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受験生
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それから、約二か月の時間が過ぎた。
私と従兄さんの交際は、とりあえず順調に行っているのだと思う。従兄さんは「触らないで」って言えば身体に触って来ないし、キスをする時もちゃんと事前に言ってくれるようになった。
とは言え、最近はあまり会っていないんだけど。
その理由は私の高校受験だ。受験生である私は、従兄さんと恋愛ばかりしている暇はない。勉強は得意な方な訳じゃないから、ちゃんと勉強しないと試験に受からなくなっちゃう。実は二年生になってからは、週二日だけだけど、学習塾にも通っていたりする。
私が合格を目指している久川高校はここら辺ではあまりレベルが高くない……んだけど、勉強しないで受かるほど、高校受験は甘くはない。たぶん。だからそれなりに頑張ってはいるんだけどーーはあ、疲れる。やっぱり勉強は苦手。
夕食後の食器洗いを終えて自室に戻ったら、それを見計らったかのように従兄さんから電話が掛かってきた。机の上のスマホスタンドに立てかけてあるスマホを慌てて手にとって、通話ボタンをタップする。元気かと問われて、受験のせいでナーバスになっていることを正直に話したら、こう言われた。
「もし受験に落ちたら、俺と結婚すればいい」
私のやる気をなくさせようとする邪な発言。
悪だ。受験生に試験に落ちた場合の話をするなんて、紛れもない悪人だ。
「どうしてそんなこと言うの。従兄さんなんか嫌い」
彼氏なら、苦手な勉強を頑張っている彼女のことを少しくらい励ましてくれたっていいのに。ひどい言葉にへそを曲げて通話を終わらせようとすると、受話口から「待ってくれ」と聞こえてきた。私は少しだけ逡巡した後、小さな溜め息を吐きながら、お腹の前まで下げてしまっていたスマホを持ち直して耳元へと戻した。
「な、あ、に?」
「怒ってるのか?」
「怒ってないように聞こえるの?」
「……いや。悪かった」
「別に悪いなんて思っていないくせに」
私が不満を含んだ声を出すと、従兄さんは「そんなことはない」と否定してきた。
「本当に?」
「本当だ。お前が進学を望んでいるなら、応援してやりたい」
従兄さんはそう言ってから、「お前の都合がよければ今度の日曜日に勉強を見てやる」と提案してきた。
従兄さんはああ見えて勉強が出来る。テストの結果はいつも八十五点以上で、勉強で困ったことはなかったらしい。
いわく「子供の頃から毎日勉強していたら自然とそうなった」のだそうだ。テスト前でもないのに、毎日やるってこと自体がハードルが高すぎる気がするんですけど。
田舎の中学生が地元で真ん中レベルの公立校に合格するのは、それほど難儀なことではない……はず。だから、従兄さんに教えてもらわなきゃいけないほど切羽詰まってはいない気はする。塾にも通っている身だし。
だけど、まあ、教えてもらえるなら……と思いながら壁に掛けてあるカレンダーを見たら、ちょうどその日は塾で模試が行われる日だった。
「ごめんね、猛従兄さん。その日は塾で模試があるの」
そう言って断ると、従兄さんは少し残念そうな声を出した。あ、もしかして。
「ねえ、ひょっとして……私に会いたいの? 私に会いたいから、勉強を見てくれるって言ったの?」
これが私の勘違いだったら大分恥ずかしいから、少しだけ冗談めかしながら訊ねた。すると従兄さんは躊躇いなく私の言葉を肯定した。
「ああ、椿に会いたい」
耳から入ってきた言葉に、頬がじわじわと熱くなっていく。さらには落ち着きもなくなってしまって、狭い部屋の中を行ったり来たりしてしまった。
「あ、あの、うん。私も、会いたい。従兄さんに会いたい」
会いたいと言ってくれたことが嬉しくて、私は素直にそう言った。……勉強を教えるという理由で私に会おうとしたのは、ちょっと卑怯な気がするけど。
私と従兄さんの交際は、とりあえず順調に行っているのだと思う。従兄さんは「触らないで」って言えば身体に触って来ないし、キスをする時もちゃんと事前に言ってくれるようになった。
とは言え、最近はあまり会っていないんだけど。
その理由は私の高校受験だ。受験生である私は、従兄さんと恋愛ばかりしている暇はない。勉強は得意な方な訳じゃないから、ちゃんと勉強しないと試験に受からなくなっちゃう。実は二年生になってからは、週二日だけだけど、学習塾にも通っていたりする。
私が合格を目指している久川高校はここら辺ではあまりレベルが高くない……んだけど、勉強しないで受かるほど、高校受験は甘くはない。たぶん。だからそれなりに頑張ってはいるんだけどーーはあ、疲れる。やっぱり勉強は苦手。
夕食後の食器洗いを終えて自室に戻ったら、それを見計らったかのように従兄さんから電話が掛かってきた。机の上のスマホスタンドに立てかけてあるスマホを慌てて手にとって、通話ボタンをタップする。元気かと問われて、受験のせいでナーバスになっていることを正直に話したら、こう言われた。
「もし受験に落ちたら、俺と結婚すればいい」
私のやる気をなくさせようとする邪な発言。
悪だ。受験生に試験に落ちた場合の話をするなんて、紛れもない悪人だ。
「どうしてそんなこと言うの。従兄さんなんか嫌い」
彼氏なら、苦手な勉強を頑張っている彼女のことを少しくらい励ましてくれたっていいのに。ひどい言葉にへそを曲げて通話を終わらせようとすると、受話口から「待ってくれ」と聞こえてきた。私は少しだけ逡巡した後、小さな溜め息を吐きながら、お腹の前まで下げてしまっていたスマホを持ち直して耳元へと戻した。
「な、あ、に?」
「怒ってるのか?」
「怒ってないように聞こえるの?」
「……いや。悪かった」
「別に悪いなんて思っていないくせに」
私が不満を含んだ声を出すと、従兄さんは「そんなことはない」と否定してきた。
「本当に?」
「本当だ。お前が進学を望んでいるなら、応援してやりたい」
従兄さんはそう言ってから、「お前の都合がよければ今度の日曜日に勉強を見てやる」と提案してきた。
従兄さんはああ見えて勉強が出来る。テストの結果はいつも八十五点以上で、勉強で困ったことはなかったらしい。
いわく「子供の頃から毎日勉強していたら自然とそうなった」のだそうだ。テスト前でもないのに、毎日やるってこと自体がハードルが高すぎる気がするんですけど。
田舎の中学生が地元で真ん中レベルの公立校に合格するのは、それほど難儀なことではない……はず。だから、従兄さんに教えてもらわなきゃいけないほど切羽詰まってはいない気はする。塾にも通っている身だし。
だけど、まあ、教えてもらえるなら……と思いながら壁に掛けてあるカレンダーを見たら、ちょうどその日は塾で模試が行われる日だった。
「ごめんね、猛従兄さん。その日は塾で模試があるの」
そう言って断ると、従兄さんは少し残念そうな声を出した。あ、もしかして。
「ねえ、ひょっとして……私に会いたいの? 私に会いたいから、勉強を見てくれるって言ったの?」
これが私の勘違いだったら大分恥ずかしいから、少しだけ冗談めかしながら訊ねた。すると従兄さんは躊躇いなく私の言葉を肯定した。
「ああ、椿に会いたい」
耳から入ってきた言葉に、頬がじわじわと熱くなっていく。さらには落ち着きもなくなってしまって、狭い部屋の中を行ったり来たりしてしまった。
「あ、あの、うん。私も、会いたい。従兄さんに会いたい」
会いたいと言ってくれたことが嬉しくて、私は素直にそう言った。……勉強を教えるという理由で私に会おうとしたのは、ちょっと卑怯な気がするけど。
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