想紅(おもいくれない)

笹椰かな

文字の大きさ
上 下
38 / 63

受験生

しおりを挟む
 それから、約二か月の時間が過ぎた。
 私と従兄にいさんの交際は、とりあえず順調に行っているのだと思う。従兄さんは「触らないで」って言えば身体に触って来ないし、キスをする時もちゃんと事前に言ってくれるようになった。
 とは言え、最近はあまり会っていないんだけど。

 その理由は私の高校受験だ。受験生である私は、従兄さんと恋愛ばかりしている暇はない。勉強は得意な方な訳じゃないから、ちゃんと勉強しないと試験に受からなくなっちゃう。実は二年生になってからは、週二日だけだけど、学習塾にも通っていたりする。
 私が合格を目指している久川高校はここら辺ではあまりレベルが高くない……んだけど、勉強しないで受かるほど、高校受験は甘くはない。たぶん。だからそれなりに頑張ってはいるんだけどーーはあ、疲れる。やっぱり勉強は苦手。

 夕食後の食器洗いを終えて自室に戻ったら、それを見計らったかのように従兄さんから電話が掛かってきた。机の上のスマホスタンドに立てかけてあるスマホを慌てて手にとって、通話ボタンをタップする。元気かと問われて、受験のせいでナーバスになっていることを正直に話したら、こう言われた。
「もし受験に落ちたら、俺と結婚すればいい」
 私のやる気をなくさせようとする邪な発言。
 悪だ。受験生に試験に落ちた場合の話をするなんて、紛れもない悪人だ。
「どうしてそんなこと言うの。従兄さんなんか嫌い」
 彼氏なら、苦手な勉強を頑張っている彼女のことを少しくらい励ましてくれたっていいのに。ひどい言葉にへそを曲げて通話を終わらせようとすると、受話口から「待ってくれ」と聞こえてきた。私は少しだけ逡巡した後、小さな溜め息を吐きながら、お腹の前まで下げてしまっていたスマホを持ち直して耳元へと戻した。
「な、あ、に?」
「怒ってるのか?」
「怒ってないように聞こえるの?」
「……いや。悪かった」
「別に悪いなんて思っていないくせに」
 私が不満を含んだ声を出すと、従兄さんは「そんなことはない」と否定してきた。
「本当に?」
「本当だ。お前が進学を望んでいるなら、応援してやりたい」
 従兄さんはそう言ってから、「お前の都合がよければ今度の日曜日に勉強を見てやる」と提案してきた。

 従兄さんはああ見えて勉強が出来る。テストの結果はいつも八十五点以上で、勉強で困ったことはなかったらしい。
 いわく「子供の頃から毎日勉強していたら自然とそうなった」のだそうだ。テスト前でもないのに、毎日やるってこと自体がハードルが高すぎる気がするんですけど。

 田舎の中学生が地元で真ん中レベルの公立校に合格するのは、それほど難儀なことではない……はず。だから、従兄さんに教えてもらわなきゃいけないほど切羽詰まってはいない気はする。塾にも通っている身だし。
 だけど、まあ、教えてもらえるなら……と思いながら壁に掛けてあるカレンダーを見たら、ちょうどその日は塾で模試が行われる日だった。
「ごめんね、たけし従兄さん。その日は塾で模試があるの」
 そう言って断ると、従兄さんは少し残念そうな声を出した。あ、もしかして。
「ねえ、ひょっとして……私に会いたいの? 私に会いたいから、勉強を見てくれるって言ったの?」
 これが私の勘違いだったら大分恥ずかしいから、少しだけ冗談めかしながら訊ねた。すると従兄さんは躊躇いなく私の言葉を肯定した。
「ああ、椿に会いたい」
 耳から入ってきた言葉に、頬がじわじわと熱くなっていく。さらには落ち着きもなくなってしまって、狭い部屋の中を行ったり来たりしてしまった。
「あ、あの、うん。私も、会いたい。従兄さんに会いたい」
 会いたいと言ってくれたことが嬉しくて、私は素直にそう言った。……勉強を教えるという理由で私に会おうとしたのは、ちょっと卑怯な気がするけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...