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無用な心配
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洗面台の鏡の前でリップクリームを塗り直した後、ちょうどトイレにいるのだから、後で行きたくなってから行くよりも……と思った私は、ついでとばかりに個室に入った。
だけど、おしっこをするために下ろしたショーツを見てびっくりした。ショーツがわずかに濡れていたのだ。
「嘘……」
思わず呟きながら、私は顔が熱くなった。いつの間に濡れていたんだろう。そう思って、記憶を巻き戻す。あ……たぶん、従兄さんからキスをされた時だ。
あの時、私の頭の中はすごく混乱していたけど、身体はしっかり感じてたんだ。そう考えた途端、たくさんキスをされながら身体が熱くなって、下半身に甘く痺れるような感覚が走り抜けていったのを思い出してしまう。
従兄さんの唇の感触までをも思い出しそうになった私は、慌てて頭を左右に振った。一旦、従兄さんから離れて落ち着きを取り戻すためにトイレに来たのに、これじゃ意味がなくなっちゃう。
私は努めて頭の中を空っぽにすると、そのままおしっこを済ませた。ティッシュでアソコを拭いた時の、ぬるっとした感触が嫌だった。
人がそれなりに来ている植物園で無意識にアソコを濡らしていたなんて、なんだかすごくいやらしい。私ってやっぱり、変態なのかもしれない。
水道水で洗った手をハンカチで拭き終わった後、私は少し落ち込みながらトイレを出た。そうしたら、トイレの近くには従兄さんしか居なかった。
「従兄さん、待たせてごめんね。あの、志村さんは?」
きょろきょろしながら訊ねると、志村さんは「用事があるから」と言って既に帰ってしまったのだと教えてくれた。
「そうなんだ。ちゃんとお別れのご挨拶をしたかったな」
「そうか。志村さん、お前によろしくと言っていたぞ」
そう話す従兄さんは、どこか不機嫌そうに見えた。顔がいつもよりむすっとしてる気がする。待たされたから、怒ってるのかな?
「あの……お手洗い、長くなってごめんね」
私は申し訳なくなって謝った。だけど、従兄さんは「いや。全然気にしてない」と言った。
「じゃあ、どうして怒ってるの?」
「怒っているように見えるのか?」
「違うの?」
逆に訊き返されて、私は戸惑った。だって、従兄さんの顔がいつもと違うことに、私はもう気付いている。眉毛が少しつり上がっているし、口も若干への字だからだ。
従兄さんは基本的に無表情だ。だから、普段との違いに気付かない人もいると思う。だけど従兄さんのことを意識して見ていると、その小さな変化にだって、どうしても気付いてしまう。
従兄さんは小さな溜め息を吐くと、観念したように目を伏せた。
「志村さんが……椿を好きな男がクラスメイトの中にいるはずだと言っていただろう。それが気になって、少し苛ついていた」
従兄さんの言葉に、私は目を丸くした。あんなの、ただのお世辞に決まってるのに。
「そんなこと気にしてたの?」
「そんなことじゃない。お前のことを好きな男が、そのうちお前に告白しに来るかもしれないだろう」
「従兄さんってば……そもそも私のことを好きな男子なんて、いる訳ないじゃない。志村さんが言ってたことはお世辞だよ」
従兄さんの無用な心配を、私は笑いながら一蹴した。だけど、従兄さんは「お前はわかっていない」と真面目な顔をして言ってきた。
「椿は可愛いし、中身もいい女だ。俺は……もしお前に他の男が寄ってきたら、お前はそいつを選ぶんじゃないかと心配なんだ」
従兄さんはそう話しながら、不安そうな眼差しを私に向けてきた。私からしたら、本当に無用な心配だ。おかげでつい、両目をしばたたかせてしまった。
「どうしてそんな心配するの? 私、クラスメイトに好きな子なんていないよ?」
そもそも、私が好きなのは従兄さんだ。従兄さんだって、それをわかっているはずなのに。
「それは……本当は年の離れた俺よりも、同い年か年の近い男の方が、お前の目には魅力的に映っているんじゃないかと思ったんだ。お前が俺を好きだと言ったのは、お前が俺以外の男とまだ縁遠いだけだからなんじゃないかとーー」
「違う! 違うよ!」
私は無意識のうちに叫んでいた。気付いた時には、従兄さんの言葉を遮っていた。
「私、もともと同い年や年の近い男子はあんまり興味が持てなくて。それは私の身近な異性だった従兄さんが、学校の男子とは違っていつも優しくて、落ち着いていたからだよ。……従兄さんが私のことを好きだって言ってきて、最初は戸惑いの方が大きかったけど、今は従兄さんに想われてるのが嬉しいの。従兄さんと話してると、従兄さんは冗談や遊びで私に構ってるんじゃなくて、私のことを本当に好きなんだってわかるから、嬉しいの」
「俺は冗談や遊びで、女に告白なんかしない。ましてやキスなんてもってのほかだ」
従兄さんが私をじっと見つめながら言う。その声は真剣そのもので、つい苦笑してしまった。
「わかってるよ。従兄さんはいい人だもの」
私は従兄さんの大きな右手を引いて、両手でぎゅっと握った。自分から従兄さんの手を握るのは初めてだ。……植物園の出入り口付近で従兄さんの手を一度掴んでいるけど、あれは無意識だったからカウントしない。
「私に従兄さんを好きだと思わせた原因は、きっとそのまっすぐで正直な気持ちだよ。私のことを好きだっていう気持ちを、従兄さんが怖いくらい私に伝えてきたからだよ。従兄さんみたいな人、きっと私の前にはもう現れない。だから、不安にならないで」
大きくてごつごつした手を握りながら、私は一生懸命気持ちを伝えた。従兄さんのことが好きだから。
それにしても、従兄さんは変な人。好きな人を他の人に盗られちゃうんじゃないかって不安になるのは、普通に考えれば子供である私の方なのに。
だけど、おしっこをするために下ろしたショーツを見てびっくりした。ショーツがわずかに濡れていたのだ。
「嘘……」
思わず呟きながら、私は顔が熱くなった。いつの間に濡れていたんだろう。そう思って、記憶を巻き戻す。あ……たぶん、従兄さんからキスをされた時だ。
あの時、私の頭の中はすごく混乱していたけど、身体はしっかり感じてたんだ。そう考えた途端、たくさんキスをされながら身体が熱くなって、下半身に甘く痺れるような感覚が走り抜けていったのを思い出してしまう。
従兄さんの唇の感触までをも思い出しそうになった私は、慌てて頭を左右に振った。一旦、従兄さんから離れて落ち着きを取り戻すためにトイレに来たのに、これじゃ意味がなくなっちゃう。
私は努めて頭の中を空っぽにすると、そのままおしっこを済ませた。ティッシュでアソコを拭いた時の、ぬるっとした感触が嫌だった。
人がそれなりに来ている植物園で無意識にアソコを濡らしていたなんて、なんだかすごくいやらしい。私ってやっぱり、変態なのかもしれない。
水道水で洗った手をハンカチで拭き終わった後、私は少し落ち込みながらトイレを出た。そうしたら、トイレの近くには従兄さんしか居なかった。
「従兄さん、待たせてごめんね。あの、志村さんは?」
きょろきょろしながら訊ねると、志村さんは「用事があるから」と言って既に帰ってしまったのだと教えてくれた。
「そうなんだ。ちゃんとお別れのご挨拶をしたかったな」
「そうか。志村さん、お前によろしくと言っていたぞ」
そう話す従兄さんは、どこか不機嫌そうに見えた。顔がいつもよりむすっとしてる気がする。待たされたから、怒ってるのかな?
「あの……お手洗い、長くなってごめんね」
私は申し訳なくなって謝った。だけど、従兄さんは「いや。全然気にしてない」と言った。
「じゃあ、どうして怒ってるの?」
「怒っているように見えるのか?」
「違うの?」
逆に訊き返されて、私は戸惑った。だって、従兄さんの顔がいつもと違うことに、私はもう気付いている。眉毛が少しつり上がっているし、口も若干への字だからだ。
従兄さんは基本的に無表情だ。だから、普段との違いに気付かない人もいると思う。だけど従兄さんのことを意識して見ていると、その小さな変化にだって、どうしても気付いてしまう。
従兄さんは小さな溜め息を吐くと、観念したように目を伏せた。
「志村さんが……椿を好きな男がクラスメイトの中にいるはずだと言っていただろう。それが気になって、少し苛ついていた」
従兄さんの言葉に、私は目を丸くした。あんなの、ただのお世辞に決まってるのに。
「そんなこと気にしてたの?」
「そんなことじゃない。お前のことを好きな男が、そのうちお前に告白しに来るかもしれないだろう」
「従兄さんってば……そもそも私のことを好きな男子なんて、いる訳ないじゃない。志村さんが言ってたことはお世辞だよ」
従兄さんの無用な心配を、私は笑いながら一蹴した。だけど、従兄さんは「お前はわかっていない」と真面目な顔をして言ってきた。
「椿は可愛いし、中身もいい女だ。俺は……もしお前に他の男が寄ってきたら、お前はそいつを選ぶんじゃないかと心配なんだ」
従兄さんはそう話しながら、不安そうな眼差しを私に向けてきた。私からしたら、本当に無用な心配だ。おかげでつい、両目をしばたたかせてしまった。
「どうしてそんな心配するの? 私、クラスメイトに好きな子なんていないよ?」
そもそも、私が好きなのは従兄さんだ。従兄さんだって、それをわかっているはずなのに。
「それは……本当は年の離れた俺よりも、同い年か年の近い男の方が、お前の目には魅力的に映っているんじゃないかと思ったんだ。お前が俺を好きだと言ったのは、お前が俺以外の男とまだ縁遠いだけだからなんじゃないかとーー」
「違う! 違うよ!」
私は無意識のうちに叫んでいた。気付いた時には、従兄さんの言葉を遮っていた。
「私、もともと同い年や年の近い男子はあんまり興味が持てなくて。それは私の身近な異性だった従兄さんが、学校の男子とは違っていつも優しくて、落ち着いていたからだよ。……従兄さんが私のことを好きだって言ってきて、最初は戸惑いの方が大きかったけど、今は従兄さんに想われてるのが嬉しいの。従兄さんと話してると、従兄さんは冗談や遊びで私に構ってるんじゃなくて、私のことを本当に好きなんだってわかるから、嬉しいの」
「俺は冗談や遊びで、女に告白なんかしない。ましてやキスなんてもってのほかだ」
従兄さんが私をじっと見つめながら言う。その声は真剣そのもので、つい苦笑してしまった。
「わかってるよ。従兄さんはいい人だもの」
私は従兄さんの大きな右手を引いて、両手でぎゅっと握った。自分から従兄さんの手を握るのは初めてだ。……植物園の出入り口付近で従兄さんの手を一度掴んでいるけど、あれは無意識だったからカウントしない。
「私に従兄さんを好きだと思わせた原因は、きっとそのまっすぐで正直な気持ちだよ。私のことを好きだっていう気持ちを、従兄さんが怖いくらい私に伝えてきたからだよ。従兄さんみたいな人、きっと私の前にはもう現れない。だから、不安にならないで」
大きくてごつごつした手を握りながら、私は一生懸命気持ちを伝えた。従兄さんのことが好きだから。
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