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抱擁とキスの約束
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「得なら、俺には十分ある。椿とずっと一緒に暮らせる。だから、毎日お前に会える」
そう話す猛従兄さんの声はどことなく嬉しそうだ。
「それって、そんなに嬉しいこと?」
「ああ」
「ふうん」
素っ気ない返事をしながら、私は相変わらずどきどきしていた。
やっぱり私は従兄さんのことが好きなんだろうか?
でも、私の事を好きだって言ってきた相手をこんなにも早く好きになるなんて、軽すぎる気がする。今までは、本当のお兄さんみたいに思っていた相手なのに。
だけど抱き締められるのも、肌にキスされるのも、恥ずかしかったし混乱したけど嫌じゃなかった。エッチな事を言われても、気持ち悪いとは感じなかった。
普段の私なら、あんな事をされたり言われた場合はすぐにお母さんに相談して、警察に連絡してもらいたくなるはずなのに。
自分の気持ちを確かめたい。本当の気持ちが知りたい。そう強く思った私は、従兄さんにとんでもない事を頼んだ。
「ねえ、従兄さん。今度会ったら私を抱き締めて、それから唇にキスをして」
私のお願いを聞いた従兄さんが、電話越しに息を詰まらせたのがわかった。きっと、すごくびっくりしてる。
「どうしたんだ、急に」
従兄さんの声から、明らかな動揺が伝わってくる。
「私、自分が従兄さんの事が好きなのか確かめたいの。抱き締めてキスしてもらえたら、きっとはっきりすると思うから」
「俺は構わないが……お前は後悔しないのか」
「しない。それにもし嫌だって思ったら、ちゃんと言うから」
「……その場合、俺はすごく不憫じゃないか?」
確かにそうだ。私から依頼された事なのに、実際に実行したら嫌がられるなんて、従兄さんからしたらショックだろう。……やっぱり、こんなお願いは断ろう。
「ごめんね。私、自分の事ばっかりで従兄さんの気持ちを考えてなかった。さっき言った事は忘れて?」
「いや。それでお前の気持ちがすっきりするなら、実行しよう」
意外な返答に私は目を丸くした。
「いいの?」
「構わない。それに、俺は椿の気持ちを無視して身体に触れた前科がある。だからお前が謝ることはない」
「う、うん」
了承されてから、急に恥ずかしさが込み上げてきた。今度会ったら、抱き締められてキスされちゃうんだ。
「こんな事を頼む女の子って、やっぱりおかしいよね」
「おかしいかはわからないが、まあ、普通は恋人に頼む内容だな」
全くもって正論だ。
「そうだよね……」
「でも、同意の上でお前に触れられるなら、俺は嬉しい」
従兄さんにまた恥ずかしい事を言われた。頬が熱くなる。
「それで、今度はいつ会える?」
その言葉から発展して、今度の日曜日に二人で出掛ける事になった。行き先は、私が昨日の昼間に従兄さんと話した時に行きたいと言った隣町の植物園だ。
「従兄さんと二人っきりで出掛けるの、久し振り」
「お前が子供の時以来だな」
「私はまだ子供だってば……」
私がむくれると、「お前は綺麗だ」と返された。会話のキャッチボールになっていない気がする。
「私……まだ子供だよ。心も身体も、まだ子供なの」
そう言いながら、私は空いている左手で自分の胸に触れた。手の中に収まってしまう、小さな膨らみ。押したり、揉んだりすると痛みが走る。ネットで調べたら、成長痛の一種だって書いてあった。つまりは、まだ私の身体は成長途中。子供の肉体だ。
「そうか。俺にはそうは見えないが」
「もう。意地悪しないでよ」
昨日も今日も、従兄さんが見ている前で泣いてしまったのに。私が大人ならきっと、泣かなかった。
「大人扱いしないで。胸が苦しくなるから」
「まだ、子供でいたいのか?」
「それも少しあるけど……私は本当にまだ未熟だから、大人扱いされるのは違和感があるの」
「そうか」
そう言いながら、従兄さんが優しく笑った気配がした。
「そういう考え方も含めて、お前は大人っぽいと思うけどな」
「従兄さんて、私を過大評価し過ぎ」
私は呆れながら、口をへの字に曲げた。
従兄さんと話していると、イエスマンの部下を雇った社長みたいな気分になる。
それから少しだけ雑談をして、私たちは通話を終わらせた。
さて、日曜日は従兄さんとお出掛けだ。……ん? これってもしかして、デートってことになるの?
「従兄さんと出掛けるのが初めてじゃないから、そういう風には考えなかったな……」
ドライヤーで乾かしていた途中だった髪を弄りながら呟く。私の長い髪の毛は、従兄さんと通話している間に自然に乾いてしまっていた。
「デートかあ」
日曜日の約束をデートだとするならば、男の子ーーもちろん大人の男の人ともーー付き合ったことのない私にとって、初めてのデートという事になる。抱き締められてキスをされるためにするデートっていうのも、なんだかおかしいけど。
どの服を着て、どの髪型にしようか。エッチな従兄さんと二人っきりで出掛けるのにそんな考えが頭をよぎるのだから、私は脳天気すぎるのかもしれない。
……うーん。防犯ブザーも、ちゃんと持って行こう。
そう話す猛従兄さんの声はどことなく嬉しそうだ。
「それって、そんなに嬉しいこと?」
「ああ」
「ふうん」
素っ気ない返事をしながら、私は相変わらずどきどきしていた。
やっぱり私は従兄さんのことが好きなんだろうか?
でも、私の事を好きだって言ってきた相手をこんなにも早く好きになるなんて、軽すぎる気がする。今までは、本当のお兄さんみたいに思っていた相手なのに。
だけど抱き締められるのも、肌にキスされるのも、恥ずかしかったし混乱したけど嫌じゃなかった。エッチな事を言われても、気持ち悪いとは感じなかった。
普段の私なら、あんな事をされたり言われた場合はすぐにお母さんに相談して、警察に連絡してもらいたくなるはずなのに。
自分の気持ちを確かめたい。本当の気持ちが知りたい。そう強く思った私は、従兄さんにとんでもない事を頼んだ。
「ねえ、従兄さん。今度会ったら私を抱き締めて、それから唇にキスをして」
私のお願いを聞いた従兄さんが、電話越しに息を詰まらせたのがわかった。きっと、すごくびっくりしてる。
「どうしたんだ、急に」
従兄さんの声から、明らかな動揺が伝わってくる。
「私、自分が従兄さんの事が好きなのか確かめたいの。抱き締めてキスしてもらえたら、きっとはっきりすると思うから」
「俺は構わないが……お前は後悔しないのか」
「しない。それにもし嫌だって思ったら、ちゃんと言うから」
「……その場合、俺はすごく不憫じゃないか?」
確かにそうだ。私から依頼された事なのに、実際に実行したら嫌がられるなんて、従兄さんからしたらショックだろう。……やっぱり、こんなお願いは断ろう。
「ごめんね。私、自分の事ばっかりで従兄さんの気持ちを考えてなかった。さっき言った事は忘れて?」
「いや。それでお前の気持ちがすっきりするなら、実行しよう」
意外な返答に私は目を丸くした。
「いいの?」
「構わない。それに、俺は椿の気持ちを無視して身体に触れた前科がある。だからお前が謝ることはない」
「う、うん」
了承されてから、急に恥ずかしさが込み上げてきた。今度会ったら、抱き締められてキスされちゃうんだ。
「こんな事を頼む女の子って、やっぱりおかしいよね」
「おかしいかはわからないが、まあ、普通は恋人に頼む内容だな」
全くもって正論だ。
「そうだよね……」
「でも、同意の上でお前に触れられるなら、俺は嬉しい」
従兄さんにまた恥ずかしい事を言われた。頬が熱くなる。
「それで、今度はいつ会える?」
その言葉から発展して、今度の日曜日に二人で出掛ける事になった。行き先は、私が昨日の昼間に従兄さんと話した時に行きたいと言った隣町の植物園だ。
「従兄さんと二人っきりで出掛けるの、久し振り」
「お前が子供の時以来だな」
「私はまだ子供だってば……」
私がむくれると、「お前は綺麗だ」と返された。会話のキャッチボールになっていない気がする。
「私……まだ子供だよ。心も身体も、まだ子供なの」
そう言いながら、私は空いている左手で自分の胸に触れた。手の中に収まってしまう、小さな膨らみ。押したり、揉んだりすると痛みが走る。ネットで調べたら、成長痛の一種だって書いてあった。つまりは、まだ私の身体は成長途中。子供の肉体だ。
「そうか。俺にはそうは見えないが」
「もう。意地悪しないでよ」
昨日も今日も、従兄さんが見ている前で泣いてしまったのに。私が大人ならきっと、泣かなかった。
「大人扱いしないで。胸が苦しくなるから」
「まだ、子供でいたいのか?」
「それも少しあるけど……私は本当にまだ未熟だから、大人扱いされるのは違和感があるの」
「そうか」
そう言いながら、従兄さんが優しく笑った気配がした。
「そういう考え方も含めて、お前は大人っぽいと思うけどな」
「従兄さんて、私を過大評価し過ぎ」
私は呆れながら、口をへの字に曲げた。
従兄さんと話していると、イエスマンの部下を雇った社長みたいな気分になる。
それから少しだけ雑談をして、私たちは通話を終わらせた。
さて、日曜日は従兄さんとお出掛けだ。……ん? これってもしかして、デートってことになるの?
「従兄さんと出掛けるのが初めてじゃないから、そういう風には考えなかったな……」
ドライヤーで乾かしていた途中だった髪を弄りながら呟く。私の長い髪の毛は、従兄さんと通話している間に自然に乾いてしまっていた。
「デートかあ」
日曜日の約束をデートだとするならば、男の子ーーもちろん大人の男の人ともーー付き合ったことのない私にとって、初めてのデートという事になる。抱き締められてキスをされるためにするデートっていうのも、なんだかおかしいけど。
どの服を着て、どの髪型にしようか。エッチな従兄さんと二人っきりで出掛けるのにそんな考えが頭をよぎるのだから、私は脳天気すぎるのかもしれない。
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