42 / 63
スイーツと懐古と嫉妬
しおりを挟む
「……日頃の行いのせいか」
従兄さんが溜め息混じりにつぶやく。その横顔は、ちょっとだけ悲しそうだった。
それから数分後、車がホテル縞桐の駐車場に到着した。黒いアスファルトの上に停車した後、ドアのロックが開く。
従兄さんは結局、何が目的でホテルに向かっていたのかを教えてくれなかった。だから私はドキドキしながら、車から降りた。一体どんなことが私を待ってるんだろう。
……で、結論から言うと、私は従兄さんにいやらしいことなんてされなかった。
じゃあ、何があったのかと言うと、ホテルの一階でやっていた『秋のスイーツフェア』なるものーー要はバイキング形式の洋菓子食べ放題ーーを楽しんだだけだった。
私は甘いものが好きなので、緊張状態から一転、嬉々としながら色々なお菓子を食べた。
栗や梨、かぼちゃ、サツマイモなどを使ったケーキにパイ、プリン、タルト、ティラミス。
それにしても従兄さんってば、バイキングに連れて行ってくれるのなら、素直に言ってくれればよかったのに。そうすれば、私に変な疑いを持たれることもなかったのに。
従兄さんにそれを伝えたら、「驚かせたかったんだ」と言われた。そんなことを考えるタイプだとは思っていなかったから、意外だった。
「もしかして、フラッシュモブとか興味あったりする?」
おずおずと質問すると、「いや。ああいうのには興味がない」と返されて、ほっとした。もしもあんな、ザ・海外なノリで驚かされたら正直イヤだ。ああいうのは苦手。知らない人たちを集めてターゲットをびっくりさせる……なんて、どこがいいのか私にはわからない。
ひとしきりスイーツフェアを楽しんだ後、私たちは帰宅することにした。
従兄さんは甘いものは嫌いじゃないけど、私のように大好きとまではいかないので、あまりスイーツを食べていなかった。だから、私ばっかり得をしてしまった気がして、少し……ううん。結構、気になった。
「なんか私ばっかり食べてたし、またおごってもらっちゃった……」
帰路を走る車中でそう口にすると、従兄さんは「中学生のくせに、そんなことを気にするな」と言ってきた。
その中学生のことを女扱いして、エッチなことをしたのはどこの誰なんだろう。正直そう思ったけど、黙っておいた。
「気にするよ」
「椿は真面目だな」
従兄さんの横顔が、珍しく笑みを描いた。優しい顔。きっと従兄さんの顔が怖いと言って色々と勘違いをしてきた人たちは、この人がこんな表情をすることを知らないんだろうな。……もったいない。
「別に真面目なんかじゃないよ。本当に真面目だったら、不純異性交遊なんかしてないもん」
「……お前、変な言葉を知ってるんだな」
従兄さんの眉が下がった。あ、絶対呆れてるな、これ。
「もう、物知りって言ってよ」
思わず、むくれてしまう。
そういえば、従兄さんはどうだったんだろう。私と同じ年齢の時には、『不純異性交遊』を経験済みだったんだろうか。
「……ねえ、従兄さんは十四歳の時に好きな女の子っていた?」
その質問を従兄さんは、「どうだったかな」とごまかそうとした。
「ごまかさないで教えてよ」
「言ってもいいが、知ったら引くぞ」
「引く?」
「ああ。どん引きってやつだ」
そんなこと言われると、余計に気になってしまう。私がさらに食いつくと、従兄さんは観念したようにつぶやいた。
「国語担当の教師が好きだったんだ」
予想外の答えに、一瞬だけぽかんとしてしまった。まさか同級生や先輩じゃなくて、先生が好きだったなんてーー
「その先生って……お、女の先生だよね?」
念のために訊くと、従兄さんはものすごく渋い顔をした。
「お前なあ……」
「だって、訊いてみないとわからないじゃない」
「たしかに、今の時代は色々と多様化してきてはいる……。だけどな、椿。お前には俺が、男も好きなように見えるのか?」
真面目な声色で訊ねられた。
「見えないけど。でも私、従兄さんのこと何でも知ってるわけじゃないもん。過去の従兄さんは、男の人も好きだったかもしれないでしょう?」
そう返答をすると、従兄さんは小さな溜め息を吐いた。
「なるほど。椿は俺が思っていたより、柔軟な女なんだな」
「それって嫌味?」
「違う。褒めてるんだ」
そうは聞こえないんだけど。
「その国語の先生には告白したの?」
「していない。生徒から告白なんかされても、相手は困るだけだろう?」
まあ、確かにそうかもしれないけど……。
「ねえ。その先生、美人だった?」
「そうだな。美人だったよ。それに、優しかった」
そう言った従兄さんは、一瞬だけ目を細めて、懐古に浸るような顔をした。それを見た瞬間、胸にトゲが刺さったような感覚に襲われた。
……私って、自分で思っているよりも、ずっとずっと嫉妬深いのかもしれない。
「昔は年上が好きだったのに、どうして私のことを好きになったの? 年の離れている私だったら、懐柔しやすいと思ったから? すぐにエッチなことができるって思ったから?」
胸の奥がもやもやして、気が付いた時には、口から意地の悪い言葉が溢れ出していた。
従兄さんが溜め息混じりにつぶやく。その横顔は、ちょっとだけ悲しそうだった。
それから数分後、車がホテル縞桐の駐車場に到着した。黒いアスファルトの上に停車した後、ドアのロックが開く。
従兄さんは結局、何が目的でホテルに向かっていたのかを教えてくれなかった。だから私はドキドキしながら、車から降りた。一体どんなことが私を待ってるんだろう。
……で、結論から言うと、私は従兄さんにいやらしいことなんてされなかった。
じゃあ、何があったのかと言うと、ホテルの一階でやっていた『秋のスイーツフェア』なるものーー要はバイキング形式の洋菓子食べ放題ーーを楽しんだだけだった。
私は甘いものが好きなので、緊張状態から一転、嬉々としながら色々なお菓子を食べた。
栗や梨、かぼちゃ、サツマイモなどを使ったケーキにパイ、プリン、タルト、ティラミス。
それにしても従兄さんってば、バイキングに連れて行ってくれるのなら、素直に言ってくれればよかったのに。そうすれば、私に変な疑いを持たれることもなかったのに。
従兄さんにそれを伝えたら、「驚かせたかったんだ」と言われた。そんなことを考えるタイプだとは思っていなかったから、意外だった。
「もしかして、フラッシュモブとか興味あったりする?」
おずおずと質問すると、「いや。ああいうのには興味がない」と返されて、ほっとした。もしもあんな、ザ・海外なノリで驚かされたら正直イヤだ。ああいうのは苦手。知らない人たちを集めてターゲットをびっくりさせる……なんて、どこがいいのか私にはわからない。
ひとしきりスイーツフェアを楽しんだ後、私たちは帰宅することにした。
従兄さんは甘いものは嫌いじゃないけど、私のように大好きとまではいかないので、あまりスイーツを食べていなかった。だから、私ばっかり得をしてしまった気がして、少し……ううん。結構、気になった。
「なんか私ばっかり食べてたし、またおごってもらっちゃった……」
帰路を走る車中でそう口にすると、従兄さんは「中学生のくせに、そんなことを気にするな」と言ってきた。
その中学生のことを女扱いして、エッチなことをしたのはどこの誰なんだろう。正直そう思ったけど、黙っておいた。
「気にするよ」
「椿は真面目だな」
従兄さんの横顔が、珍しく笑みを描いた。優しい顔。きっと従兄さんの顔が怖いと言って色々と勘違いをしてきた人たちは、この人がこんな表情をすることを知らないんだろうな。……もったいない。
「別に真面目なんかじゃないよ。本当に真面目だったら、不純異性交遊なんかしてないもん」
「……お前、変な言葉を知ってるんだな」
従兄さんの眉が下がった。あ、絶対呆れてるな、これ。
「もう、物知りって言ってよ」
思わず、むくれてしまう。
そういえば、従兄さんはどうだったんだろう。私と同じ年齢の時には、『不純異性交遊』を経験済みだったんだろうか。
「……ねえ、従兄さんは十四歳の時に好きな女の子っていた?」
その質問を従兄さんは、「どうだったかな」とごまかそうとした。
「ごまかさないで教えてよ」
「言ってもいいが、知ったら引くぞ」
「引く?」
「ああ。どん引きってやつだ」
そんなこと言われると、余計に気になってしまう。私がさらに食いつくと、従兄さんは観念したようにつぶやいた。
「国語担当の教師が好きだったんだ」
予想外の答えに、一瞬だけぽかんとしてしまった。まさか同級生や先輩じゃなくて、先生が好きだったなんてーー
「その先生って……お、女の先生だよね?」
念のために訊くと、従兄さんはものすごく渋い顔をした。
「お前なあ……」
「だって、訊いてみないとわからないじゃない」
「たしかに、今の時代は色々と多様化してきてはいる……。だけどな、椿。お前には俺が、男も好きなように見えるのか?」
真面目な声色で訊ねられた。
「見えないけど。でも私、従兄さんのこと何でも知ってるわけじゃないもん。過去の従兄さんは、男の人も好きだったかもしれないでしょう?」
そう返答をすると、従兄さんは小さな溜め息を吐いた。
「なるほど。椿は俺が思っていたより、柔軟な女なんだな」
「それって嫌味?」
「違う。褒めてるんだ」
そうは聞こえないんだけど。
「その国語の先生には告白したの?」
「していない。生徒から告白なんかされても、相手は困るだけだろう?」
まあ、確かにそうかもしれないけど……。
「ねえ。その先生、美人だった?」
「そうだな。美人だったよ。それに、優しかった」
そう言った従兄さんは、一瞬だけ目を細めて、懐古に浸るような顔をした。それを見た瞬間、胸にトゲが刺さったような感覚に襲われた。
……私って、自分で思っているよりも、ずっとずっと嫉妬深いのかもしれない。
「昔は年上が好きだったのに、どうして私のことを好きになったの? 年の離れている私だったら、懐柔しやすいと思ったから? すぐにエッチなことができるって思ったから?」
胸の奥がもやもやして、気が付いた時には、口から意地の悪い言葉が溢れ出していた。
0
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる