想紅(おもいくれない)

笹椰かな

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昼食とおみやげ

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 それから私たちは、もうお昼も間近だからという理由で、植物園の敷地内にあるレストランで食事を取ることにした。
 私はオムライスとりんごジュースを、従兄さんは明太子スパゲッティとアイスティーを頼んだ。
 注文を受けたウェイトレスさんが離れて行った後、従兄さんが思い出したように訊いてきた。「デザートは頼まなくてよかったのか?」
 従兄さんの質問に、私は頷いて答えた。だって昨日体重計に乗ったら、一キロ増えてたんだもん。
「でもお前、甘いもの好きだろう」
 従兄さんが不思議そうにこっちを見てくる。
「体重が気になるの。昨日体重計に乗ったら、一キロ増えてたんだよ。だから我慢する」
 正直にそう言うと、従兄さんは「椿は少しも太ってないぞ。気にしすぎだ」と真顔になった。
「そうかなあ。……ねえ、男の人ってほっそりしているよりもムッチリしている方が好きって本当?」
 私の質問に、従兄さんは「そうだな」と即答した。
「あばらが浮いて見えそうな痩せた身体より、全体的に肉付きがいい方が安心する」
「安心?」
「細過ぎる身体だと、不健康に見えるだろう」
「そっかあ」
 答えながら、私はあばらが浮いてしまいそうな状態の、上半身裸の従兄さんを想像した。確かに心配になる。見た瞬間、「ちゃんとご飯食べてるの!?」って叫んじゃいそう。でもこれじゃ、恋人というよりはお母さんだ。
 肉付きと言えば、やっぱり男の人は胸が大きい方がいいのかなあ。私なんて、ちょっと膨らんでるくらいで、無いのとほとんど変わらないんだけど。
 同級生にはグラビアアイドルみたいに胸が大きい子もいるから、個人差というのはすごいと思ってしまう。
 そんなことを考えているうちに、従兄さんは「それで、デザートは何がいい?」と訊いてきた。
「えっ」
「本当は食べたいんだろう? 全部食べるのが嫌なら、半分食べてやるから」
「……うん。ありがとう」
 従兄さんの気遣いが嬉しくて、私は思わず顔が緩んでしまった。今の私は端から見たら、頭に花が咲いてるみたいな、馬鹿っぽい笑顔を浮かべているんだろうな。
 私はその後、ラズベリーのタルトを頼んだ。食事の最後に食べたデザートは甘酸っぱくて、とっても美味しかった。
 本当は全部食べたかったけど半分だけ食べて、残りの半分は従兄さんに食べてもらった。
 昼食の代金は入園料の時と同じで、従兄さんが払ってくれた。私は自分の分は自分で出すって言ったんだけど、従兄さんは「こういう時の代金は男が出すものだ」と言って払わせてはくれなかった。

 それからお土産屋さんに寄って、お母さんへのお土産を選んだ。
 悩んだ末に、薔薇の香りのするハンドクリームにした。その場にあった試供品を使ってみたけど、いい香りがするし、ぬるぬるしないから、お母さんもたぶん気に入ってくれると思う。
「自分の分は買わないのか」 
 お会計を済ませようとした私に、従兄さんが声を掛けてきた。
「いいの。思い出だけで十分」
 うわ、なんだかクサいこと言っちゃったなあ。口に出した後になってから、恥ずかしい気持ちになる。
 そんな私に、従兄さんは「今日の記念に、俺が好きな物を買ってやる。何か選んでくれ」なんて言ってきた。もう、甘いなあ。
「いいってば。入園料と昼食代も払ってもらったのに……お土産までなんて」
「遠慮するな。俺が買ってやりたいんだ」
「そんなに私を甘やかさないでよ。駄目人間になっちゃう」
 私の言葉に、従兄さんが吹き出した。珍しい。
「これくらいのことで駄目人間が出来上がるなら、世の中は駄目人間だらけだぞ」
 そうは言うけど、これ以上甘やかされたら、私は本当に駄目人間になってしまいそうだった。従兄さんにべったりで、従兄さんに頼りっぱなしの駄目駄目人間。そんなの嫌だ。
 私は少しだけ思案した後、ピンとひらめいた。 
「なら、従兄さんも何か選んで。私が従兄さんのお土産を買ってあげる。それなら、お相子でしょ?」
 私がそう提案すると、従兄さんは苦笑を浮かべた。
「頑固だな」
「そりゃあ、あのお祖父様の孫だもの」
 私がよくわからない理屈を言って胸を張ると、従兄さんは諦めたように肩を竦めた。

 結果として私は、従兄さんが選んだゲイシャの苗を買った。
 従兄さんは私が選んだピンクの薔薇のブローチと、お母さんへのお土産として買おうとしていたハンドクリームも一緒に買ってくれた。
「自分への土産が、そんなに安い物でよかったのか?」
 ブローチとハンドクリームの入った紙袋を渡されながら、従兄さんに問われた。買ってもらったブローチは、540円だった。
「よかったの。それに安くないよ。540円を馬鹿にしたらバチが当たるんだから。それよりその苗、お庭に植えるの?」
 私は従兄さんの左手に提げられているビニール袋を見た。中には、私がさっき買ってあげたゲイシャの苗が入っている。
「ああ。庭に植えてみる」そう答えて、従兄さんは左手を少し上げた。
「お庭に植えたくなるくらい、ゲイシャが気に入ったの?」
 私の素朴な疑問を聞いた従兄さんは、口の端をわずかに上げた。
「お前が好きな花だから、これにしたんだ。花が咲いたら見に来てくれ」
 従兄さんの言葉のせいで、頬が少しだけ熱を持った。そっか……私が好きだって言ってたから、ゲイシャを選んだんだ。すごく嬉しい。
「うん。必ず見に行くね」
 新たな楽しみを得た私は笑顔になりながら、従兄さんと一緒に駐車場へ向かって歩いた。
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