
それからの従兄さんは、私の家の前に着くまでずっと黙っていた。お互いに沈黙している車内は少し居心地の悪さを感じたけど、元々従兄さんは口数が少ないし……と思うと我慢が出来た。
「あの、今日はありがとう。じゃあね」
目を合わさずに告げてから、私は車を降りた。だって、何だか気まずかったから。
すると私が車のドアを閉める前に従兄さんが、少し大きな声でこう言った。
「お前の側にいてやりたい。共に人生を歩みたい。俺は確かにそう思ったんだ。だから、お前と結婚する事を望んでいる。身体が目当てなわけじゃない」
唐突な台詞に面を食らっていると、「信じてくれないか?」と続いた。
真面目そうなその表情を、私はじっと見つめた。どうしてか胸が苦しい。信じたいけど、信じたくない。だって、だって――
「私……従兄さんの初恋の人、嫌い」
気が付いたら勝手に声が出ていた。言葉が止まらない。
「従兄さんが好きだった人なんて嫌い!」
叫ぶように言ってからはっとした。私、何言ってるんだろう。
慌てて口元に手を当てながら、私は車のドアを閉めた。そこから逃げるように玄関のドアまで走り出す。
「椿!」
窓を開けたのだろう。従兄さんの声が後ろから聞こえてきたけど、私は振り返らなかった。――ううん、振り返れなかった。
そのまま急いで、鞄の中から家の鍵を取り出す。だけど手が震えて、鍵を落としてしまった。
「あっ」
チャリーンと、お金を落とした時のような甲高い音が周辺に響く。急いで鍵を拾い上げようとしていると、足音がした。
反射的に後ろを見れば、いつの間にか従兄さんが三メートルくらい離れた場所まで来ていた。
「こ、来ないで!」
私は慌てて拒んだ。
「なぜだ」
「だって私、今すごく恥ずかしいんだもん。かっこ悪いんだもん。従兄さんと話したくない。顔も見られたくない」
喋りながら、顔が熱くなっていくのがわかる。醜い自分を見られたくない。これ以上、恥をかきたくない。
でも、従兄さんはそんなことお構いなしだった。
「でも俺は、お前の顔を見たい。お前ともっと話したい」
「どうして? 私、さっきバカなこと言っちゃったのに。すごく嫌な女だって……自分で思ってるのに……従兄さんだって……」
そう思ってるでしょ? そう続けたかったのに、続けるべきだったのに、言葉が出てこなかった。
だって、従兄さんに批判されるのが怖い。私は思わず、口を両手で塞いでいた。指に唇の感触が伝わってきて、それが何だか気持ち悪い。
そうしたら、後ろから声がした。
「思ってない。俺はお前を、嫌な女だなんて思ってない」
嘘。一瞬そう思ったけど、ふと初めてデートをした時のことが頭をよぎった。
あの時も、私は会ったこともない人たちに嫉妬した。そして従兄さんは、嫉妬で不安定になった私を受け止めてくれたんだ。ああ――
私は指をずらしながら、深く息を吐き出した。
「……本当に?」
確かめるように訊ねながら、ゆっくりと振り返る。すると従兄さんは、こくんと頷いてくれた。
それを見た瞬間、全身から力が抜けていくのがわかった。肩が下がって、開いた口からはまた溜め息が漏れていく。
冷静になって考えてみれば、自分から初恋の話を振ったくせに、従兄さんに腹を立てるのは間違っていた気がする。うう……。
私が落ち込み始めたところで、従兄さんがこっちに近づいてきた。あっという間に距離を詰められて、大きな手でくしゃっと頭を撫でられる。
「落ち着いたか?」
「……うん」
少しどきどきしながら頷いた。だって従兄さんの声も手も、とても優しいから。
「怒っちゃって、ごめんなさい」
「別に謝らなくていい。お前が今もちゃんと俺のことを好きなんだとわかって、俺は嬉しかった」
「ちゃんとって……」
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